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第28話 適任者




 背中を私と真逆の地へつけている。足はバタバタと動かすがそれ以降前に進むことは出来ない。紫色に光る魔源を壊さないでと抵抗しているようにも見える。そんな人の心を持ったようなことを言われたとしても同情しないが。


 そろそろ騒ぎ始める頃だろうし、楽しみはまた今度ってことで。


 「重力弓矢(ナ・フェン)


 重力で創成した弓矢。対象に対して、重力を己の魔力のある限り限度なく倍増させて放つ攻撃魔法。ダークベアーに対して放つ今、この弓矢の威力はダークベアーの体重の50倍ほどの重さを持ち、上に向かって働く重力そのままに放たれる。


 つまり、10トンはあるダークベアーに500トンの重みを持った矢が、15m上空から力強く放たれるようなものだ。それはもう500トンどころの騒ぎではない。確実に腹部のどこに当たっても死に至るだろう。


 シュッと軽々と放たれた矢は、15mを僅か0.3秒で走り抜け、ドォン!!という激しく重い音を鳴らし粉塵を撒き散らした。当たった瞬間にダークベアーの腹に穴が空いた痛みからの咆哮は、離れている私の耳を劈くほどには耳障りだった。


 ボロボロと崩れ落ちる天井は、やりすぎたかなと思わせるには不足なし。ダークベアーも私が魔法を解いたのでしっかりと重力に従って目の前に見るに堪えない体で落ちてくる。


 これは寄ってくるぞ……ならそれを有効活用するか。


 人間族は激しい音や戦闘に興味をそそられては、何が起きたか確認しに向かう。それにコルデミル大迷宮でも途轍もない猛獣で知られるダークベアーの咆哮。これらが相まってここはすぐに人間族で囲まれるだろう。ならばそれを使って、ここから拠点に戻る人間に付いていき、良さげな人間を探すのも1つの手だ。


 私はその場に気配を完全に消して潜む。松明も魔法で灯りを出すことも出来ないので、気取られることはないだろう。


 そしてすぐにやつらはやってくる。


 「ここらへんだ!」


 男の声が息を切らしながら騒ぎの原因が近くだと叫ぶ。付いてくる人間は誰もが弱々しい。これではこれより下へ潜るのは不可能だろうに。


 「あっ!いたぞ!」


 リーダーのような男は先陣を切ってダークベアーの状況を確認しに向かう。


 「やはりダークベアーのようですね」


 「ああ」


 5人で駆けつけた彼らはダークベアーを囲み、どのように倒されたかなど詳しく見て回っている。この5人でかかっても倒せないのがダークベアー。それがこの中層にいるということを把握してさっさと引けばいいものを、何故命令に従って命を落とすことを選ぶのか理解に苦しむな。


 普段下層にしかいないと言われるダークベアーが、中層にいるのはおかしい。私も今思えば気づいたが、何か異常なことが起きているのか?


 「ダークベアーの腹にこんなにデカイ穴を空けたのか……お前出来るか?」


 「いやいや、不可能ですよ。ただでさえコルデミル大迷宮の上層で手こずってるのに……」


 おいおい、なら来るなよ。


 神妙な面持ちでそれぞれがこれを倒した人は化け物だと確信する。人間族でも腹に穴を空けるほどの魔法を扱うやつは多くはないだろうしな。


 「魔人族か……とにかく今はこのことを伝えに戻る」


 「「了解」」


 そうしてダークベアーをそのままに、松明に火を付け灯りとして使いながら戻ろうとする。灯りに使える魔法を使えるやつらではないようだ。


 すぐにその後ろを付いていく。ミスはないので気づかれることもない。


 ――それから10分後、私はその拠点とやらの近くまで潜入することに成功していた。追っていた彼らは予定通り何事もなく拠点に辿り着き、周囲を確認するとすぐに透過先にある拠点へ消えていった。


 透過とはいえ拠点はその場にあるので、十分なほどに中の声は聞こえる。コンクリートや土で固められて防音性抜群といったものではなく、ただキャンプのために使う簡易的なテントのような拠点なのでそこは私からすれば助かった。


 「なに?ダークベアーが中層で殺された?」


 「はい。腹に大きな穴が空いており、おそらく一撃で即死かと」


 「うむ……」


 早速報告しているようだ。報告先の男はそれなりに高い地位についているのだろう。実力もそれなりにあれば良いのだが。


 「周辺に六天魔人(ヴァビリム)の一角――アリスがいるとよく聞く。だから、もしかすると可能性はある」


 正解だ。


 「ではどうしますか?」


 「私が動こう」


 「了解しました!」


 安心感満載の返事だ。それほど信頼出来て実力も持っているということか。声は覚えた。顔は会ったときの煽りの材料として取っておくか。


 「では、俺も出向きます」


 「そうか。いいだろう、俺の実力をその目で見て成長に繋げるんだ」


 「ありがとうございます、父上」


 指揮官だろう男に父上と言うのは、その後方付近に立つ青年か。声では位置を特定するのは難しいがおそらく間違いはない。


 なるほど、貴族といったとこか。それか指揮官の男がなにか功績を残してその地位についたか。どちらにせよ実力は申し分ないだろう。これなら私とサナの両者が相手にするに相応しい。


 私は指揮官の男、サナがその息子と戦うことにしようか。


 そう決めると、もうここに居る意味はない。この場所も大迷宮とはいえ覚えた。もう少し魔法の基礎を教え込んだら、すぐにこの場に来て授業を始めようではないか。

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