1 私の幼少期
初っぱなからめちゃくちゃどシリアスです。
タイトル回収まで今しばらくお待ちください。
私は王命で、やむなく結婚をした。
ミリフィーナ・エージレンス公爵令嬢。
それが私の妃の名であり、仮初の妻の名だった。
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私は第2王子としてこの世に産まれた。
名はライオネル。側妃である侯爵令嬢の第一子として産まれた。
正妃との間には既に3歳の第1王子が産まれている。
権力争いが起こるだろうことは誰もが想像できることだった。
私の母は絶世の美女と世間で言われる程に美しく、多くの求婚者が後を立たなかった。それは父である現王(当時は王太子)も例に漏れず。
婚約者の公爵令嬢がいながら、母に懸想していた。
そうして、権力に物を言わせて第2妃として迎え入れたのだ。
当然のことながら正妃からは疎まれた。
何故ならあからさまに溺愛していたから。
正妃は子を身籠り後継ぎの男児を産んだけれど、それ以降寝屋を共にすることはほぼなく。母の元へ足繁く通い程なく妊娠。ライオネルを産み落とした。
光り輝く銀髪とアメジストのように光る美しい紫の瞳は母と瓜二つだった。
―誰もが危惧した。
溺愛のあまり、王位を第2王子に譲るのではないかと。
だが、王にとって愛しいのは第2妃だったようで、子供を贔屓することがなかったことは不幸中の幸いだった。
だが、大きな問題が1つあった。
母親の魅了の力ともいうべきその容姿を私がそのまま受け継いでしまったことだ。
始めにそれが起きたのは5才の時に開かれたガーデンパーティーだった。
今回の集まりは高位貴族の交流を目的にしているという建前で兄の婚約者候補との顔合わせの意味合いがあった。
5才になったライオネルの初社交場デビューでもあった。
――その日のことは黒歴史として語り継がれている。
その場にいた殆どの令嬢が、ライオネルの容姿に見惚れ、第1王子そっちのけでアピールし始めたのだ。
幼少期からやたら侍女に構われているような気はしていたけれど、気のせいだと思っていた。…否、思いたかった。
それが気のせいではなかったと思わせるには十分な体験だった。
兄用に用意された令嬢は皆年上で、10才前後の令嬢は5才の少年には力でも言葉でも叶わなく、ベタベタと接触され可愛い綺麗だと初めて会ったのにも関わらず婚約者にしてくれと皆が皆ギラギラとした眼差しで迫ってきて、許容範囲を越えた私は意識を失った。
結果的に、私に惑わされずに粛々と言葉を交わし交流をした伯爵令嬢が兄の婚約者に選ばれた。
王族の婚約者として身分的には些か低かったものの、このお茶会の様子を見聞きした正妃が大層腹を立て、実家の公爵家が後ろ楯になったそうだ。
それ以降、私は女難としか言いようがない被害に度々遭うことになる。
ガーデンパーティーの時に出会った令嬢方はその後もしつこく婚約者にと書状を送り付け、面会の希望が後を立たない。社交場に赴けば、望んでもいないのに令嬢に囲まれる。処世術を少しずつ身に付けなんとか躱しているものの、無許可で会いに来る者もいる。
令嬢の中には、父親の命令で第2王子妃を狙っているものもいる
のだろう。母が溺愛されていることで私が次の王太子になることを望む声も耳にする。
………そんなもの、私は望んでもいないのに………
兄上には申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
母が側妃にならなければこんなことにならなかった。
…いや、私が産まれなければ………。
聡明な兄はこんな迷惑でしかない私のことも可愛がってくれた。「大切な弟だよ」と言って、共に遊び共に学んできた。
正妃に疎まれていることをわかったうえでさりげなくフォローしてくれることもある。
私は兄に、王太子になってこの国を導いて欲しい。
その思いは、ある事件をきっかけにより深く私の胸に刻まれた。
12才の誕生日パーティーの夜。
―私は襲われた。
閨教育の為に呼ばれた未亡人の女に。