第12話 魔人族の第一歩
再び意識をはっきりさせ、目の前で捉えたもの。それは紛れもなく私自身の、見るに堪えない屍そのものだった。真っ先に地面と衝突した頭部は原型を保つことは無く、50mはありそうな高さから落ちた体は臓物を酷く撒き散らしていた。
それを見て私は10秒程度の吐き気と、蘇生によるものなのか、倦怠感を全身に感じた。だがそれだけで、もう蘇生して1分経過したが体に違和感は全く残っていなかった。
もしかして私ってそういうのに耐性あるタイプかも?
なんて思って居ると、すぐ隣にいつの間にか気配なく顕現したエルミラは言う。
「大成功大成功。これで君も人間族には死んだと思われるね。ちょっとこれは酷い有様だけど……」
流石の魔王でも臓物や原型を留めない人体は精神的に来るものがあるようで、顔を引きつっては、しかめっ面をこれでもかと体を引いて嫌悪感を顕にしている。
「ってことで君の体なんだけど、どうかな?元通りに近い顔に出来た?」
と言って私の顔を鏡で映す。どこから持ってきたのかは聞くまでもなく、魔法を使用したのだろう。一体どんな魔法なのか想像もつかないね。
転移して初めて見る私自身の顔。それはクローンと偽られても信じるほど、そこに転がる私だったものと変化のほとんど無い美形だった。変わったところは何と言おうと、この腕と額にあった傷がどこかへ消えてしまったとこだ。
何度見ても目を擦っても、そこに映し出されるのは肌に吹き出物もアザもない健康体そのものだ。切り傷すらないのだから、女である私には嬉しい限り。まぁ、魔人族に転移したなら顔とか多分関係ないと思うけど。
「これがこれからの私か……」
「……いつまで見てるの?5秒見れば十分でしょ」
エルミラのことを忘れ、しっかり自分の世界に入り込んでいた私に痺れを切らしたようで、退屈そうに不満気に頬を膨らませて待っている。
「ダメダメ。私にとっては感動の時間なんだから」
「はぁぁ、はい強制終了」
「ああぁ!!まだ見たかったのに……」
限界はとっくに超えてたらしい。地面を嫌っているように足をつけないまま、フワフワと浮く軽そうな体を空中で横にする。こう見れば休日の私を思い出すな。
「我儘言わないで。もう少ししたら君の元クラスメートがここに来るから、今は早くここから立ち去ることを考えて」
「あっ、そうか」
死んだこと、そして蘇生されたことすらも忘れるほど生き返ったことに夢中になっていたようだ。やはり不思議なことには意識を全て割かれるらしい。
「よし、魔王城に行こう。君にはこれから一緒に戦う仲間を紹介するからさ」
「仲間……分かった、行こう!」
仲間とは今の私には何なのか答えは無かった。裏切られることだけが当たり前だった生活を過ごす私らしい思い込みだ。
だが、それとは違うんだろうな、とは思った。エルミラが統率する魔人族ならばきっと時間かからず友好関係を結べるだろうと。
そんな複雑な感情を胸に、私はエルミラと魔王城へ転移した。
――そこは、間違いなく魔王城なのだろう。髑髏が廊下の両端にズラッと並べられ、不気味に点滅するロウソクも相まって寒気がする。しかし、それを除けば先程まで居た王城より3倍は装飾が施されており、シャンデリアなんて黄金色の灯りをバンバン放っていた。
どうしてもここだけで魔王城と信じなければならないのなら、私の中の魔人族のイメージがガラッと変化する。
ってか魔人族って人間族と見た目って変わるのかな?魔族なら獣とかいても変じゃないけど、人って文字がつくぐらいだから変わりないかも?
「着いたね。ここが魔王城――デスフィネア。廊下で申し訳ないけど、魔法陣がこの城の中に1075個あってランダムに選ばれるからどうしようもないんだよね」
「……そんなに?」
中途半端な数字に、そういうのがムズムズして苦手な私はツッコまずには居られない。それなら残り25個頑張るか、75個諦めてくれたら良かったのに。
「私の遊び心で適当に作りまくってたら、気づいたらこんな数になってたの」
「適当……」
テヘペロしてもおかしくないほど可愛げを出して言うが、遊び心でこんなにも凄そうな魔法陣を作れるのは流石と言ったところか。
「へぇ……ここが魔王城か。思ってたより人間っぽい」
「元は人間に作らせたからね。作りは変わらないと思うよ」
「人間に?」
「うん。まぁ、それもこれから分かると思うから、とりあえずそこの部屋に入ってみんなが来るのを待とう」
「そっか」
エルミラを見てるとその後ろや天井に目を引かれる。どれもこれも王城で見たものと比べると圧倒的に物に存在感がある。オーラっていうか、目を奪う魅力っていうか……芸術って分かんないや。
こうしてエルミラとともに魔王城での第一歩を踏み出す。何も特別なことは起こらないし、気分も昂ぶらない。だがそれが心地よく感じてしまう。
そして部屋に入るとそこには円卓を囲む7つの席が用意されていた。私とエルミラが座ることを考えれば残りは5席。つまりこれから私と会う、魔人族のトップを務めるのは5人ということだろう。
「好きな席に座って良いよ。いつも決められた席は無いからみんな自由だし。って言っても最初は私の隣が良いかな?」
「うん。それが良い」
緊張はとてもする。初対面で、それも学校のお偉いさんの立場に居る人に会うような感覚なのだから落ち着けるはずもない。
エルミラの横にある上品な席に腰を降ろすことで、私は深呼吸してその時を待った。
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