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【電子書籍化】 おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……  作者: 松ノ木るな
番外編  巻き込まれるエイリーク様

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67/68

① 試される演技力、度胸、そして……何?

ꕤ。.ご訪問多謝.。ꕤ

ヤマなしオチなしイミなし・ほのぼの番外編です。(2部分・6千字)

(アンジェリカ編・前後章の間に入る、アンジェリカ20歳の初夏の時点でございます)



side:エイリーク


「は? なんで僕がそんなことしなきゃいけないんだ」

「唯一無二の双子の弟を助けると思って」

「お前、ただ面白がってるんだろ」


 まったく、今の僕は溜まった納税報告書に目を通すので忙しいんだ。そこを、急に帰省してきた弟・ジークムントに捕まった。


「だいたい王都に出てまだ半年もたってないってのに、もう逃げ帰ってきたのか?」

「近くに出張に来たからついでに寄っただけだよ。明日には戻る」


 どうやら昨晩、地元(こちら)に着いたその足で、ストラウド邸にいるアンジェリカを訪ねたようだ。


「なのに追い返されたんだ。アポイントがありません!って」

「それはお前が悪い。アポ取ってから行けよ」

「取る時間なかったよ。それにしてもヒドくないか、門前払いって」


 まぁ、エレーゼならそんなことで目くじら立てないけど、アンジェリカじゃなぁ。


「たぶんだけどさ、王都進出に誘った時のこと、まだ根に持ってるんだろうな」


 またこいつ何言ったんだ。


「アンジェリカの機嫌損ない臨界点が分からない。だからエイリーク、俺のフリして彼女に謝ってきてくれ」


「だからなんで僕が!」


「いやなんか俺、彼女にはうまく謝れないみたいなんだ。なぜか火に油を注いでしまう。その点お前は、多方面に頭下げ慣れてるだろ?」

「ダイレクトに失礼だな」


「お前なら事務的に謝れるだろうと思ってさ。その様子を客観的に見ていたい」


「その誠意のなさが彼女の機嫌を損ねてるんじゃないか?」


「誠意も何も、俺は別に何も悪いことしてないし言ってない」


 …………。揃いも揃って面倒くさいな。しかしジークムントはもっと器用に人付き合いしていたはずだが。


 僕は今、1歳になった娘・エレノーラの顔もゆっくり見れないほど忙しいんだ。ため息が出る。


「これ、やるから」

「?」


 ジークムントが手荷物から厚紙を取り出した。


「……。そ、それは!」


 湖畔に佇む水車小屋の描かれた色紙。その繊細な色使い、軽やかで叙情的なタッチは……。


「お前の推し画家5本の指に入る、ヴィンセント・ミューシャの署名付き絵画色紙だ!」


「な、なんでこんなプレミア物を!」


「彼のお母上を診たことが縁で、描きおろしてくれたんだ」

「ご、ご本人から直接!? 非売品だと!?」

「ああ。王都にいると、著名人と知り合う機会が結構あってさ」


 うわあああ手から喉が出るくらい欲しい~~!!


「さぁ、ストラウド邸に行こう」

 ジークムントが僕の肩に手を回した。


「アンジェリカなら、今朝ノエラ邸(ここ)に来ていたぞ」

「ん。なら手っ取り早い。ほら、俺のタイ締めて」


 はぁ。ジークムントを装って頭下げたら、さっと逃げよう……。




 書斎にやってきた。

 今朝のアンジェリカは、エレノーラに読み聞かせる絵本を大量入手したとやってきたから、そろそろブランチを終えて書斎(ここ)にしまいに来るはずだ。


「じゃあ俺はこの机の下に隠れているから」


 僕はいったん廊下に出て、彼女の訪れを見張っているか。



**


 書斎の入口を覗ける廊下の陰で待機中だ。

 ジークムントのフリをするのは久しぶりだな。


 子どもの頃、弟に劣等感を募らせていた僕は、無益な悪戯を実行していた。パーティー会場に着いたなら同年代の子らの輪に、ジークムントのフリをして入っていく。そしてヴァイオリンを披露したりしたんだ。するとみんな面白いほどに騙されてさ。


 まぁ種明かしもなしにその場を立ち去って、その後ジークムントが現れると僕はまた、「じゃない方」になっていたけれど。


 そんなわけでわりと自信はあるが、大人になってからの(あいつ)は分からないな。

 だいたい、なんでそんなにアンジェリカをかまいたがるんだ?


