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第31話 自信過剰




 35層に来た理由、それは紛れもなく魔人族を相手にするためだ。これが主でありその他を求めていない。故にその目的を達成出来ないとなれば、もちろんバカでかいプライドが傷つけられたも同然。


 ネディルは自信過剰そのままに、予定外のことを提案した。


 「少し予定外のことだが、ここから中層の36層に下りる。魔物はこれまで嫌というほど相手にして、それなりに対応が出来ていたから今日は戦う必要ない。だから今からは実戦に移るため、魔人を相手にする」


 35層にはバレていてもおかしくないところに拠点を設置している。なので魔人族がそれを狙ってやって来ることも少なくない。なので、ネディルはこの層に魔人が1人も居ないのは変だと思っている。今まで2時間歩き回って見かけないことは1度だってなかったのだから。


 「それはいいけど、魔物も強くなるんじゃないの?」


 「確かに上層と比べれば強い。だが、魔法を使って実感しただろう?自分の力では上層は余裕なんだと。だからたった層を1つ下りただけの中層で、多少苦戦することはあっても敗北はない」


 「ふーん。ホントならいいけど」


 「最悪俺がなんとかする。誰も怪我を負わないから心配無用だ」


 胸を張りながら言う言葉は何とも信憑性の薄い。芽郁たちはネディルの魔法を見たことはそんなにない。それに、まだ相手の魔力をどれほどのものかを知る力も持ち合わせていない。だからネディルがどれほどの魔力なのかも、基準すら知らないのだから信じる信じない以前の問題なのだ。


 教えてもらったのは魔法の使い方だけ。34人全員が違う魔法のため、それぞれの魔法に沿って詠唱から魔力の伝え方などを全員に教える必要があった。そうすることで時間というのはあっという間に経ってしまい、この場にいる誰もが詠唱以外何も出来ない。


 サナの知る魔力圧だって、その他アリスに教え込まれた事細かな魔法の操作方法だって、理解してこの場に立つのは皆無だった。それでも芽郁たちは安心していた。己の魔法が通用するのを目で見て、体で感じて「これは余裕だ。これが転移者特典なのか」と勘違いを起こしていたから。


 そんな軽い気持ちで35人の人間族は中層へ飛ぶ。詠唱が合っていたか確認する人間や、魔杖(ディヴァル)に傷がないか念入りに確認する人間族。中にはそうやって準備を整える人間もいたが、それはほんの一部。


 ほとんどが念入りに慢心を決め込んでいた。


 これだけ時間が経過し、まだ()()()()()()()が存在するのは、転移者召喚としては初めてのことだろう。


 ピカッと眩い光が目を襲うと、次目を開いた時は中層の36層だった。明らかに重くなった空気感に、すぐに聞こえた悲痛な叫び声。これらは再び大迷宮がどういった場所なのかを教えてくれる。


 慣れ始めていたネディルを除く人間は縮こまる。


 しかしそんな中で、珍しくネディルは怪訝な表情を顕にしていた。


 「おい、スクリッド公爵はどこだ?」


 拠点内、ネディルたちが転移してきたことに気づかないほど慌ただしい中で声を出して全員に問う。誰が答えてもいい。今は何故スクリッドが居ないのかを知りたかった。


 「ネディル様!」


 反応を示したのは、テーブルの上に何やら地図のようなものを開き、もう1つ、これまでのコルデミル大迷宮の記録をした書物をこれでもかと広く使っていた男たちの1人だ。


 次第に全員がネディルに気づき、安堵の表情を見せ始める。やはり信頼感は相当なものなのだろう。


 「スクリッド公爵は、たった今中層での問題の調査に向かわれております」


 「問題の調査?」


 「はい。普段は下層でしか見られないダークベアーが中層に出現し、そのダークベアーの腹に穴を空け、一撃で倒した人がいると存在が確認されております。なのでダークベアーが何故中層に居たのか、そして誰が倒したのかを、貴公子とともに調査へ」


 「なるほど。ではこの慌てようはなんだ?」


 「可能性の話でしか申し上げられませんが、六天魔人(ヴァビリム)の一角が関係しているのではないかと。ですので、その対応を急ぎ行っている次第です」


 「そうか」


 顎に指を置きスリスリし始める。おそらく考えているのだろう。いくら人間族最強と謳われる自分でも、勝てるかは未知数で、その上この足手まといをバックに勝てるのかと。


 ここまでガヤガヤとした拠点はここだけ。そもそも六天魔人(ヴァビリム)が中層でウロウロする方がおかしい。下層にある魔法強化の魔導書を手に入れるためならそちらへ急ぐだろうに。


 やはり噂は耳にしていても、実際目で確かめなければ。そう思うネディルは決断する。


 「六天魔人(ヴァビリム)は居るという予想は的中するだろう。だから向かう。お前たちもいい機会になるだろうから、どれほどの魔法を使うのかその目に焼き付けろ」


 勝てると信じたのだ。だから足手まといを全員連れて行くことにした。戦ったことは無いが、慢心が足を進める。負けなんて文字はこいつの頭の中に一切なかった。


 「勝てるんですか?自称最強魔導士さん」


 「何を言う優太。俺は自称じゃなくても最強だぞ」


 親指を立てるが、優太は信じない。なぜなら、俺が最強だと思い込み始めているから。ここまで能天気なバカは存在するのかと、その場にいれば珍しい生き物を見たときよりも驚きたいものだ。


 「ネディル様も向かわれるのでしたら安心です。原因解明よろしくお願いいたします」


 「ああ。任せろ」


 こうして転移者を大勢足手まといとして抱えたネディルは猛者と戦えることを楽しみに、拠点を後にした。

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