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第6話 宿舎




 後を任されることになったネディル・エヴァンスと言われる男。見るからに国王よりも風格と気品を持ち、優れた魔法使いであることがこの世界に来たばかりの私にでも容易く理解出来た。


 神々しい宝石をジャラジャラとさせた王冠に似たものを、頭の上に載せている。少しでも風を送ればズレが生じるだろう。その他のお偉いさんはエヴァンスと逆に側に立つ男性以外、誰もそのようなアクセサリーをつけていない。


 つまりは側近の猛者ということかな。


 そのネディルは、口角を1mmすら動かすことなく無表情のまま私たちのいる広場へ歩き出す。これから何が起こるか楽しみな人が少数、残りは不安に絶対王政で無理矢理従わせられて、ブサイクな笑顔を作っている。


 そして先頭に立つ芽郁の3歩前で止まる。


 「よぉ!はじめましてだな!さっき聞いたと思うが、俺の名前はネディル・エヴァンスだ。この国で名を知らない人は居ないほどの天才魔導師で、最強とも謳われる魔導師でもある!」


 無表情から突然、親しみやすい親戚のおじさんのような雰囲気を醸し出し、寡黙と思われた性格は真正面から否定された。誰もが「えっ……」と引いており、芽郁も水樹も口元に手を持っていっている。


 「和ませようとしたんだけどな、逆効果だったか」


 頭をポリポリ掻きながら、自分の愚行を反省する。初対面で不安な気持ちで溢れそうな私たちに、はじめからこんなインパクトを残されたのではこの先が情緒不安定で埋められる。


 「ん"っん"ん"。失礼したな。改めて、これから君たち35名を優秀にするためにビシバシ指導をしていくのが俺になる。厳しいと思うかもしれないが、そこは才能がない自分が悪いと思ってひたむきに取り組んでくれると助かる!」


 最低だ。元々この世界とは縁のない私たちが無理矢理魔法を極めろと言われている中で、自分に才能がないと思えなんて指導者として終わりでしょ。


 誰1人として反応することはない。頷くこともなく、ただポカーンとしていただけ。まだこの状況を整理出来てないようだ。私以外。


 「とりあえず、それらの鍛錬は明日からするとしよう。今日は君たちを宿舎に案内するから、疲れや不安を取り除いてくれ」


 謎の杖を右手先でクルクルと回しながら日程を語る。腕よりも少し短い木製の杖は、魔法を使う際に必要になるのだろう。微かに漏れる斑点の光の粒が目に見える。


 そうして、肩を貸し合いながら歩くクラスメートや談笑しながらネディルに付いていくクラスメートの後ろで唯一、1人で誰も側に来ない私は芽郁の時々送られる視線に睨んで返した。


 壁画や銅像の他に、これまでの人間族の歴史の中で、数多くの功績が記された紙が日本語で壁一面に貼られていた。人間族の領地を拡大した。エルフ族との貿易の交渉に成功した。魔人族との争いに初めて勝利した。など、どれだけの歴史が続くのか知らないが、相当な距離の功績がズラーッと並んでいた。


 凄さも感動もないが、たったそれだけでも功績として称えることなのか?という疑問を抱くことも記されていた。この時点で正直、怪しさは隠せてなかった。


 そして歩き続けること5分。王城内にしては簡素でボロさを多少感じさせる、だけど広さだけは不要なほどデカイ。左右にそれぞれ15部屋ほどドアが設置されており、壁は厚いように見える。


 「ここが男の部屋になる。左右どの部屋でも1人ずつって決められてるからプライベートは確保出来るぞ。んで、反対側に見える部屋が女の部屋だ。自分たちで好きに決めて好きに使ってくれて構わない。掃除は2日に1回、君たちが鍛錬中に担当の魔法使いがしてくれるから心配するな」


 うわぁーっと合宿に来たような雰囲気に染められ始めるクラスメート。先程の不安は何処かへ行き、今はワクワクが勝ってるらしい。まったく、単純で幼い脳みそだこと。


 何よりも掃除をしなくていいのは助かることだ。まぁ、勝手に部屋に入られるのは好ましいとは思えないけど。それに、何をされるか分からないしね。


 何にせよ、私は2日後にはこの場から去る。部屋がどうであれ気にすることではない。


 「それでは、俺は任務に戻る。君たちは部屋に掛けられた時計が明日の朝10時になったら先程の大広間に出てきてくれ」


 「ちょっと待って」


 「ん?なんだ?」


 芽郁が納得出来ないことがあるらしい。声を少し張り、戻ろうとするネディルを止めた。


 「食事はどうするの?」


 衣食住で今現在足りてない唯一の食。1番必要であり、誰もが気になるからこそ今絶対に聞きたいという思いがあらわれている。これに関してはナイスだ。


 「食事は毎日、決められた時間に魔法式が展開され、すぐにテーブルの上に自動的に出てくる。だから心配はいらないぞ」


 「なるほどね。ありがとう」


 これぞ魔法という概念の存在する世界。何もかもが私たちの常識の範疇を超えている。誰が魔法でテーブルの上に魔法式を展開してご飯を出すって思いつくんだろうか。慣れるまでに時間がかかりそうだ。


 答えてその後すぐに私たちに背中を向けたネディルは、既に気配すらも感じないほど遠くへ行った様子。そして始まる楽しみの欠片もない部屋決め。


 「ねぇ優太、私と同じ部屋で寝ようよ」


 「しょうがないな。いいよ」


 「やった!」


 あー、見れない見れない。ここに来ても堂々といちゃつける精神が凄い。絶対にバカップルは転移に向いてないでしょ。


 そんな、私からすれば気色の悪い2人からなるべく早く遠ざかろうと、私は1番奥の部屋に向けて歩き出した。

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