表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】 おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……  作者: 松ノ木るな
最終話 おひとりさまを目指すなら、まず……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/68

⑬ セレモニーの準備してます!

「お姉様、そんな地味なお化粧で新婦が務まりますの?」

「真っ白なドレスに派手な化粧はそぐわないでしょう?」

「いえ、ものは魅せようです。私に任せて。化粧筆はどこ?」


 大聖堂近くの借り部屋で、あと少しで始まろうとする式の準備中だ。メイドたちが入れ替わり立ち代わり、私を私のわりには絢爛けんらんな花嫁に仕立て上げた。アンジェリカも大いに意欲を持って朝早くから付き添い、ここはせわしない女の園。


「外が騒がしいわね」

「子どもたちも大勢参列しますからね。みんなではしゃいでいるのでしょう」

「お父様は?」

「ゲストへの挨拶で忙しくされているようです。そういえばお姉様、今夜からノエラ邸の方へ移るのですよね」

「え、ええ……」

 彼女の言いようは何も含んではいないのだが、気恥ずかしくなって口ごもってしまった。


「あ、でも、お父様とはこれからも一緒よ。お父様の慈善事業グループに私も参入することになったから」


 私は培った医療方面の知識や技能で、お父様や他の方々のサポートをしていくことに決めた。師とも連携して新しい福利事業を起こすことも考案中だ。そしていつかはお父様の跡目として、団体のトップに就任することも視野に入れている。


 自分にできることを、着実に、やりがいを持って暮らしていかないと。ノエラ家に入っても、社交は変わらずシャルロッテ様が主に担っていかれるようだし、エイリーク様の修行は邪魔できないし。


「ああ、そういうところに落ち着きましたの」

「なによもう……。アンジェリカ、あなたが家を出る時まで、どうかお父様をよろしく頼むわね」


 私の頬に粉をはたきながら、アンジェリカは鼻から息を抜いた。


「思いのほか綺麗ですわよ、お姉様。お母様もお空の上で、今日の日を心からお喜びになっていますわ」

「あら、珍しく褒めてくれるのね」

 思いのほかは余計だけど。


「……あなたはお母様が好きだった? その……お母様に不満はなかった?」

「そうですわね……10になる頃には、あまり母親にべったりなのも恥ずかしくて、距離を置き始めた実感もありますわ。お母様、いろいろうるさかったですもの」

「あなたはそれほどわだかまりもなかっただろうけど、私は違うの。お母様に対する不満や反抗心を、持て余して苦しかったわ」

 アンジェリカは黙ってしまった。ただ私の次の言葉を待っていた。


「もちろん愛してくれていたと思う。私の幸せをいつも願ってくれていたから。それは確か。でも、その方法や表現が、正解ではなかった……かもしれない。子どもの立場でそんな判定を出すのは、おかしいかしらね。ただ甘やかされたかったって言いたいだけなのかも、私」


「何が正解かなんて結局は分かりませんし。正解なんて出したくて出せるものではなさそうです。でも私は、そのお母様に育まれたであろうお姉様の気質に、憧れを持っていますわ」

「憧れ?」

「だってお姉様は努力のできる人だもの」

 彼女は伏し目がちに続けた。


「私はどうも自分に甘くて、“まぁこの辺でいいでしょう”と何事にも手を抜いてしまうの。だから気付けば何事も、お姉様のができている。私の1.3倍ぐらい」

「それは私があなたの1.5倍がんばったから。1.5倍努力して1.3倍しか良くならなかったら、元の素質が劣るっていうことよ……」

「大事なのは結果ですもの、1倍のものより1.3倍のものを人は選びますわ。ちゃんと、見る目を持っている人なら」


「それをいったら、もしあなたが、私と同じだけ努力したら?」

 ここでアンジェリカは自虐的に小さく笑う。


「そんな“もし”を考えても仕方ありません。努力ができる、という資質は間違いなく“才能”ですわ。生来のものもあるでしょうし、お母様に厳しく躾けられた賜物でもあるのでしょう。そしてそれは、お姉様の生涯を素晴らしいものにする宝物のひとつです」


