第24話 無意識状態
一瞬雰囲気の悪くなる空間だったが、すぐに元通りになる。アリスも、はっ!となったようで気づいたときは少し可愛かったりする。思わず口に出してしまうほどの忌み嫌いぶりは共感するところがある。
「とにかく、人間族の魔分は取り除く」
そう言ってローブの内側をコソコソと確認する。あったかな?どこだっけ?と言いながらも見つけられないとこにはドジさを感じる。それから15秒ほど、見つけた魔分を取り出した。
「これが魔人族の優秀な魔分だ」
それはもう人間族に振りかけられた紫の中でも濃色の不気味なものではなく、藤紫の鮮やかで光沢を放つような美しさだった。
「魔分は振りかけることで上書きが可能だ。だからこれを振りかけて今すぐ人間族の腐れを取り祓おう」
「分かった」
ササッと左手にかけられると、こそばゆく魔力と適応していくのを感じる。人間族の魔分より全然心地が良い。これが魔人族に転移した私の適合率ってとこかな。
そして浮き出る無能力魔法という文字。
「変わらないな。いつ見ても複雑な棒が絡み合ってるだけの文字だ」
「変わらない?見たことあるの?」
「エマも転移者だろ?だから何度か目にしたことがある。それにこの魔人族にも書物があり、ニホンゴ?というサナたちの言語が記されているんだ」
勉強熱心ってか、人間族をはじめとした種族と敵対しているから、細かなとこまで知る必要があると思って博識になったのだろうか。天才は努力も怠らないようだ。尊敬だね。
「よし、魔分で体力も回復しただろうし、少しは魔分による効果で操作も簡単になるだろう。続きだ」
「おっけー」
これが狙いだったり?なんて考えるが、そんなことないって分かっている。アリスの真面目な顔は美しくて好きだ。濁りのない偽りのない完璧な顔。顔の良さを鼻にかけている芽郁と結とはレベルが違うな。
「まずは、ただ放出だけを意識してくれ。そしたら私が合図をする。そしたらすぐに魔力操作で放出することを意識するように変換するんだ」
「……難しい注文は当店では扱うことが出来ません……なんて言えませんよね……やるだけやります」
もっと良いやり方はないのかと贅沢にも聞けない。多分教え方はプロ級で、これが最善であり1番分かりやすい教え方だろうから、これ以上を求めるのはバカを露呈しているようなものだ。
「集中するんだ。魔力を掴むことだけを意識して。それがコツだ」
「魔力を掴む……」
視界は集中を妨げる大きな要因でもある。今はまず慣れることが優先であるので瞑って集中する。別に私を襲う敵なんてやってこないし、来てもアリスがいるので問題はない。
深呼吸をして自分の中へ意識を潜らせる。そしてその中で魔力を感じたとこから暗闇の中に可視化していく。ここまではお手の物だ。何度これをやってきたか。容量の悪い人でもここまで時間を費やせば簡単だろう。
まだ合図がない?なんてことは思わない。もうすでにそのことは忘れて魔力を感じている。それをアリスも知っている上で合図を出すだろう。
だんだんと体の外に魔力が流れるのを感じる。血液の循環も感じれるので気持ち悪い気もするが、一瞬にして取り払われるほど私の今の集中力は高いようだ。
体温も上昇しているのか体が熱い。ランナーズハイになっていると錯覚するには十分なほど気分がいい。呼吸は落ち着いていて魔力も尽きない。
これが魔人族の魔分の力……魔人族最高じゃん!
そう思って最高潮に達する瞬間。その時はきた。
「ここだ」
指で額を押されながら耳に入ってくる。そしてすぐに焦ることなく冷静に詠唱をする。我ながら落ち着きぶりには驚かされるな。
「魔力操作」
指は額につけられたまま、アリスはこれからの指示を頭の中に直接送り込むように優しく分かりやすく伝える。いや、本当に簡単で分かりやすく、実行出来ないわけもないほどのことだった。
「その状態を20分キープだ」
これだけ。私の否応なしに、やれ!と圧で押し切られると、言葉を出せるほど余裕のない私は拒否権なしに頷いたも同然だった。
しかし、心配はそこまで大きくなかった。アリスが私を信じている上でそう言っていると思っている私には嬉しさが勝ち、期待に応えたいとその一心で今この場に立っている。
再び深呼吸を1つ。私を邪魔するものは何もない。静かに瞑想のように無を貫く。次第に引き込まれるように、睡眠に入るかのように、気づけば意識はあるのかすら分からない状態だった。
それでも止めないのは私の根気強さ故だ。
――「終わりだ」
「…………」
「はぁぁ、集中力もバケモノとは……」
夢の中ではなく、集中の極致による無意識状態だと知るアリスだからこそ、その凄さを理解している。素人なら焦って無理矢理起こそうとするのだが、天才だから落ち着いた対応で私を起こそうとする。
アリスは私を集中から解くために指を弾く。パチッと高い音を鳴らすと、すぐにはっ!と今の状態に気づき戻ってくる。
「もう20分経過した。合格だ」
「えっ、もう?ってか私何してるのか分からなかった……」
「それもそうだろう。本当に集中していたんだからな」
「な、なるほど?」
合格と言われても実感がないと達成感もない。だがアリスが言うならそうだろうし、20分経過しているのが分かるほど疲れを身に感じていた。
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