 あ、彼女がやってきた。使用人にたくさんの本を運ばせている。



 ふたりの入室後、すぐに使用人は書斎から出ていった。じゃあ行くか。


 まずアポイントなしで訪ねたことを謝って、しかし門前払いは堪えたと白状すればいいだろう。本人はそれも殊勝に言えないのだから。


 多少の緊張感をはらみつつ、ドアをノックする。

「はい、どなた?」

「あ──。ジークムントだけど」

 すぐにドアが開いた。


「…………」

「君がここにいると聞いて。ちょっといいか?」

「……どうぞ」


 僕の顔をまじまじと見つめたアンジェリカだが、疑いの目ではない。ジークムントが帰ってきていることも知ってるしな。

 彼女は椅子に腰かけて、書棚から選んだ詩集を見ていたようだ。


 よし早速。

「ごめん!!」

 まったく頭を下げ慣れている自分を感じる。明らかにシャルロッテのせいだ。


「な、なんですか藪から棒に」

「機嫌を直してくれ!」

「は、はぁ? 機嫌?」


「俺に何か落ち度があったから、昨晩会ってくれなかったんだろ? もしかして王都に出る前に言ったことで、とか……」


「……いえ。単に、急にいらしていただいても、人前に出る準備などが」


 顔を逸らしつつもチラリと彼女の顔を目にしたら、どうも照れているようだ。あれ、こんな表情、この子にあったっけな。


「そんなの適当でいいよ」

「…………」

 じろっと睨まれた。余計なことは言わない方がいいか。


「ジークムント様」

「はっ、はい!」

「私、エレノーラにと絵本をたくさん集めましたの。その机にあるものですが」


 ジークムントが隠れている机の上に、山積みの本。

「ずいぶん多いな」

「ひもでくくってありますので、全部ほどいて、棚にしまっていただけませんか?」


 これぐらいの手伝いで機嫌を直してもらえるなら、お安い御用か。

 僕は机のペン立てに刺されたナイフを、この手に持った。




 それからアンジェリカの喋りに耳を傾けながら作業を進めている。当の彼女は座って詩集を読んでいるだけだが。


「この度はどうして?」

「出張で近くまで来てさ、2日余ったから寄ったんだよ」

「ストラウドになんて寄らず、まっすぐノエラに帰ってくれば良かったのでは」

 アンジェリカ、やっぱり照れてるのか? ぷいっと目を逸らした。


「いや、通り道だったから」

「……そうですか」


 あ、露骨に白けた顔になった。


 頼むよ、君の機嫌が直らないと報酬がパァになるんだよ。


 何かご令嬢が喜びそうなこと言わなくては!


 これがエレーゼだったら……


「いちばんにっ、君に会いたかったから!」


 ……“エイリーク様ってば♡ もう♡” ってモゾモゾするエレーゼが思い浮かぶよ。


「…………」


 ん、ダメか?


「ジークムント様」

「はい……」


「私のつま先に、キスして」


「……は??」


 椅子に腰掛けたまま彼女は、右足を前にずらした。


「ほら。この間、おっしゃったじゃないですか」

「?」


「王都の若者の間では、つま先へのキスで永遠の友情を示すことが流行ってるって」


 へ、へぇ!??


「この間はしてくださいましたのに。憶えていませんの?」

「ええ!? そ、そうだったかなぁ!?」

 声が上擦ってしまった。


「あなたの友情もその程度ということですわね……」

「い、いやぁ……」


 なにそれ!? 都の若者ってそんなことしてるのか!? 友情なのそれ、なんか重くない!?


 しかし、とにかく、この場をうまく収めるには……


「ここで……、それをしたら、機嫌を直してくれる?」

「……機嫌、機嫌って。別に私、通常の気分ですが」


 自覚ないのか!


「まぁ、してくれましたら、以降門前払いは決していたしません」

 今度はにっこり微笑まれた。


 …………。仕方ない。ごめんエレーゼ、報酬のためだから!! なんなら君に何倍ものキスを捧げよう!!


 僕はため息交じりに、彼女の足元へと踏み込むのだった。


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【電子書籍】『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

― 新着の感想 ―
[良い点] アンジェリカ編 前章・後章を読んでいて 「こ、この二人はぁ〜〜〜っ!!」 と思っていましたが、改めて立場を変えて読むと兄貴も大概だった件。 この兄弟はぁ〜〜〜っ!!
2023/06/13 07:23 退会済み
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