表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍化】 おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……  作者: 松ノ木るな
第三話 愛人!? どうぞご勝手に!!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/68

⑨ 君の喜ぶ顔が見たいから

 振り向いた私の目に飛び込んできたのは、棺から身体を起こしたばかりの彼と、情景が信じられない様子で震える彼女が見つめ合い、そこを小人たちが囲んでいる風景。


 窓から差す光に照らされ、この夏場にそこだけ春の陽気。再会したふたりは、また恋に落ちてゆく?


「ケネス……生きててくれてありがとう」

「サラ……?」

「ずっと一緒にいるわ。これからはいつもあなたの隣に。だからお願い、一瞬でも長く生きて」

「ずっと、一緒に……いてくれる?」

「そのためにあなたの妻になったの。そんな当たり前のことを、忘れててごめんなさい」

 まさにそのとき、弱々しい彼の細腕が、力強く彼女を抱きしめた。



 今しがた、ちびっこに引っ張られ入り口の近くにいた私は、ギギィと音を立てた扉に気付く。

「エイリーク様!」

「エレーゼ、こっちは全部片付いたよ」

「ありがとうございます!」

「詐欺師兄弟は今から拘置所に送る。取り返した銀貨の壺は、貴重品だから僕の家来がいったんノエラ家に運んだ。明日にでも……おおっと」

 そこで緊張の糸が解れたのか、私は足腰の力が抜けてしまい、彼に向かって倒れ込んだ。

「怖かった……。目覚めなかったらどうしようかと……」

 彼も棺で抱き合うふたりを目にする。


「君の計画はうまくいったんだね。君、やっぱり魔法使いなんじゃ」

「いえ、大事なのはこれからなんです。彼らがちゃんと向き合って、ふたりの落としどころを見つけてくれればそれで、私としてはやった甲斐があったかな……」


「でもこんなお節介を焼き続けていたら、君の身が持たないよ」

「…………」

 だって元はといえば、彼女があなたの愛人だから……。



 そして明日また彼らの家に伺うことを告げ、私たちはノエラ邸への帰路につく。

 今夜はそちらで宿泊することにした私だが。

「はっ! 男性宅にお泊りなんて連絡したら、お父様が卒倒しちゃう!」


「意識過剰だよ……」

 彼の呆れた呟きは私の脳がシャットアウトした。




**


 翌日、彼らの小さな家で私たちは、銀貨の入った壺を渡した。

「あなたのかかりつけの薬師は次の町へ旅立つとかで、ノエラ家が一時預かったの」

「そうだったんですか」

 信頼した男は詐欺師だった、とはやはり言いづらく、エイリーク様と相談してこう報告することに。さすがに公開処刑になるというのでもないから、明るみにはならないはずだ。


「これだけ銀貨があれば、しばらく根詰めて働かなくても大丈夫ね」

「はい。なのでエレーゼ様、申し訳ありません。近所でできる仕事をしようと思っていますので……」

「まぁ我が家としてはね、勤労メイドを失うのは痛手だけど仕方ないわ」

 夫婦の時間を邪魔したら馬に蹴られて死んでしまうから!


「僕はいつまで生きていられるか分かりませんが、彼女が隣にいてくれる限り、希望を捨てず、病魔と戦い抜く覚悟ができました」

「病は気からっていうし、心が強くあればきっと寿命も延びるわよ」

「それにしても、エレーゼ様がノエラ様の未来の奥様だなんて。町娘の風体にすっかり騙されました」

 ケネスの言葉にみんなで笑う。まぁ、町娘がハマり役ですから……。


「実は、話があるのだが」

 そこでエイリーク様がケネスに向かって口火を切った。

「もし君が本当に、彼女のために苦難を乗り越えてでも生きようというのなら」

「エイリーク様?」

 何を言い出すのだろうと私はこの瞬間、訝しく思う。


「ノエラ家が医師を紹介してもいい」

「「「え?」」」

「その手腕のわりにはリーズナブルな医師を知ってるんだ、我が家は」

 エイリーク様の言に彼らはふたりして固唾を飲んだ。


「えっと、僕の病は、町のどの薬師に相談しても、原因不明で手の付けようがなく……」

「それをもしかしたら、どうにかできるかもしれない医師がいるんだ。絶対に、とは言わないよ。ひとつの可能性だ」

「エイリーク様、それはどういう……」

 この私の問いかけは、彼の思わせぶりな笑顔でさりげなく遮られる。あとで説明してくれるということか。


「もし健康を取り戻せるなら、何だってします。どんな痛みを伴おうとも、なんでも耐えます。でも、僕には資金となるものがまったくなく……」

「この銀貨では足りませんよね……?」

「サラ、それは君のだ」

「私たちのよ」

 また譲り合って口論になりそうなふたりだ。


「うーん、やっぱり君が働いて稼ぎたいんだよね?」

「はい、でも身体が満足に動かなくて……」

「じゃあ、こういう労働はどうだろう? ベッドの上で仕事をするんだ」

「「「ベッドで?」」」


「字は書けるんだろう? 最近、書物の需要が高くてね。しかし印刷がなかなか間に合わず、ノエラ領の書籍の値段はとても高価だ。だから朝から晩まで、出版物を写しに写して、身体の許す限り働いてもらうよ」

「それで、医師の診療を受けさせてもらえるんですか……!?」


 結論として、エイリーク様は温かな微笑みと共に頷いた。


「ありがとうございます! 頑張ります……!」

「本当にありがとうございます!」

 ふたりそろって開けた道への期待に胸を弾ませる。きっとここから明るい未来が待っていると、私もそんな予感がするのだった。




 ふたりの家をおいとまし。

「あ、あの、エイリーク様!」

 馬車に乗りかける彼を引き止め、尋ねようと思っていたことを。


「あの、医師というのは……」

「ああ、彼の病は、町の薬師にはどうしても治せないものかもしれないけど、外国で研究している医師に任せてみたら或いはと思ってね。シャルロッテに頼んでおいたんだ」

「シャルロッテ様に伝手があるんですか!」

 そこで私は思い出した。彼女が確か言っていた。彼に頼まれたって。でもそれは彼にとって言い出しにくかったことで、でも、“私のため”って──。


「まぁでも、若い医師だから。臨床経験の多い医師はさすがに高額すぎるしなぁ。ただチャンスに賭けてみるのも悪くないだろう?」


 私が喜ぶから? 本当に?


「もしこれもうまくいけば、君の計画は完璧に遂行したことになるかな?」

 少し頬が染まってる。彼はよく、こんな照れた顔をする。


「はい! あなたの気持ちが嬉しいです!!」


 私は、彼のそんな顔が好────


「エレーゼ様!」

 その時、後ろから急に呼びかけられたのでびくりとして振り向いた。


「サラ?」

「あのっ、お話がっ……」

「じゃあ僕は先に帰るよ。君も遅くならないように。父君が心配して待っているんだろう?」

「あ、はい。ではまた来週に。……どうしたのサラ?」

 かなり急いで来たような彼女は息を切らしている。乗る馬車の手前で、私は彼女の言葉に耳を傾けた。


「ええと、失礼を承知で申し上げますが、エレーゼ様はずっと、何か誤解をされていらっしゃるのだと……」

「?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


【電子書籍】『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

 こちら商業作品公式ページへのリンクとなっております。↓ 


labelsite_bloom_shish.png

しっかり改稿・加筆してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ

― 新着の感想 ―
[一言] 「はっ! 男性宅にお泊りなんて連絡したら、お父様が卒倒しちゃう!」 「既成事実だよ……」 本当は、そう言いたかった紳士のエイリークであった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