表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/68

⑤ 人はそれを美しい魔女と呼ぶ

 彼の唐突な申し出により、私は我に返った。多少落ち着き、ベッドの隅に大人しく腰掛ける。


「本当に申し訳なかった。彼女、シャルロッテは気ままで押しが強く、行動力の塊のような人なんだ」

 厨房ジャックするくらいですから、言われるまでもなく分かります。


「あの用意された料理、私も少し頂いたのだが、とても美味しかった。君が作ったものだろう?」

 え、確か倒れる前に、お父様に伝言を頼んだはずなのに。おかしいな。私はしらっと彼から目を逸らした。


「父君はあのようにおっしゃっていたが、シャルロッテがあれほどうまく作れるわけないし、彼女がすべて白状したよ」

 やっぱりバレていたのか。


「確かに彼女は、積極性の権化のような方でありましょうが、それを含めて美しいお方だと思いました。あのように愛情深い方に思われて、お幸せですね」

「そうなんだ」


 うわぁ、ずいぶん明け透けな笑顔……。


「彼女をよく分かってくれて嬉しいよ」

 よく分かってもこの見合いはなかったことになるし、もう会うこともありませんが。


「それで、だからこそ、私と結婚して欲しい!」

「は?」

 話に脈絡がない。


「どういうことでしょう?」

「いや私も、こんなことを起こしてどの面下げてと分かってはいるのだが、母が君を全力で勧めるものだから……」


「…………?」

 ちょっと待て。今、関係者ひとり急に増えましたね?


「この見合いに乗り気だったのはお母様でしたの?」

「まぁ、今度こそ僕が……あ、私が、見合い相手をお持ち帰りしてくるようにと、気合を入れて昼前からマグロをさばいていたらしいが……」

 ルーベル地方では、今マグロがブームなの?


「今となっては、ぜひ君に!と、彼女たっての願いなんだ。君は信用に足るご令嬢だと、彼女が」

「はぁ? いつどこでお母様があなたに私を勧めたんですか! だいたい、結婚は信用に足る人とではなく、愛する人とするものでしょう?」

「愛する人?」

「シャルロッテ様とか」

「は? いや彼女とは結婚できないし」

「まぁ事情がおありなのでしょうけど、それならもう諦めて、彼女にも劣らぬ美しい人を探すとか」

「諦めてって、僕はシャルロッテと別に結婚なんてしたくない。見くびらないでくれ」


 ……見くびる?? なにそれ。ほんとうに不機嫌になってるみたいだけど。


「君も僕のことをそんなふうに見るのか……」

 ものすごく心外だというような顔をして嘆かれている。


「でも誤解だよ。そんな、実の親と結婚したいだなんて、変態もいいところじゃないか!!」

「変態……?」

 その時、ダァン!と激しく扉が開いた。


「シャルロッテ様?」

 驚いた私の目の前で、彼女はエイリーク様に突進し、タイを掴み引っ張りあげた。


「さっきから扉の向こうで聞き耳立てていたら、まったくもう! あなたはご令嬢ひとりスマートに口説けないの!?」


「実の親……?」


「それにエレーゼは変態じゃないわ! ただお父上が大好きというだけよ!」

 私、別に変態って言われてません! ええっと、もう、何が何だか。


「シャルロッテ。盗み聞きしてたのか」

 シャルロッテ様……何か文句ある?という鼻息を。


「でも心配はいらない。僕も腹を決めた。何としてでも今夜、彼女を我が家に案内する。だから別室でゆっくり紅茶でも飲んでいてくれ」

「信じていいのね?」

「ああ」


 ……そして彼女は扉の向こうに。


「そういうわけで、君は母が認めた女性だ。ぜひ、私の妻になってもらえないだろうか!」

「……えええ!? は、母!?」

「母」

 扉の方を指さした私に、彼も扉の方を指さし平然と言った。


「母いくつ!?」

「たしか今年37だったかな」

「怖っ! 10以上若く見えます!!」

「まぁ、見目はすばらしく可憐だからな……」


「え、じゃあ、ちょっと待って。金時計に母の肖像画って!」

「何か? というか何で君が知ってるんだ」

「変態じゃないですか!」

「変態とは失礼だな。母親を愛しく思わない人間はいないだろう? 愛しい家族の肖像画を持ち運んで何が悪い」

 開き直った!


「それに、さっきシャルロッテから聞いたよ。君も、父君を深く愛しているのだろう?」

 貴族が実母を呼び捨てにしないでください。


「君は父君と片時も離れたくないから、この縁談も断るつもりなのだろう!?」

 父が好きなのも断るつもりなのも事実だけれど、その表現ではまるで私が父と結婚したい変態みたいではないか。


「私たちは同士だ。結婚に乗り気でないのに、外からの圧力で見合いさせられている」

 うん? 彼女は恋人ではなくて、母親……だったのに、乗り気でない?


「あなたもお母様と一緒にいたくて?」

「いや、決してそういう理由では。まぁ、いろいろと心配な親なので見張っていないと……。でも、そういうことではなくて!」

 ジトっとした視線を投げかけてやる。


「人付き合いは苦手だ。自由でいたい。しかし私は家の嫡子。はじめはその運命に従い、然るべき御家のご令嬢に結婚を申し込んだ。だが断られ続けた」


 どうして断られたのだろう?


「断られ続けフテ腐れた私は、もう今回はこちらから断ろうと思ってやってきた」


 確かに同じだ。私も正直、相手から断られたら楽だと思う反面、自身が否定されることで神経がすり減っていくのを実感している。


「それでもやはり妻帯しないわけにいかない。頭を抱え続けることになる」

 そうそう。私もひとりで生きていく決意は固いのだけど、適齢期を抜けるまでは周囲もうるさくて、大事なことに集中できないのよね。


「で、思ったのだ。母も大いに気に入った、君の望みをできるだけ叶えることで、こちらの要望を受け入れてもらおうと」

「はぁ……」


「君は我がノエラ家に嫁いできても、ご実家でそのまま暮らしてくれて構わない!」

「えっ?」

 そんなウマい話があるのですか??


「その代わり2日おきに我が家に通って、シャルロッテの外出なり食事なりに付き合ってほしいんだ!」


 ご令嬢方に断られた原因、それか――――!!!




お読みくださいましてありがとうございます。

ブクマ、評価、感想ダメ出しなど、励みにさせていただきます。(拝)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


【電子書籍】『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


labelsite_bloom_shish.png

しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

― 新着の感想 ―
[良い点] 若い⋯⋯味覚音痴⋯⋯ 謎ジャムをおもいだすなあ⋯⋯ [気になる点] 実の母親を名前で呼んじゃう系のマザコンはちょっとw [一言] お父さん大好きなエレーゼとなんも変わらんハズなのにこの印象…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