「…………」


 天がくれたもの、お母様がくれたもの。きっと誰しも、その人にぴったりとはまる、ギフトを授かっている。


 それをどう使うか、私たちには無数の選択肢がある。


「……これからも、大事にするわ」



 その時、ここの扉をノックする音が聞こえた。

「ああ、なんて美しいんだ、花嫁エレーゼ」

「あら、ジークムント様」

 相変わらず屈託のない輝かしい笑顔だ。


 彼は誕生会ののち仕事のため隣国に戻ったが、今回この日のためにまた帰省してくれた。颯爽と寄り来て、私の手を取りキスをする。

 ちょっとヒヤッとしてしまうのは、顔がエイリーク様と同じだからね?


「ジークムント様、ここは男子禁制ですわよ」

 アンジェリカがムスっとした顔で彼に詰め寄る。すっかり仲良しになったようだ。


「もう着替えも終わってるんだからいいだろう? ところで、すぐそこで昼寝をしていたら胸のコサージュがなくなっていたんだが。知らないか?」

「ああ、さきほど私、そこを通りかかりまして。見つけたので拝借いたしましたわ。いとこのジョイが本日リングボーイを務めますので、今は彼の胸に」

「おい、勝手に拝借するな」

「あなたは新郎と同じ顔なのですよ、少しでも目立つ要因を取り除かねばなりません」

「そんなのコサージュひとつ取ったって」

「じゃあマスクをお被りください。フランケンにします? それともドラキュラ?」

「君こそドレスのデザインがちょっと派手じゃないか?」


 ん──? ふたりの距離感ずいぶん近いわね。ああそっか、アンジェリカ相手にこういう態度取れる男性なんて、今までいなかったものね。


「さて、そろそろ行きましょうか」

 私はドレスの裾を踏まないよう淑やかを努め、立ち上がった。




 控えの間の手前で話をしているのは、お父様とシャルロッテ様。

「あら。とっても綺麗ね、エレーゼ」

「ありがとうございます」

 お父様は……無言で涙目になってる。お父様も今、幸せかしら。


「そろそろ私たちも中へ」

 アンジェリカが私に応援の目配せをし、ジークムント様と共に聖堂へ入っていった。


「では、私も式場内であなたの入場を待つわね」

 ああ、待って……。

「シャルロッテ様!」


 踵を返した彼女は「式を待ちきれないの」とでもいう表情にて、緩やかに振り向いた。

「あ、あの……」


 こういう機会でもなければ照れくさいので、今ここで言わせていただきます。


「エイリーク様をあんなに温かい、誠実な男性に育ててくださって、ありがとうございました。至らない者ですがノエラ家の一員として精進して参りますので、どうぞこれから、も……!?」

「エレーゼ可愛い! 可愛いわ! こんな女の子欲しかったの!」

 ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。というか話最後まで聞いてください。


「もう私のことおかあさまって呼んでいいのよ! おかあさまって呼んでいいのよ!!」

 2回言われた。


「ほら、だからあなたと初めて会った時、わたし言ったでしょ。エイリークはイイ男だって!」

 美女のドヤ顔まぶしすぎるっ。今後もこういった感じか。一抹の不安があります。

 でもシャルロッテ様から結局、約束のティータイム同伴は頻度を減らそうと言われてしまった。ちゃんとふたりで過ごしなさいって……改めて言われると恥ずかしいわ。



**


 長いヴァージンロードを今、お父様と歩む。波が寄せるようにひたひたと。

 天窓から温かな光が幾重にも差し込み、ステンドグラスの返して放つそれは、この真っ白なドレスを時折淡く、鮮やかに色染める。


 お父様からエイリーク様に託された私はここで、人々の見守る中、永遠の愛を誓った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


【電子書籍】『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


labelsite_bloom_shish.png

しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

― 新着の感想 ―
[良い点] 妹ちゃんがなんだかんだで良い子だ。 [気になる点] エレーゼの投げたブーケは誰を選んだんでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