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【電子書籍化】 おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……  作者: 松ノ木るな
最終話 おひとりさまを目指すなら、まず……

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エピローグ

 聖堂出口の扉が開く。腕を組み、ゆっくりと歩む私たち。向かう先は真っ白な輝き、六角形の光。


「まぁ、なんてきららかで美しい新郎新婦!」

「純白のドレスがとてもお似合いの花嫁さまだわ」

 まぶしい屋外に踏み出すと、青天のもと、階段下に集う人々の祝福と喝采を受け、私は手を振り感謝の笑顔を返した。

 そしてふたりで謝辞を述べた後、世話係の方が、巷で人気の小イベントを提案してきた。


「後ろを向いて、ゲストの方に向かってブーケを投げればいいのね?」

 それを受け取った人が次に幸せを掴む、というジンクスがあるようだ。

「面白い余興ね」


 待ってましたと、ブーケを受け取らんとする若者らが前方へ出てくる。私は彼らに背を向けた。


「せーのっ!」

 ブーケを白い鳩の舞う空に向かって思いきり手放したら、放物線を描くそれが観衆の元に落ちていくのを目で追った。


「「!?」」

 一層さざめきあうゲストたち。

「んっ?」

 それを受け取ったのは前列の……。


「私のところに落ちてきましたのよ!」

「違うよ、エレーゼが俺をめがけて投げたんだ」


 アンジェリカとジークムント様が同時にキャッチ!? 両者とも譲る気なさそう。


「これを受け取るのは女性であるべきですわっ」

「そんな決まりないだろう? 俺もあやかりたいんだよ」


「ん──?」

 ジークムント様って、こういうとき女性を立てない方だったっけ? まぁいっか。


「エレーゼ」

「はい」

 振り向くと、エイリーク様がこの熱気に充てられたか、少し頬を染めている。


「あのさ、今更だけど。誕生日プレゼントとして欲しいもの、今リクエストしていいかな?」

「ええ……ええ!」

 実は今回の彼の誕生日、結局、君が欲……ごにょごにょ以外引き出せなかったので、「プレゼントリクエスト券、一年間有効」をプレゼントしておいた。


「もう決まったんですか? もっとじっくり考えてもいいんですよ」

 彼はにっこり笑う。


 挙式の緊張から解き放たれた私、改めてまじまじと彼を見ると、白銀の婚礼衣装が本当によく似合う。さすが私の……旦那様。


「ラブレターが欲しいんだ」

「は? ……メッセージカードならちゃんとプレゼントに付けますけど」


「いや、ラブレター。それも、僕が死ぬまで、毎年」

「毎年……」


 頭の中で、ぼんやり思い描く夢々がシャボン玉のように浮かんでくる。だんだん目頭が熱くなって……。


 死ぬまで一緒の約束。結婚したんだから当たり前のこと、だけど、たまらず涙こぼれてくる。


「きっと楽しいことばかりではない。すれ違う日々だってあるだろう。それもふたりで乗り越えて、積み重ねた愛しい日々の総括として、その年その年の、君の素直な思いを綴った手紙が欲しい」


