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2 トラウマになった日

直接的な表現はありませんが、濡れ場(一方的)があります。

苦手な方はご注意下さい。

閨教育は、実践はないと聞いていた。

経験のある大人の女性に、軽い触れ合いで女性の身体の仕組みについて学ぶのだと言っていた。


「ふふ、本当に素敵な方。

わたくしが、全て手取り足取り教えて差し上げますわ」

「…やめ……ろ…っさわるな……っ!!」


直前に飲んだものに何か入れられていたのだろう。…あの侍女も仲間だったのか。身体が上手く動かない。身体が熱い。


「そんなこと仰らないで…?

女性の身体は素晴らしいのですよ…その身を委ねて気持ち良くなって下さいませ」

「い…やだ……っ」


情欲の瞳だ。今まで見てきた令嬢たちと同じ……いや、それ以上に狂っている。でなければ、王族に対してこんな愚かなことは出来はしないだろう。


私は逃げ出す隙を窺っていた。出来れば大きな騒ぎにはしたくない。また兄に迷惑を掛けてしまうから。

ーけれど。その言葉に血が上った。


「殿下の御子を孕んだら、妾にして下さいますか…?

わたくし……殿下のこと愛しているのです……」


「う…ぁあああ……っ!!!!」

「きゃあああああっっっ」


私の叫びと女の叫びが重なった。

私が護身用に枕元に潜ませていた短剣で押さえ付けられていた腕を切った。ベッドの下に転げ落ち、腕を押さえながら女は痛い痛いと叫んでいた。

……私はその光景を冷めた目で見下ろした。


叫び声で異常を察した近衛騎士が駆けつけ、女は取り押さえられた。この先に待つのは私の妾ではない。地獄への道だ。



『愛しているのです』



「はは……愛など………この世で一番信用できない言葉だ……」


私の身体は限界だった。兄が侍医を連れて部屋に飛び込んできたのを最後の記憶に意識を飛ばした。

薬に対抗するため握りしめていた手のひらは真っ赤な血が滲んでいた。


**********


「私を鍛え直して欲しい」

「ライオネル殿下…」

「ライ、で良いと言っているだろう?」


私の専属騎士ダイアン。父親は騎士団長をしている。本人は次男だから、跡を継ぐ予定はないと言って私の専属に志願してくれたが、その腕は確かだ。神童と言われる程、武術に長けているのは知っている。


「……ライ。今でも十分強いと思うが?

これ以上鍛えて騎士にでもなるつもりか」

「…あぁ、それも良いかもしれないね」

「冗談だっつーの!!ライは確かに素質はある。それも、物凄く…な。でも、それ以上に頭も良い。騎士になるより、それを活かす道の方が向いてると思うぞ?」


幼少期からの付き合いのダイアンは、幼馴染みとして気安く接してくれる貴重な1人だ。武術一筋でやってきた男だが、脳筋というわけではない。


「……わかっている。私も本気で騎士になるつもりはないよ。

ただ、もう今回のようなことが起きないよう、もっと強くなりたいんだ」


「……ライ……」


ダイアンは表情を曇らせた後、サッとしゃがみ土下座でもするのかという程低姿勢で頭を下げた。


「守れなくて…申し訳ありませんでした……っ!!!!」

「!!やめろ、ダイアン。その件はもう終わった事だ。

お前からの謝罪も必要ない」


あの日の夜はダイアンは非番だった。

それも事前に把握した上での計画的な犯行だったのだ。


捕まった未亡人の女は伯爵夫人で、私の侍女は伯爵家に連なる家系の男爵家の人間だった。家族を人質に脅されていたようだ。

20才とやたら若い未亡人だと思っていたが、今、伯爵殺害の容疑も掛けられているらしい。

女の実家は辺境近くにある男爵家で商会を持つ成り上がり貴族の出だ。薬関係の売買も盛んでその伝手で今回の薬を手に入れたようだ。


その理由は、『私』。



どこかで私を見初めたらしく、婚約者(後の夫)がいるにも関わらず、私の妾にと狙っていたらしい。政略結婚をしたものの諦めきれず、毒殺とわからぬよう少しずつ少しずつ身体が悪くなるように食事に毒をいれていた可能性が高く現在調査中だ。ほぼ証拠は揃っているらしく、男爵家もろとも断罪されることは確実視されている。


「謝罪よりも、力を貸してくれないか。

私は心身ともに強くなりたい」

「………仕方ないですね。そこまで言うなら、覚悟してくださいよ?俺はそんなに優しくないんで」


呆れたような困ったような表情を浮かべ、ダイアンはあえて軽口を叩いて承諾してくれた。


ー今の私は女性が全く信用できない。かといって身の回りのことを全て近衛に任せることは出来ない。今いる侍女は昔から仕えてくれている年配の女性以外は入れ換えが激しい。どんなに厳選して雇っても、不埒な考えで近付くものが後を立たないからだ。


それからの私は、第2王子としての教育の傍らダイアンとの武術の鍛練に明け暮れた。女性を寄せ付けず、婚約者も作らず笑い掛けることもなく。あからさまな愛想笑いでも近付いてくる令嬢がいるのだから、必然的に笑えなくなった。

だから、近衛や侍従など男とばかり一緒に過ごした。




そのせいで、()()噂が流れていることには気付いていた。私はこれ幸いとその噂をあえて消さなかった。



「ライオネル殿下は男色家である」




この噂を後悔する日が来るなんて、この時の私は思いもしなかったのだ。





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