第14話 天真爛漫と寡黙
向かい側ではスタリスとシュルクが普段通りの仲の良さを見せつける一方、私はドキドキワクワクの連鎖で落ち着ける気がしなかった。
緊張はしているが、それと同じくらいどんな人なのか楽しみでもある。本当なら敵であり、倒すべき相手だったのが、今では仲間として隣に並ぼうとしているのだ。複雑な感情を持たないわけがなかった。
正面を見ることは出来ず、太ももの上で指をイジって遊んでは貧乏揺すりを始める。学校に通っていたさっきまでは、これをすると何かをされていたのたが、それが無くなった今、だんだんと解放感に浸る。
そんな時、私のタイミングなんて関係なしに集まり続ける魔人族の猛者たちの初めて女性を目にした。
「やっほー!お久しぶりだねー」
バコンッ!と何も考えず、力強く扉を開く。第一声から元気で気さくそうな雰囲気を醸し出す彼女には角は無い。一歩進めば艶のある紫色のロングヘアが、何をも魅了するように綺羅びやかに靡く。
「おー?エルミラの隣に座るのが、あの人間族の強強魔法使いさん?」
入室早々に私に目をつける。スタリスに続いて2回目だが、私からではなくあちらから聞いてもらえるのは助かったりする。
常に自分を貫いているような性格の彼女は目を輝かせて、それが衰えることもない。話は聞いているようだが、私を強強と表現するのには違和感を覚える。今まで魔法なんて1度も使っていないし、実感もしていない。
多少、エルミラからその魔法は強いと聞いているので嘘では無いのだろうが……。
私は何を言えばいいのか分からず無言のままだった。それをサポートするようにエルミラは言う。
「そうだよ。この子はマシロ・サナって名前の強強魔法使い」
「へぇー、エルミラがそう言うなら間違いないか。これからが楽しみ!」
眩しい笑顔を見せつけられると、いつの間にかエルミラの隣に座っていた。ほんの一瞬のことに驚いたのは私だけで、日常茶飯事のエルミラたちには、欠伸をする余裕があるほどのことだった。
これで空いたのは私の隣と、今来た彼女の隣だけ。
「あっ、そうだ。私の名前はソフィア・ミルフィー。光魔法の使い手だよ」
「光魔法……」
思い出したように紹介する名前。しかしそれよりも私は魔法の名前が気になった。光魔法、確か一色芽郁とかいう人間もその魔法使いだった。この場で初めて知る魔法が、1番目から強烈なインパクトを残した。
人間族でもあれほどの反応をされたのだから、この世界では相当レアな魔法なのだろう。故に実力もつけやすく、猛者になりやすいという因果関係のようなものがありそうだ。
手を振りながらも笑顔は変わらない。きっと芽郁たちのイジメの対象になるタイプだ。まぁ、この世界なら返り討ち100%だろうけど。
私と似た性格なら仲良くなれそう!
「残りは特異コンビですか。いつも彼女らは最後を競ってますが、大人ってそれが当たり前なのでしょうか」
この中で歳下だからなのか、シュルクは唯一敬語を使いながら残りの2人について呆れながら嫌味を溢した。何時に集合とすら聞いてないので遅れるって概念があるのかは知らないが、何かしらの理由があって忙しいのだろう。
それにしても特異コンビとは一体どう意味があるのだろう。私視点ではここに居る誰もが特異なのできっと違いが分からないと思う。
そんな疑問を頭の中で飛び回らせながら、特異コンビが来るのを静かに待つ。すると、この世界の何もかもに疎い私でも感じれるほど、空気感に変化が起こる。同時に強大な力で冷や汗が止まらなくなる。
これが特異と呼ばれる所以なのだと瞬時に理解した。
「失礼する」
「……え?」
扉が開けられた音もせず、圧に押されて下を見ていた私に衝撃が走る。気づけば私の左隣に座る寸前の美しくクールな女性がそこにはいた。この場に集まる女性は気配を消して瞬間移動が可能なのだろうか。
つい声を出してしまうほどの美しさだが、それは女性だと前々から聞いてた影響もあるからだ。全く知らない状態から彼女に会うなら、男性と見紛わなくもない。それほどクールだ。
170後半はありそうな高身長に、真っ赤な目をしている。隣に来ても収まらない圧は、やはり彼女から出されるものだ。
「相変わらず寡黙だね。それが似合うから良いんだけど」
「そうか」
「とりあえず、その魔法の無駄遣いはやめてよ。この子は特異だから問題ないけど、普通の人間には耐えられないしなんの影響もないかといったらそれは未知数だからさ」
特異。それはエルミラと初対面の時も言われたことと関係しているようだ。絶望しないのも私の魔法が関係しているのかもしれない。
「分かった。そうしよう」
言葉に覇気はないくせに、体全体から出るようなオーラにはここの誰よりも強くて重い。女性の言葉遣いでは無いのも見た目と相まって完璧に似合っている。エルミラの気持ちがよく分かるね。
「それにしても驚いた。本当に人間に私の魔法が耐えられるなんて。やはりエルミラの見る目はすごい」
スタリスとシュルクが圧についてギャーギャー言っている中で、それを無視しても隣の私に興味を向ける。フッと笑った顔は女の私にでも大ダメージだ。
「ふ、普通はどうなるんですか?」
魔人だとしても恐れることはなくなった。だからなにも気にせず、この場で気になったことは聞く。
「普通の人間なら、今頃地面に顔をこすりつけているさ」
「……それは大変ですね」
圧を実感した私は簡単に想像出来る。たしかにあの時、それほどの圧を感じた気もするのだ。
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