第17話 三神魔法
6人が話しているとは思えないほど騒がしい今も、たった1人がイジメのために喋る時間より全然心地よく、うるさくない。こんな日を私は待っていた。
エルミラは上機嫌だと知っているかのように私に話しかける。
「ほらね?君は特別で必要なんだよ」
「そうみたいだね。ところで、私の魔法はどんなところが長けてるってか驚く要素なの?」
特異魔法として言われるのは分かった。しかし、それだけなら驚くに至らないだろう。エマが転移した際もここまで驚かれることも無かっただろうし。ならばこの、テンションが上がりに上がった美味しい空気感は他に理由があるはず。
私の質問にエルミラは間をおかずに答える。
「無能力魔法を扱えるのは、この世界の4000年の歴史の中で君が15人目だからだよ。人間族に2人、エルフ族に3人、未知族に3人、そして魔人族に君を含めて7人。それほどまでに珍しくて、何よりも恵まれた魔法だから私たちは驚くの。ちなみに私も最初君の魔法を覗いた時は驚きで腰を抜かしたよー」
「ん?私って魔人族じゃなくて人間族に転移したんじゃないっけ?」
「元はそうだけど、君が死んだ時に人間族として転移したという概念を絶って、魔人族として転移したことにしたんだよ。だから君と君を知るクラスメートも魔人族に転移したって書き換えられて頭に入れてるし、それを理由に君は突き落とされたって書き換えもされてるんだ」
「……なんでも出来るじゃん」
私が聞いておいて話しが脱線したのは悪いが、これはこれで聞くに値するめちゃくちゃ重要なことだった。もし次会う時に、お前は魔人族に転移したから殺したとか言われても意味不明状態だろうし。
「それにしても、そんなに稀な魔法でも魔力が無いなら意味ないんじゃないの?」
「それも今だけだよ。無能力魔法は覚醒してからが本当の力を発揮するって言われてるからね。無能力魔法はその名の通り何も魔法は使えない。だけど覚醒したら時間魔法か黄泉魔法か支配魔法の3つの魔法のどれかが使えるようになる。それが途轍もない力なんだよ。三神魔法と言われる世界が創られた時に存在したそれらは、魔力はもちろん性能も並の魔法より数段上の強さを誇る。それをランダムとはいえ扱えるようになるのは、相手からするとバケモノなんだ」
エルミラの一言一句は私のこれからの人生を大きく変化させ、歯車を動かした。そう、私は復讐を出来るのだと、ここで初めて実感したのだ。少し前までは、この中の誰かに復讐してもらえればそれでいいと思って半ば諦めていた。しかし、それを自分で実行可能ならば、選ぶ選択肢は1つだろう。
「覚醒までの道のりは長いだろうけどやるしかない。まぁ、君にはその覚悟はあるみたいだから心配はいらないね」
「うん!」
なんでもお見通しらしい。全くその通り過ぎて何故分かってしまうのか、エルミラの魔法が気になり過ぎて落ち着かない。
「というわけで、サナについてはアリスに任せるから、妹のお世話頼んだよ?」
「ああ。任せろ」
この会議が始まる前から決められていたようで、戸惑いもなく私のお世話をしてくれるのは圧倒的お姉さん感を放つアリス。不満は一切なく、むしろ私に1番興味を持ってくれてたので接しやすい。
そして本題に入った会議では、今後の活動についてちょこっと話し合いをしていた。本当に主役は私だったようでそんなに重要なことはなく、全員がのほほんと楽しそうに談笑して終了した。
――「まずはサナが成長するために向かうべきとこを説明しよう」
私とアリスだけとなった部屋で、気まずさも無く仲を深める序に今後の予定を聞いている。振り向けば真っ白な長髪が私に当たるほどの距離で、ここからでは真っ赤な目が捉えられる。キレイだ。まるで魔眼のように、エルミラに似た紋章も入っている。
「サナにはこれから近くの大迷宮に潜ってもらう。名をコルデミル大迷宮といって、ここら一帯で最も大きな迷宮だ。そこには最下層に辿り着けば宝を持ち帰ることが出来ると言われているから、人間族が好き勝手に潜っては迷って出られなくなっているんだ。だからそれがチャンスというわけで、人間族をサンドバッグにして魔法を極めるんだ」
「……殺すってこと?」
「最悪殺さないといけないな。でもな、罪悪感とか背徳感とかいらないぞ。人間族は思ってるよりイカれ終わった種族だからな。サナのいた世界がどうだかは知らないが、この世界の人間は魔人よりも極悪非道だ。実際会ってみないと分からないだろうけど」
正直殺す殺さないはどうでもいい。殺すことに抵抗があったとしてもどうせ慣れなければいけないことだし。問題は私が死ぬか生きるかってとこだ。エルミラが居る限り死は無いだろうが、魔法がどれほどの時間まで有効なのか分からないのなら確信は出来ない。
なんなら生死云々よりも、出られるかが問題なのかもしれないけど。
「気になることは山積みだろうが、サナになら出来ると信じてる。だから、そんなに気負いすることもないぞ」
「うん。ありがとう」
「そんじゃ、魔法の使い方を教えてやるから付いてこい。複雑でも何でもない、ただの棒遊びだから簡単に扱えるようになる」
天才の基準か一般的な基準かはさておき、私も棒遊びと思えるほど簡単に習得出来ると良いんだけど。
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