第1話 無能力魔法
事の重大さに気付いたのは、冷たい大理石のような石と頬を離してすぐのことだった。
パッとその時間に強制的に目覚めるよう仕組まれていたかのように勢いよく目を開く。声も出さず動くこともない。ただ意識だけが今の現状を理解しようと必死になっていた。
右に目を向けると34名のクラスメートが、各々重たい体を無理にでも起こそうとしている。左に目を向けると、私が1番偉いと言わんばかりの王冠と威厳を持ち、玉座のような席に座る50を軽く超えた歳のお偉いさんが居た。
今、意識が覚醒しているのは私だけらしく、周りを見渡しても朧気な意識の中で、なんとか起き上がろうと四肢を力強く扱っているクラスメート以外目を奪う者は無かった。
「ここは…………はっ!」
ここが何処なのか、何故このような地に居るのかそれが分からなかったのはほんの数秒。私は目覚める前のことをはっきりと思い出した。
確かエルミラって女の子が私を魔人族に勧誘して……それで……。
止められた時間の出来事を1から10まで全て思い出す。エルミラの言った、このことは忘れないと言うのは本当だったようだ。これでさらに信じるしかなくなったね。
次第にクラスメートの意識も覚醒していく。唸りながらもしっかりと自我は保てているようで、友達がそばにいると確認すればすぐに安堵の表情を見せる。
私にはそんなことは出来ない。だけど!私はこれから先、ここに居る誰よりも幸せに楽しく第二の人生を歩むつもりでいる。だからこんな辛気臭いとこからは抜け出して、敵対してやりたいものだ。
そんなことを思う私だが、実はそんな呑気なことを考えていられるほど意識は都合よく割けてはいなかった。
「おぉー!成功ですぞ!」
「ああ!これが古来より伝わりし転移魔法の極地!大成功ではないか!」
と、このように私たちの周りを囲む老人たちが歓喜の声を無数に上げていたのだ。うるさいとまではいかないが、黙れとは思っている。
この場でうるさくても許されるのは、私たち転移人だけだ。なので、転移魔法云々どうでもいい私には少々イラつきが生じた。
多分日々のストレスもあるけど、それは八つ当たりしてもいい程度のことをした彼らが悪いんだ。私は悪くない。いや……全然悪いか。イジメを働く奴らと同じ立場に自ら行くなんて、そんな低俗行為はしたくない。
しかし、そんな私のことは見ず知らず、お偉いさんたちはその中のトップ――国王らしき人に意見を求める。
「陛下!転移魔法は無事成功した模様でございます。次に、この者らの魔法測定に移りたいのですが!」
魔法測定、その名の通りこの世界で扱う魔法と言われるものを測定することだろう。バカでも分かるね。
「構わん。意識が戻った人間から測定していけ」
「はっ!」
片手をふいっと適当に動かし、許可を与える。見たところ第一印象は権力に溺れたダメダメ国王ってとこだ。顔は強面だが、欠伸は何度もするし腹も出ている。怠惰の限りを尽くして楽に生きてきたように思える。私とは真逆の生活により強い憤りを感じる。
勝手に召喚しておいてその態度。改めさせたいと思うのは当たり前じゃない?
国王に命令された付き人は駆け足でこちらへ来る。そして自然とその人を目で追っていた私は目が合う。この時点で嫌な予感はしたが、逸らすことは出来ないので受け入れた。
「お前 ――そこの、髪が茶髪の女」
なんとも無礼で耳を傾けたくない声色だ。そんな声で私の特徴を呼ばないでもらいたいものだ。
「私ですか?」
「ああ、そうだ。今からお前の左腕に魔分と呼ばれる特別な力を加える。すると腕に、お前たちの世界の文字で魔法の名前が刻まれる。だからその魔法を教えてくれ。分かったか?」
早口ながらも何を言いたいのか、事前に意味不明な状況に遭遇している私には簡単に理解出来た。焦りは不安といった負の感情が無ければこんなにもスラスラ頭に入るとは、この頭も捨てたものではないようだ。
「はい、分かりました」
承諾するとすぐに乱暴に左腕を掴み、内ポケットから薬瓶のような容器に入った紫色の砂を私の腕に満遍なく振りかける。この世界に人を大切にするって言葉は無いのかな?
そしてだんだんとチクチクとした痛みが腕を襲う。しかし耐えられない痛みでもこそばゆい感じもない。イジメに慣れたからそう感じるのか、はたまた私と魔分が相性が良いのか。
多分イジメが関わってる気がする。相性が良いならそれが1番良いんだけど、こんなことで相性が良かったとして何になるって言うのか。
そのチクチクが30秒ほど続くと、文字を理解出来るほど濃ゆく太い黒の日本漢字が表れる。そこに書かれた文字は――【無能力魔法】
嬉しい。本当に無能力魔法なんて、やはりエルミラは私の味方として本気でこの世界から人間族を退けたいと思ってるんだと確信出来た。
「どうだ、見えるか?」
「は、はい」
あまりの嬉しさに呂律が言うことを聞かなかった。一瞬詰まったが、そんなことよりもどんな魔法か知りたいお偉いさんは目をキラキラさせて私の口を覗いていた。
正直キモいけど、まぁこの嬉しさに免じて見なかったことにする。してあげるよ。
「何という魔法だ!」
これから自分たちが優位に立てる可能性を秘めた切り札でもある私たちの魔法。きっと期待を込めて今すぐ聞きたすぎるのだろう。だから私は教えてやる。それも笑顔で。
「ここには――【無能力魔法】と、そう書かれてます」
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