 楽しいだけではない。嬉しいことばかりでもない。でもそれだってきっと、いつか振り返ったら愛しき日々の一幕。


 愛しさにあふれたこの人生を、あなたと生きていく。


「約束します。死ぬまで贈ります。手紙がいっぱいかさばるように、長生きしましょうね!」

「ああ、きっと金婚式を挙げよう」


 あなたのその笑顔が、最高に好き──────。






────その夜、私は彼の隣で夢をみる。


 煌びやかなダンスホール。明るく賑やかな人々の群れに、流れる華麗な音楽。紳士淑女のターンでドレスの羽が舞っている。


「あら」

 そこに佇むのは、10歳くらいの、まだ幼なさ残る私。ひとりぼっちで壁の花。アンジェリカは次々と小公子たちに申し込まれ、フロアでワルツを踊っているのに。


 私もその隣に、一緒に佇んでみる。


「あなたは踊らないの?」

 同じ年頃の子たちのダンスを羨ましそうに見てるのに、こんな問いかけは意地悪ね。


「……こんなにきれいな女の子が大勢いる中で、わざわざ私を選んで誘ってくれる男の子なんていないから。おねえさんも壁の花?」


 小さな私、考えていることはよく分かるわ。「この人もずいぶん地味なドレスを着ているな」よね。これでも今日の昼間はウェディングドレスを着ていたのよっ。


「ひとりもってことはないんじゃない?」

「ひとりもいないわ」

 それはあなたがそんなムスっとした顔でいるからよ。客観視しないと分からないことだったわね。まぁ、でも。


「そんなことない。この広い世界で、君と踊りたい!って人、必ずいる」

「いないわよ! わたし決めたの。お母様がどう言おうと結婚なんかしない。恋もする必要ないし。いいの。お父様とずっと一緒だもん」

 さすが小さくても私は私。着々と頑固者の階段を上っている。


「でもお父様はいつか私を置いて天国にいってしまう。それからひとりで生きていくには……準備しなきゃ。何からすればいいんだろう……」


 この頃から考えていたのよね……。よしよしって撫でて、「気負わなくていいの」って言ってあげたい。


 でも、今思えば楽しかった。必死に頑張ってた時間、悪くなかった。


 それはひとりであってもなくても、これからをずっと生きていく私の力になったのよ。


 ……よぉし。


「ならね、まずは料理よ!」

 年配者として、あなたに授けてあげるわ。


「料理?」

「生活に欠かせないのは、何よりもまず『食』。ひとり暮らしは身体が資本だから。かんたんに手に入れられる食材で、身体を気遣える食事をささっと作れる技能を磨くのよ」


 ほうほう、という顔をする。小さな私は案外素直なのだ。


「厨房で料理人に頼み込んで、しっかり習ってね。手際よく動けるように。レパートリーも増やして」

「分かった。そうしてみる。ありがとうおねえさん」


 きりっとした決意の表情を確認し私は、かのじょの元を去りかけた。


「あ、おねえさん」


 呼び止められ、おもむろに振り向く。ちょうど音楽が鳴りやみ、小さな私の澄んだ声がこう、はっきりと聞こえた。


「あの。あなた、オシャレね。エメラルドのアイシャドウ、涼しげでステキ。それに、キラっとした頬が……恋をしてるみたい!」


「…………」


 私はにっこり微笑んでから、かのじょに小さく手を振った。




────もうあなたは出会ってるのよ。


 最初は包丁で指を切ったり、油がはねたり、痛いことだらけだけど。


 「彼の胃袋をがっつり掴めるように」頑張ってね、あの頃の私!!



 “きっと幸せになれるから。”




               ~FIN~





完結までお付き合いくださいましてありがとうございました!

よろしければブクマ、評価、感想・ダメ出しなど頂けましたら、とても嬉しいです。


この後、番外編が続きます。

そちらもぜひお読みいただけますよう♪(* .ˬ.))


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【電子書籍】『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


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しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは。『お絵かきド素人サンの千里の道も一歩から』から来ました。 「セルフ漫画化の原作を読まねば」「小説作りの参考にしようゲヘヘ」と下心たっぷりで読み始め、キャラクター別の心理描写に…
2023/06/12 20:38 退会済み
管理
[良い点] 完結おめでとうございます! 一人で生きていくために磨いたチカラは、 誰かと生きていく事を彩るチカラにもなるんだって⋯⋯。 いつか『あなた』にも知ってほしい。 [気になる点] アンジェリカ…
[良い点]  二人のエレーゼが出会うエピソード、可愛らしくて良かったです。  お一人様にならないことはわかっていたけれど、お一人様の準備をさせたのですね。その堅実さが、とてもエレーゼらしいなと思いまし…
感想一覧
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