5 完璧すぎる王子妃…?
ミリフィーナ、尾行がバレるの回。
ミリフィーナとは、公務以外は全くと言って良いほど交流がない。私にも自由時間が出来るくらいだ。彼女にもそうした自由な時間もあるはずだ。
最初は、政務中に突然現れてアプローチという名の邪魔をしてきたり、お茶会に誘ってきたりするものだと思って警戒していたが1度としてそんなことは起きなかった。
……では、その時間は何をしているのか。
今までは気にしたこともなかったが、あの日以来、そんな些細なことが引っ掛かり確認してみると気掛かりなことがわかった。
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「………侍女と王宮を探索するのに、数ヶ月もかかると思うか………?」
「はいぃ?」
間抜けな返事が返ってきた。…思うが最近のダイアンはたまに私が王子であることを、忘れていないか…?いや、私がそれを許しているのだから良いのだが。
「え~と。ちなみに聞きますが、それはどなたのことで?」
「ミリフィーナのことだ」
「ですよねぇ……」
何か知っているのか、反応がおかしい。
「ダイア…」
「その情報は、どなた情報です?」
誤魔化された、か?
「……ミリフィーナの侍女や護衛騎士達だ」
「なるほど」
何がなるほどだ。知っているのならさっさと話せ。
私がジト目で睨んでいると、またいつもの呆れ顔で肩を叩かれる。
「ま、頑張れ……と、言いたいところだが。
鈍いライにヒントをあげよう」
「おい」
「その自由時間とやらによぉ~く周囲を観察してみるといい。俺と何年も鍛練してきたんだ。きっとわかると思うぞ?」
それは………どういう意味だ?
訳がわからなかったが、教える気のない様子に、素直に引き下がることにした。次の機会に確認してみればいい。そう思って。
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「おい………あれはどういうことだ」
「どういうも……見たままじゃない?」
見たままって………。
ダイアンとの稽古日の今日。ちょうどその時間帯とミリフィーナの自由時間が被る日だったため、打ち合い稽古の休憩時間に様子を探りに行こうとしていた。が、妙な気配を感じ周囲の様子を注意深く観察してみた。
そうすると、すぐに気付くことが出来た。…というより、今まで気付かなかったのが不思議なくらい私の目線の先にはミリフィーナがいた。
ーいや………この表現は正しくない。
ミリフィーナの視線の先に、私がいるのだ。
「ミリフィーナは私の妻だろう。
何故影に隠れながら私を見る必要がある」
「まぁ、そういうことなんじゃないか?」
イラッときた。
言葉遊びのように埒が明かない。そういうことがどういうことなのか、それがわからないから聞いているというのに……っ。
「……はぁ………ライ。
俺はその答えを知っている。どういう目的で何がしたいのか。
…だがな、それを俺が口で説明したんじゃ意味がない。
これは、お前が自分で理解して初めて意味のあるものになるんだ」
「………」
やはり、ダイアンは事情を知っていた。知った上で放置していたのなら、間諜や危害を加えるつもりはないということだ。
その上で、私自身に考えろという。
私はその言葉をゆっくり噛み締め頷いた。
…こういう時、ダイアンには敵わないと思う。力だけでなく、物事を俯瞰してみられる力を持っている。だからこそ、手離せないのだが。
5才しか違わないというのにこの差はなんだ。男として負けているようで悔しいと僅かに胸が疼く。
……ミリフィーナも、ダイアンのように大人な男が好きなのだろうか。だから、見ていた………?
建物の影に潜むミリフィーナをじっと見つめていると、目があった。その瞬間、頬を赤らめ駆け足で立ち去ってしまった。
「……あっ……」
声を掛けて
どうするというのだ。
咄嗟に追い掛けようとした足は止まり、動かない。
ダイアンが好きなのか。だから、私との結婚に不満を感じていないのか。
『側にいられたらそれで良い』とは、誰の側にいたらという意味だったのか………。
その考えがぐるぐると脳内を巡り、私は心の中に靄がかかったような不快な感情になったのだった。