第22話 魔力圧
固まったまま寝そべる私と、腰を曲げて紅い眼で覗くアリスは無言でありながらも目は合ったままだ。気まずくはない。アリスも私の心を読んでいるのか、過去を覗いているのか、何をしているか私には到底理解不能だ。
「私が死ねるのは分かったけど、エルミラが無駄に疲れたって聞いたら良いこととは思えなくなるんだけど」
「そんなに気にする繊細なタイプだったのか?可愛い顔に天真爛漫を自負してるくせに、案外内面は華奢のようだな」
「アリスが例外なんだよ。一般女性はこういうものなの」
「私は魔人だし、分からなくて結構だ」
威厳もあって風格も備わった完璧女性。白髪であり紅い眼である生命体で、これほどまでに似合う存在は居ないだろう。改めて思う。アリスは金輪際現れることのない性格と容姿が完全に合致した存在だ。
魔人。人間族と見た目は大差ないのに区別はしっかりとしているようで嫌悪感満載だ。
「そうだ、魔人にも角の生えた人と生えてない人がいるけどあれって基準あるの?」
「いいや、特に決められたものはない。だが角の生えた魔人には特異魔法を使えるやつらが多いな」
「ふーん、やっぱりそういう変化はあるんだね」
シュルクはその1人ではないので、実力は魔法の特異さでは決まらないと証明している天才というわけだ。私を除く6人中、2人だけが特異魔法で転移者であるエマを除けばアリス1人だけなのだから優劣は己の魔法に対する理解度や鍛錬の成果によって左右されるらしい。日本でも異世界でもそれは変わらないようだ。
「そろそろ再開だ。寝てないでこの世界に適応するぞ」
魔杖をくるくる手の上で回しながら退屈を顕にしている。やりたいこともないアリスはコルデミル大迷宮に潜っては暴れるそうなので、今もソワソワしている。迷宮とは?ってなるほど迷わないのは行き来しすぎたからだろう。
「次は何をするの?」
「サナの魔力を制御可能領域まで安定させて、魔力圧を作れるようにする」
「……次から次に新しいこと吹き込まないでよ」
「容量も悪いのか?」
「悪いんですぅー、ただでさえ異世界でのことに頭いっぱいなのに魔法についてなんて自室で復習しないと追いつけないのはテスト期間以来だよ」
「テスト期間?」
「あー気にしないで、この世界には全く関係ないから」
学校での面倒なことが省かれるのは異世界のいいとこだ。普通ならそれぐらいしか思わないだろうけど、私はイジメもなくなって幸せを感じ始めれて、復讐まで出来るんだからウキウキだ。
「それで、魔力制御可能領域って?」
「ああ。無能力魔法は魔力に底がないから無限に溜められる。だから溜め込んで莫大な魔力になったら制御が出来ない領域に達する。その結果、魔力爆発を起こして自滅なんてこともあり得る。そうならないように、魔力を常に放出して回りを威圧するように有効活用して安定させる必要があるんだ。別に威圧まではいらないけどな」
無限に溜められるのは無能力魔力だけで、覚醒すると制限が出来るらしい。流石にチートにチートを重ねることは理に反するらしい。
「まぁ、体感した方が早い。私もそれなりに魔力はあるからな。特異存在のサナには耐えれる程度に放つから心配しないでくれ」
「え?う、うん」
これから行われるのは途轍もないことなのだとすぐに理解した。そして肌でも。
「いくぞ」
次の瞬間、アリスの両目が紅く濃く光り輝く。同時に立つのもやっとなほど上から空気に押される感覚に陥る。耐えることは出来るが、息苦しく、広範囲に及ぶその圧は目の前の空間をも歪ませていた。
これが……魔力圧?
そう思うとタイミング良く解放してくれた。
「どうだった?これが――」
「おい、アリス!何回言えばその魔力圧を魔王城で使うのを止めるんだ!」
フィールドには入らないが、スタリスが観客席から急いできたかのように息を切らして文句を言っている。どうやら魔力圧が苦手なタイプなのかも?
「すまない。サナの鍛錬に付き合っていたらつい忘れていたよ!」
「ったく……気をつけろよな」
「ああ!――サナもすまない、私の魔力圧はスタリスには嫌われていてね。なんせ重たくて淀んだ邪悪なものだから、好まれることが少ないんだ」
初めて声を張ったとこを見た驚きもありながら、簡単に宥める手際の良さは慣れたものか。不満気に帰るスタリスの背中が呆れ果てているようにも見えた。
「それにしてもサナは良く耐えるな。人間族なら気を失う程度の圧なんだが。エルミラもこんな逸材を見つけるとは鼻が高いだろう」
「危なかったけどね。受けたいとは思わないよ」
足もガタガタ震えだしたし、恐怖すら若干感じた。もしあのまま1分耐えろと言われたなら、早く気絶することを願うばかりだ。
「これが魔力圧。溜められた魔力を必要ない量だけ放出し、相手に威圧感を与えるものだ。これを使えば、相手は勝てる勝てないを判断することが容易に出来る。だから頻繁に使用して、戦闘の始まる前から意欲を失わせるのもよく使う手だ」
「初対面の時もそうやって入って来たの?」
「ああ。耐えられるか否かでサナの強さを曖昧だが知ることが可能だからな」
今の魔力圧と比べると圧倒的に弱かったが、それでもスタリスは嫌な顔をしていたし、誰もがアリスが来たと分かっていた。それほど個性的で特別な魔力圧を扱うのがこの女性だ。
これでまだ手加減というのだから本気の圧なんて計り知れない。
だが、それでもまだ人間族を始末していないというのだから、人間族もそれなりの存在は居るようだ。
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