第27話 魔物
「はぁぁ、退屈なのには変わりないか。結局は下っ端ってとこだな」
彼の死を遠くからでも確かめる。何故あれだけの実力で挑んできたのか不思議でならないが、人間族あるあるなので頭の中に残すほど気にしてはいない。そんなやつが何人も彷徨っているのだから一回一回考えていてはパンクするしな。
魔杖をしまって再び奥へと進んでいく。サナの練習相手になりそうな人間族を見つけるのと、少しでも強い相手と戦いたいという2つの目的を持ちながら。
まだ中層であり、最下層予測地には歩くだけなら3時間は余裕でかかる。それに邪魔が入るので5時間は最低と考えても良いだろう。だから今日は下に潜りすぎない。サナもまだ中層に拠点を構える相手と戦える力を持っていないのだから無理は止めておく。
しかし、人間族の数が魔物の数を上回り、その数は減るのではなく増える一方なのだ。ここ最近でコルデミルの最下層に秘められた魔導書を取るとさらに力を入れているようだ。もし本当に魔導書があり、それを奪われでもしたら面倒が増え、悔しさも死ぬまで消えないだろう。
ならばそうなる前に事前に防ぐのが普通ってものだ。
周囲への警戒を怠ることなく進むが、引っかからない人間はいないと言えるほど常にどこからか忌々しい気配を感じる。見られているや、奇襲をしようと構えているのではなく、ただ魔物と戦っていたりして私に対して何かを向けているのではない。
「魔物か……人間より魔物がサナの相手になるか……いや、やはり人間だな」
まだ魔物より人間の方が少しだけ賢い。何より、元は同じ人間として生まれ、いくら魔人族に転移したからといって人を殺すことに抵抗がないなんてことは無いだろう。増してはエマと同じニホンと言われる国では、魔法という概念も無く、魔人よりも人口が多いのに人が殺されることなんて頻繁に起こらないというのだから。
慣れてもらうのには時間が必要だ。最も、サナにはその必要が無いだろうがな。
「人間人間……どいつにするか……」
私の索敵のテリトリーに入る人間をその中から選んでサナの実験体になってもらう。どれも魔力が少なく、魔力消費も相当らしく魔物に手こずってるのが分かる。
ここには私以外にも魔人族は存在する。しかし人間族の相手を魔人族がすることもあるが、それは滅多に無い。人間族に比べて魔人族はコルデミル大迷宮には潜らないのだ。理由は私たち六天魔人がよく潜るので行く必要が、個人の魔法の強化ぐらいしかなく、何よりも人間族が嫌いすぎて出会いたくないという思いが強いから。
サナも薄々感じていたが、この争い事は人間族がふっかけたもの。だからいきなりのことに魔人族は何人も命を落とした。何も悪いことはしていないのに、攻められたのだから忌み嫌う理由は十分だろう。
今は圧倒的に魔人族が押し返しているが、それも、転移者を使うという最低の手段で均衡は保たれるだろう。私利私欲のためにふっかけた争いに他人を巻き込むなんて人間族のしそうな極悪非道だな。
まぁ、こっちにはエルミラと転移者2人いるから問題無いがな。
「おっ、なんて思ってたら良さげなダークベアーがいるじゃないか」
コルデミル大迷宮の中でも強い魔物として部類されるダークベアー。その名の通り真っ黒の熊だ。コルデミル大迷宮ですら暗いのに、ベンタブラックのような黒に身を包んだ熊は更に見えなくなる。
尖りまくった、掠れば鮮血を散らすほどの爪に、両腕合わせて6本の無駄に生えた腕の数。基本二足歩行という威嚇し続ける態勢かと思わせる筋肉質の4mを超える体躯は、魔法をぶつけるには丁度いい。
「さっきの人間より楽しめるか?」
ダークベアーは魔法は一切使えない魔物であるが、その代わりに身体強化が常にされているかのように動きが速く、攻撃魔法を具現化したものですら傷をつけるのがやっとなほど元が硬く強い。
ちなみに、魔物は常時発動の魔法を扱える個体と、ダークベアーのように身体強化を常時発動している個体が存在する。どちらも厄介で、なるべく人間族に処理を願いたいものだ。
ダークベアーと目を合わせる。これからお前を殺すのだと本能に刻み込むのだ。しかし、それにも怯むことなくダークベアーは周囲へけたたましい咆哮を上げると、即座に私へ迷いなく突進してくる。この時は体を倒し、合計8本の四肢を最速最適に動かす。何度見ても気持ち悪い。
だがそれだけ。攻撃魔法ではなく、何も具現化させる必要のない魔法も扱える私の特異魔法ではこいつを相手にするのは簡単すぎる。負けたことなんて1度だってないのだから。
口から唾液が散らされ、ぐしゃっと空腹に身を任せて動くその姿は獣そのものだ。しっかり清潔が好ましい私は、それに当たりたくないので遊んでやることを頭から取り外し、魔杖を取り出す。
「重力操作」
ダークベアーの重力をマイナスにする。よって体が宙に浮き、突進は止められる。こうすればもう勝ちだ。ダークベアーにはお腹のど真ん中に魔源と言われる魔物特有の弱点が存在する。ここは魔力の根源であり、破壊されれば命も潰える。最も脆くて攻めにくい場所にあるのが厄介だ。
そこが顕になれば余裕で終わらせれる。ここから重力を操作する必要はもうない。私の魔力が尽きる限りダークベアーは落ちてこない。
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