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第9話 イケイケドンドン




 ここまで来たのなら引くにも引けない私は、もう殴られても蹴られてもいい覚悟で言いたいことを言うと心の中で決めた。外見では睨みだけきかせた弱々しい女子だが、内心ではやるの?やるの?出来るのぉ?!と言う真逆のテンションでいた。


 決して内弁慶のようなものではない。学校では味方も居らず、上下左右見ることすらも恐怖だったので否応なしに従わせられた。だがここは違う。味方が居ると知った今、既に信じている私は変わったのだ。


 「ねぇ、早く遊びを教えてってば。暇人な君たちと私は違うんだからさ、時間は大切にしたいの。ただこれを続けるだけに呼んだとかじゃないでしょ?」


 これはただ催促しただけにすぎないが、こいつらには煽りに聞こえてしょうがないだろう。チラッと七瀬を見ると、足を振り上げている途中であり、それをスローモーションのように視界で捉える。


 あー、来る。


 ドンッ!と3度目の蹴りが今度は逆の横腹に決め込まれる。痛みを均等にしてくれるのは不幸中の幸い。


 「ちょっと、そろそろやめな華」


 「えー、なんで?」


 「そいつは私の奴隷になったって聞いてたでしょ」


 「そっか」


 珍しく止めたと思えばそんなことか、と変わらぬゴミっぷりを発揮していた。この七瀬でも芽郁には逆らえないので、有無を言わせず強制的にやめさせられる。


 私よりも七瀬、明楽、結の方が奴隷に相応しいと思うんだけどね。こんな忠実な下僕となる逸材は何処を探してもここだけだろうに。


 「待て」をされた犬のようにおとなしくなり、元いた場所へ戻ると私も同時にリミットを解除する。ここからはイケイケドンドンだ!


 「奴隷とかなった覚えはないけど?」


 奴隷であることを真っ向から否定する。ここからはもう止まらない。止まるつもりはない。今の私は、生まれてから1番のアドレナリンが出ていることに気づいていなかった。


 「はぁ?あんた耳も機能してないの?さっきあの国王っぽいじーさんと決めたでしょ」


 「証拠はあるの?」


 「あんたに証拠もなにもいらないんだよ」


 構わず続ける。


 「書類に記されてるの?この世界特有の奴隷契約でも交わしたの?お互いが言葉を交わして承諾したの?違うよね?ただ一方的に()()が都合のいいように思い込んで、それが絶対だって信じ込んでるだけでしょ。これのどこに私が奴隷として()()の下僕になると証拠が残ってるの?」


 私はただただ気持ちよかった。言いたいことを言える気持ち良さよりも、この話が筋の通ったもので、プライド摩天楼の芽郁が徐々に怒り心頭に発する様を見るのが快感で堪らなかった。


 饒舌に思えるほど早口で休む暇もなく発する。ここ最近の私はおとなしく、こいつらに従順だった。だから余計に私の本性を忘れていたようで「誰だこいつ」と言う目で見ている。


 芽郁を中心に全員が怒りながらも、正論を言われていることに反論出来ない。なら更に攻め込むべきだ。それも、七瀬を抑止するためにも。


 「こう言えば七瀬は暴力を振るうことしか出来ないから殴りかかろうとするでしょ?大人になりなよ」


 「はぁ?してないけど」


 全然そんな素振りを見せない七瀬に、私はありもしない嘘で煽る。そうすることで、殴ろうとした七瀬に恥をかかせ抑止し、殴らないつもりだった七瀬が殴りにかかることを抑止する。嘘には嘘でやり返すのが1番気持ちいいね。


 気分エベレストの私は、もうこれで終わらせようと決めた。いや、ここで終わらせないともう言う機会がないと悟っていた。


 「こんな意味もないとこに居るのは嫌いだから帰る。けどその前に言わせてもらうよ――お前たちは私をイジメて何を得ようとしてるの?」


 目の前の女子が、今までイジメられてきた女子とは思えないほど態度を変えて、言いたいことを言う様子はイジメっ子に相当なマイナスの印象を与える。


 「私が学校生活を送れなくなるまでやるの?私が何かしらの劣等感に悩まされれば終わるの?それとも、私が死ぬまでやめないの?たとえこれのどれにも当てはまらなくても、お前たちは一体何を目指して私をイジメるの?」


 イジメを始める理由なんて小さくも大きくもイジメっ子に原因がある。だが、終わる理由は絶対にイジメられっ子が原因なんだ。どんな低レベルなことであってもそれは変わらない。だからやめる機会を失ってしまう。それなら元からやるなよって思うけど、イジメとして恨みを晴らす人の性根が変わるわけがない。


 結果として、イジメはイジメられっ子に変化が起こらないと終わらない。転校や知り合いに打ち明ける、最悪の場合死を以ってして。


 だから質問を投げかけて10秒。その間に沈黙が続く。


 「結局は憂さ晴らしにイジメをして、気に食わないことを力で揉み消して自分を正当化してるだけ。それって自分で自分は弱いって証明しているのと同じだよ。少しは学びな。それじゃ」


 その沈黙を突き破るように最後の言いたいことを言い終えた私はそこで踵を返す。もうこの場にいるのはよろしくないと空気感で判断した。


 が、背中を向けた瞬間にガタンと音がする。同時に私は自分の言ったことを後悔することなく、覚悟だけ決めた。そして――。


 「おい」


 水樹が、男子の中でも低い声で私を呼ぶための「おい」を発する。あー、これはやばいやつだね。


 次の瞬間、振り向き終わらない私の左頬に強烈な感じたことのない痛みが走る。そう、水樹は私の顔面を全力で殴ったのだ。私はすぐに意識が朦朧とする。そして気を失う直前、もう1度殴られると流れるように目を瞑った。

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