第15話 完全集合
瞬時に変化した空気感も今では慣れてしまった。右隣には魔王、左隣には猛者にも特異と言われ一目を置かれる存在。オセロのように私もめちゃくちゃ強い魔法使いにならないかな。
それにしてもここに来てシュルク以外に角を生やした魔人族は見ていない。そんなに希少な存在なのだろうか。禍々しいオーラは変わらず放っているが。
「私はアリス・オーロラという。好きなように呼んでくれ。君の名前は入る前に聞こえたから知っている。だからサナと呼ばせてもらうぞ」
「はい。分かりました!」
歳上のお姉さん感が半端ない。こんな美人で面倒見の良さそうな人なら下僕にでもなんでもなる。これも無難にアリスと呼ぼうか。
「ちなみにだが、サナを除くここに集まる者の中で1番若いのが私だ。エルミラの年齢は誰も知らないが、スタリスは153歳、シュルクは63歳、ソフィアは200歳で、最後に来るのが30歳だ。私は26歳だ」
シュルクがあの見た目で還暦超えてるのは驚きの驚き。ならば敬語は生まれつきか、趣味か、本当に敬意を持っているかだろう。
年の差ありすぎでしょ……。
「まぁ、今日からサナに抜かれるがな」
見た目なら圧倒的年長だが、これで歳下であり、まだ20代なんてこれからの人生イージーモードだ。そんなアリスを嬉しそうに見守るエルミラ。
「今日は珍しく喋るね」
しっかり聞こえていたようだ。いつもとは違うアリスの口数にツッコまずにはいられなかった様子。
「妹がいるような感覚に浸れるからな。どうしてもこの中では妹として扱われてきた私には、新鮮で興味をそそられるんだ」
「ははっ、可愛いとこもあるじゃん」
「ふんっ」
鼻を鳴らす姿も美しい。私の中でアリスは推しになったらしい。
「あー、今の照れ隠しでしょ。可愛いねぇアリスちゃん」
「わぁっ!」
自然な流れで私の背後から聞いたことのない声が響く。すぐに驚き、飛び跳ねる私。これが最後の6人であり特異コンビの1人であると瞬時に理解する。
我ながら中々察し能力が高い。
「あははー、ナイスリアクション、新人ちゃん」
後ろを振り向くと、私と同級生と言ってもおかしくは無いほどの見た目をした30歳と疑う女性が居た。女性3人ともにいつ座ったかいつ来たか分からないのは意識してるのか、どちらにせよ異次元の強さだとはこの身で感じる。
「君が転移者かー、実は私も転移者でさ、君と同じ日本から転移して来たんだよね」
「えっ、そうなんですか?!」
目を合わせていきなり途轍もないカミングアウトを始めた。体全体を細かく見て回るのは、なんだかこそばゆい。
「うん。でも、君の隣にいるエルミラから無理矢理1人で召喚されたから、クラスメートも一緒にってわけじゃないけどね。だから心強くない?同じ世界の人が居るって」
「……はい。なんかホワって安心した気がします」
イジメられてた私にはクラスメートが居なくても寂しさはない。故に共感もしにくいが、分からないこともない。中学生のまだイジメもなく幼い精神年齢の時ならそう思っていたかもしれないし。
「でしょ。それで、さっきの話に補足入れるとね、私はこの世界に来て30年だからアリスは30歳って言ってるけど、実は48歳で、転移前はピチピチの高校3年生だったんだよね。転移してから歳も取らなくなったし、体の時間が止まってるから寿命もない。つまりこれぞ本当の永遠の18歳ってやつ」
ピースして目の前に近づける。嫌味ではないが、精神年齢も止まっているようだ。出来るなら私も不老を味わってみたいものだ。いや、不死もエルミラが居る限り可能なのかもしれない。なら不老不死を。
「ほら、困ってるから早く席につきな」
「い、いや、考え事をしてただけで……」
ボケに対して無視をした辛辣な女と思われただろうか、いや、彼女を見る限りないな。呑気な性格なのか、それを気にすることなく「はーい」と手を上げて空いた席を探した。
そしてソフィアとスタリスの間に座るかと思われたが。
「動くのも面倒だし、スタリスの隣も嫌ってことで――はい、これで良し」
一瞬にして空いた席にスタリスが移動させられ、スタリスの居た席にシュルクが移動させられる。よってシュルクの座っていたアリスとスタリスの間が空く。何をしたのか、それは魔法以外の何でもない。
刹那のこと過ぎて理解が追いつかないものの、だんだんとここに居る人たちの性格が読めてきた。魔法の腕前は極致だ。
「おい!俺の隣が嫌って何だよ!」
「ちょっと!私もスタリスの隣嫌なんだけど!ズルいって!」
「お前もかよ!」
ソフィアとスタリスは同じ声量で愚痴を言う。スタリスが嫌われてるのは面白いが、女性からの悪口ナイフが全てスタリスに刺さるのも面白い。これが魔人族なんて誰が信じれるだろうか。私からすれば人間族の方がよっぽど地獄のような場所だと思える。
「少しの辛抱だから良いじゃん。100歳超えたジジイババアが子供みたいなこと言わないでよ」
口悪ー。
「っ!?エマ!あんたね!」
女性はやはりババアと言われるとキレる。芽郁も結もキララも華もそうだったな。ソフィアは下唇を噛みながら悔しさを見せるも、攻撃することはなかった。
「はいはい、落ち着いて。ヒステリック起こさないで」
流石は魔王。バカにしながらもしっかりとその場を仲裁する。それに「ふんっ!」と200歳とは思えぬ可愛らしさでそっぽを向くソフィアと、俺はこんなババアとは違う、という謎のマウントを取るスタリス。どちらも子供のままだ。
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