第34話 はじめまして
転移陣の真ん中にアリスとともに並んで立つ。詠唱などは不必要であり、ただ一定の魔力を注ぎ込むと、それに反応して転移陣が私たちを送り届けてくれるらしい。永久的な固定転移陣は製作に途轍もない魔力と緻密な技術が必要らしく、エマの転移者としての力の底はまだまだ計り知れないと、驚いたのが久しぶりだった。
「私がするから、次からは1人でも行くこともあるだろうし、自分1人で注ぐんだぞ?」
「うん。感謝です」
そう言ってアリスは集中なんてせずに足元の転移陣へと魔力を注ぎ込む。可視化されないが、アリスにとってのミジンコ程度の魔力が流れていくのを感じる。一体どれだけの魔力が必要なのだろう。極小魔力の私でも簡単に転移可能なほど少なければ嬉しいが。
とは言っても、魔法で魔力は回収可能だから問題ではないけどね。
「行くよ」
「はーい」
魔力を十分に注ぐと、すぐに目の前にピカッと閃光が走る。するとすぐに瞬きを1度する。目に支障のない程度の小さく刹那の光。そして目を開けると、そこは既に中層の目的地――36層だった。
眩い光は何処へ行ったのか、真っ暗な洞窟にいるようで、空間把握能力に長けていなければ3歩も歩けないほど地に足が安定しなかった。
しかし私もそうなることは知っていた。なので実は、空間は目で確認して大きさを捉えられなくても、もう既に魔力操作で地形は把握している。
「真っ暗だね。これがコルデミル大迷宮か……」
松明があると聞いていたが、六天魔人を始めとした、魔力が莫大な魔人族がコルデミル大迷宮を歩くと、途轍もない圧により松明が1度消えると言われている。これは人間族に魔人族が近くにいることを分からせ、すぐに引けるようにするためらしい。でも正直松明が消えてるとこを目で捉えた瞬間に殺されるだろうから、意味なんて無いようにも思える。
人間って浅はかだよね。
「まだ中層で、練習になるかならないかの弱々しい魔物しか来ないから、周りを注意する程度でいいぞ」
「えぇー、そんな呑気でいいの?」
「呑気な方がリラックス出来ると思ったんだが?」
「まぁ、アリスが居れば呑気で居られるけど、魔物とか人間よりも怖いからさ、ビビってる」
「ははっ、まだまだコウコウセイと言われる子供なだけあるな」
「……どこで覚えたのやら」
勉強熱心なアリスはエマと出会ってから毎日のように日本について学んでるらしい。漢字もそれなりに書けるようで、漢検2級は取れそうだ。過去にも何度か日本から転移者を連れてきているらしく、この世界で日本から来た本などこの目で見たことがある。
そんなアリスは止まることなく進む。歩き出したら何か気になるまで止まらないタイプかもしれない。周りから慣れない気配を感じても知らんぷりしていくのだから、私もアリスのようになりたいと切実に思う。
「ん、ここらへんだな」
「いきなりだね。見つけたの?」
「ああ」
私の感じる気配が一瞬にして強まったと同時にアリスの足は止められた。多分その相手が見つかったのだろう。気配から強いのだというのが伝わるが、負けるとは思わない。
場所は特定出来るほど感覚は研ぎ澄まされてない。ここは申し訳ないがアリスの感覚頼りだ。背中から7歩ほど離れた位置に立つ。邪魔になるのはごめんだ。
そしてあたりを気にする私たちが、その気配の存在のある場所を狭めていこうとした時、それらは動いた。
突如としてアリスの左横から音速に近いほど高速に、透明だが僅かに空間に歪みの出来る球体が飛んでくる。一瞬のことに私は目で追うことしか出来ず、今のが私に飛んできたなら死んでいたと自覚する。
相手の力量を計れるのなら完全に私にその球体は飛んできただろうが、そこまで頭は働かなかったようだ。
アリスはその球体を微動だにせず、左手を出して往なしていた。おそらく魔力を左手に集め、障壁を作ってそれを球体の進む力と合わせたのだろう。しかし、あの速さの球体を無駄な動きなく往なすのは至難の業だろうに、容易くやるのだから私の先の道が長く感じてしまう。
「誰だ?」
もう風魔法で球体を飛ばしたと知っており、相手が目的の人間族だということも知っていながら岩陰に潜むやつらに問いかける。
「……まさか本当に居るとはな。アリス・オーロラ……」
出てきたのは中年の髭を生やした魔導士。貴族らしいその腹は、引き裂いてやりたいと思うほど裕福で苦労なしに育ったことを表していた。
「っ?!やはり彼女があの六天魔人の一角であり、コルデミル大迷宮に現れる災厄ですか?!」
「そうだ」
「な、なんて圧だ……」
隣に居る私の標的が、父である当主に驚きを顕にして落ち着きをなくす。アリスの尋常ではない圧に屈し始めたのだろう。まだ青二才なのに何故この場にいるのか。せめて魔導士になって出てきたほうが良かったのに。
「……それにもう1人、見ない顔が居るな」
私を睨んで正体を探ろうとする。が、何をしても私は存在自体がエルミラにより改竄されているため出てこない。
「おいおい、君たちには誰かと聞いたんだが?無視しないで答えてくれ」
「……すまない……私はスクリット公爵家の当主――フォーゼン・スクリットだ。そしてこっちは息子のリジー・スクリットだ」
怖気づきながらも、答えなければ死を覚悟しなければならないので、間違いのないよう答える。
「そうか。ならばフォーゼン、お前は私が相手をしよう。そしてリジー、お前は私の仲間と戦ってもらおうか。拒否権はないぞ」
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