3 政略結婚の仮初の妻
気付けば20才になっていた。
兄も成人したタイミングで王太子となり、結婚。数年前には跡取りの息子も産まれている。王位を継ぐのはまだ先の事だが、王の政務の一部は既に兄が担っている。
それでも私を次代の王へと担ぎ上げる者はまだ一定数いる。
男色家(事実ではない)だということ以外は能力に不足がなく、なにより見目麗しい第2王子と縁を繋げたいと思う者をどうするべきかと考えていた時に、王命がくだされた。
『公爵令嬢を娶れ』
最初は正妃の身内の者だと思っていた。
だがよくよく話を聞いてみれば、財務を司る部署の長を務める公爵の娘だという。公爵はとても評判は良く、好感を持てる人物だと記憶している。なのに娘に関してあまり記憶にない。会っている筈だが、女性はどれも同じに見えてしまう為、良く覚えていない。きっとその娘も今までの貴族令嬢と大して変わらないだろう。
何より、私は愛だとか恋だとかそういうものが信じられないし、したいとも思わない。その令嬢には悪いが、形だけの仮初の妻になる他ないだろう。
醜聞にならない範囲なら、他の者と逢瀬をかわしても構わないが、白い結婚であることを証明し1年後に離縁した方がその女性の為になる気がする。
……それは追々話をしてみるか。
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「少々変わったところのある娘ですが、どうぞ宜しくお願い致します。殿下の足を引っ張るようなことはないかと思いますが、気になることがあれば遠慮せず止めてください!」
「は、はぁ、わかりました。心に留めておきます」
公爵の言葉の意味を全て理解は出来なかったが、あまりの気迫に思わず頷いてしまった。少なくとも、今までの令嬢のように無理矢理迫ってきたり、能力もないのに妃候補にと言い出す者と同類であれば遠慮せず止めて良いということだろう。
本来なら交流の場をもっと持つべきだったと思う。
けれど、のらりくらりとお茶会を避け、必要最低限のみの交流を経て婚姻に至った。
義務的な誓いのキスを済ませて。
『君を愛することはない』
ーそう初夜で告げたのだ。
怒るか、それとも媚びるのか。
さぁ、私の仮初の妻は何を思うのか。
その時初めてまともに見たミリフィーナは呆然としたあと、俯き肩を震わせた。
あぁ、これは泣き出すパターンか。
面倒な……。そう思った私は次の瞬間不意を突かれた。
「貴方の傍にいられるだけで十分ですわ」
そう言って目の前の令嬢は、淑女の微笑みを浮かべた。
その瞳はいっさいの情欲を感じさせないもので、私は困惑した。
「…そ、そうか。」
ただそれだけしか言えなかった。
そのまま淡々と寝る準備を始めた彼女は私にベッドは共に使うかどうか尋ね、自室に戻ると告げればお気をつけてお帰りくださいと笑顔で見送られた。
ーーわからない。彼女が何を考え、何をしたいのか。
この日、初めて私は仮初の妻の存在が気になったのだった。
ちょっと短めですが、キリが良いところで終わり。次回からいよいよミリフィーナ、動き出します。ついでにライオネルも動きます。