第16話 六天魔人
こうして埋められた全ての席。誰1人として遅刻はしなかったようで、指摘する人がいないとこから読み取る。改めて、この場に座っていると周りが気になって落ち着かない。円卓には何も載せられず、ただ話すために集合しているようで、私に興味を持ってくれてるのは嬉しかったりする。
「エマも来たことだし、早速始めようか」
そんな中でエルミラは魔王とは思えないほど人間味のある笑顔で私を見ていた。悪を感じさせないのは逆に恐ろしいのかもしれない。会ったら絶望に浸ると自称するほど、普通ではないらしいし。
「まずは私たち――六天魔人の紹介をサナにするよ」
六天魔人。ここに来る途中に聞いていたが、魔人族の大半を統べる最強の名を連ねた者たちだ。ある者は大地を破壊し、ある者は空間を支配し、ある者は他種族を根絶やしにするほどの力を持つと言われる。これだけ聞くと圧倒的な力を持つと思われるが、それでも人間族やエルフ族、未知族には勝利出来ていないという。
誰がどう呼ばれているか、どんな魔法を使うのか知らない私には力量がどれほどか把握不可だが、相手も相当極致に立つ魔導士なのだろうとは安易に想像出来る。
それだけの力があって、この世界が壊れてないことが不思議だよ。
「じゃ、この部屋に入って来た順番に――風魔法のスタリス・ウェーカー、炎魔法のシュルク・ハーパー、光魔法のソフィア・ミルフィー、重力魔法のアリス・オーロラ、そして空間魔法のエマ・イチノセ。この5人に加えて私で六天魔人。名前と顔を一致させないと、今後の活動に影響するからしっかりね」
「う、うん」
この量ですら一気に覚えるのは難しい。まだ完全には馴染めない目の前の光景に、プラスして魔人族の頂点たちの魔法と名前なんて曖昧にしか無理だ。
それにしても長年戦争をしているのにも関わらず誰1人として欠けないのは強さ故だろう。私ですら感じ取れる目の前の人たちによる空間の歪み。尋常ではないと第六感含め、私の本能が言っている。
「今度は君の紹介をする――この子は今回の主役であり、未来の六天魔人であるサナ・マシロちゃんでーす!」
「え、未来の六天魔人?」
「そうだよ。色々と混乱するだろうけど、この中から誰かを蹴落として六天魔人に入れっていうことじゃないから心配しないで。ただ私が抜けて魔王って名乗るからその代わりにサナに穴を埋めてもらおうってこと」
「……私が?……そんな力ないけど……」
いつの間にか名前と名字を逆にされていることに違和感を覚えるよりも、なんの力も持たない、魔力が無い無能とも言われる私が六天魔人になるってことがどう考えても信じられなかった。
六天魔人とはその地位に相応しいと判断される猛者だけが選ばれる。魔法の覚醒や、元の魔法が強力でなければ絶対になることの出来ない領域だ。魔人族でも私はバカにされてるのか、なんて少し考えてしまうほどにはポカンとしていた。
「そんな悲観しないで。言ったでしょ?君の魔法は強力だって」
「……言われたけど」
「もしかして国王かそこらへんのバカにでも『お前の魔法は使えない。そもそもお前は魔力が無い』って言われたから気にしてるの?」
「まぁ……」
図星だった。
「確かに、君の魔法は無能だよ。でもそれは今だけ。これから君を鍛えるとだんだんとその凄さってのが分かってくるよ。そんなに時間も必要ないしね」
「ねぇ、そのサナの魔法ってなんなの?気にするほど弱っちい魔法?」
私たちの会話にソフィアが興味津々に聞いてくる。そんなソフィアに、エルミラはこの上ないニヤつきで目を合わせて答える。
「ううん。サナは――無能力魔法の使い手だよ」
その言葉を発した瞬間に空気感に変化が訪れる。それは良い意味での。
「「「無能力魔法?!」」」
全員が寸分違わず同じ反応をする。机の上に体を8割も載せるほど驚いたり、バンッ!と円卓が破壊される勢いで叩いたり。その行動に、そんなに驚くほどの魔法なのか、そう思うことはなく、即座に私の魔法は弱くないんだと理解出来るほど歓喜に包まれた様子に安堵の表情を見せた。
初対面で信頼なんて皆無なのだろうが、エルミラを信じてる私には、エルミラの信じる仲間を信じることはごくごく自然なことであった。だから思うのだ。私の魔法は何かしらの特別な力があるのではないかと。
そんな私が心の中で「おぉー」と驚いていると、お構いなしに、驚きの勢いをそのままに話を続ける。
「無能力魔法ってあの無能力魔法だよな……」
「ええ。それ以外に無能力魔法は存在しませんし、エルミラが言うのなら……偽りでもないでしょう」
「聞いてなんだけど、これはヤバいこと聞いたかも……」
「本当に存在するとはな。私も姉的立場として鼻が高い。それに、エマと同じ転移者でありながら、特異の中でも特異なのは……やはり鼻が高い」
「うん。やっぱり転移者なだけあるね。私も特異魔法だけど、それを遥かに超える特異魔法持って転移して来るなんて……私が弱く思えるんだけど」
各々が、私がどれだけ特異の存在かを低下した語彙力で伝えてくる。それでも私は十分背中を押してもらってる気になれた。無能と誰もが言わない。これだけで心に余裕が生まれるのだから、こちら側はさぞ生きやすいはずだ。
私は自然と笑みを浮かべた。
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