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第30話 35階層




 正直オーバーキルは仕方ない。魔力コントロールを緻密に行えるほど天才な人はここにはいない。それに転移者がどれだけ魔力を抑えようとも、一撃がオーバーキルになってしまうほど、質の高い魔法を放ったので文句を言われるのは確定していた。


 「しかし、今の戦いは見事だった。初見で落ち着きながらも魔物を葬るのは訓練の成果だろうな」


 ネディルは自分の指導法に満足しているように高笑いをする。訓練なんて弱った魔物を実験体にするという残虐的でしかなかったのに。


 まぁ、人間族を実験体にしようとするアリスと似ているが、圧倒的に理由が違う。アリスの方がまだ道理がある。復讐と言えば聞こえ悪いが、完全に悪いのは人間族なのだから一概に復讐が悪いとは言えない。


 「では潜り続けよう。これから魔物が出現した場合はそれなりに対応していくから心構えをしておくんだぞ」


 誰もが反応しないが、耳にはしている。それに不満の1つもないネディルは鼻歌を歌いながら呑気に進む。王国最強を自称するほど自信がある男なら、ここなんて退屈だろうし、普通の事なのかもしれない。だが、常に呑気なネディルはどの階層でもそれは変わらない。


 魔物の気配を感じてはその方向を確認して合図を出す。それだけの仕事だが、臨機応変に対応する生徒たちは誰も怪我を負わない。まだ最上階層とはいえ、これだけの人数がはじめましての大迷宮で怪我なしは誇れるほどに優秀だった。


 順調に魔物を倒していく芽郁たち。ウィンドウルフとしか戦えずに不満そうなイジメ主犯格は早く早くとネディルを急かしては、宥められるのを何度も繰り返す。これをサナが見ると気分を悪くするのは間違いない。


 コルデミル大迷宮が見つけられてから今まで最上階層にはウィンドウルフ以外に魔物が存在したことはない。故に順調そのものだった。そして辿り着いた転移魔法陣の組まれた拠点。人間族が作ったため、しっかりと透過魔法で魔人族には見つけられないようになっている。


 六天魔人(ヴァビリム)にもなれば容易く見つけられるが、そんな大物がこんな最上階層に現れることも危惧していない。これが後々生死を分けることにならないといいが。


 「ここから35層に飛ぶ。気分が悪くなることはないから一瞬の眩しさに目をやられないようにな」


 そう言って10秒後、音もなく足元から頭部にかけて魔法陣が体を包むと、認証完了したかのように一瞬にしてその場から消える。


 ちなみに、この世界の魔法は詠唱と魔法陣にする2つの選択肢がある。どちらもメリットデメリットはあるが、頻繁に使われるのが詠唱だ。昔は魔法陣が多く使用されていたが、両種族の敵対により、強大で正確性のある魔法を発動可能にするべきと試行錯誤した結果、魔杖(ディヴァル)を使う魔法陣はマイナーなものとなり、代わりに詠唱が当たり前となった。


 そして、辿り着いた35層。若干暗さが増したのを暗順応しながらも感じていた。それ以外は不気味さ含めて変わりない。魔物の気配も感じられないのは、拠点に多くの人間族魔法使いが存在するからだ。


 ここからは魔人族とも出会うようになる分岐点。出会うのなら戦闘開始と同意義になるため、まだ未熟な芽郁たちには対処が難しいだろう。ここはネディルの技量が試されるところだ。


 「着いたな。ここが35層で、上層の最も下にある場所だ」


 なんともややこしく面倒くさい説明か。少しでも混乱させないようにという心がけはこの男には無いらしい。教師役に推薦したやつは相当頭が悪いな。


 「ここで私たちは何をするの?」


 ようやっと口を開いたと思えば全て気になることを聞くためのこと。この女は必要最低限のことはしない主義だ。


 「さっきとほとんど変わらない。魔物を見つけては討伐する。変わるのは――魔人族と出会えばそれも難なく討伐するってとこだな」


 「なるほどね」


 芽郁たちが座学として学んだ点では、魔人族についてしっかりと頭の中に入れてある。そう、すべて魔人族が悪いのだという情報操作とともに。


 それを知らないが故に今の芽郁たちは殺意に満ち溢れている。殺す気しかない。それが王国のためになるからという正義感を持っているからではなく、ただ単純に、自分の気持に従って、殺したいと思っているからだ。


 これがサイコパスというやつだろう。


 「この層は魔物より魔人族が多く蔓延ってるから、鍛錬にはもってこいだ。皆、気を引き締めて取り組むように」


 淀んで殺意がプンプンするこの空気感は人間族とは思えない。魔人族の方が暖かくて親しみやすい、面倒見のいい家族たちって感じだ。過ごしやすさが段違いだ。


 やはりこの世界では人間族が悪であり、魔人族が善であるのかもしれない。芽郁の目は完全にサナと同じとは思えない目をしている。横を見れば睨んでいると捉えられてもおかしくないほど細く、鋭い。


 35層に辿り着いてすぐ、全員が足並み揃えて拠点を後にする。ネディルがいる限り全員帰還は約束されたようなもの。そう思うから足取りは軽いのかもしれない。早く魔人を倒したい。その一心で芽郁たちは進む。


 しかし運が悪いのか、その日2時間ほど35層を回っても出会ったのは魔物だけ。珍しく魔人は見つけることは出来なかった。だから、ネディルは考えた。それも地獄のような道を。

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