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プロローグ

次回から本編です




 【イジメ】って言ったら、何を思いつく?私は今の自分かな。


 罵詈雑言の中で蹴る殴るやバケツに入った大量の水を掛けられる肉体的ダメージから、服を引っ張って下着丸出しにされて晒し者にされる精神的ダメージ、それら全てを今、全身に受けている。


 好んでやられてるかって?まさか、そんなドM的なことを頼むサディストではない。単に、イジメっ子に気に食わない感情を覚えさせてしまったが故に行われていることだ。


 それが日常かって?うん、そうだね。私は時間が経過するに連れて何も思わなくなって、飽き飽きした気持ちでイジメられてるけど、本人たちは止める気は一切ないらしい。


 自覚はあるんだって。お前みたいな女をイジメて()()()()って上から目線だけどね。


 もちろん抵抗はしない。悪化に繋がることをしっかり理解してるし。でも、抵抗しないことに満足しない人も中に居るから、それは臨機応変に対応してるけど。


 もちろん苦痛なのかって聞かれたら、迷わず「うん」と頷く。でも、聞く人いないし、いても気にも止めないだろうから変わる未来はない。


 そんな私の名前は――真白紗凪(ましろさな)。高校2年生の17歳だ。イジメられる要素なんて1つもない、普通の女子高生なんだと思ってたけど、それは私だけだったみたい。


 天真爛漫で何事にも元気に取り組む私はウザがられることが多かった。でも、それはよくある話だから私も気にしないで無視してた。


 でもある日、私が女子憧れの同級生男子に告白されて、それを断ってから日常にヒビが入った。


 そして聞こえるようになったのは、なんであいつが告白されてんの?どの立場で断れるの?調子に乗ってるの死ぬほどウザい、あの性格苦手、といった私への溜め込んだ負の感情だった。


 正直、こんなことでイジメなんて起こるかって思うかもだけど、私のクラスは問題児の巣窟で、特に恋愛云々に暗黙のルールとか設けてたイカレ女子ばかりだった。だから些細なことで私と女子との隔たりが出来た。


 だけど私は、人にどう思われようと優しく楽しく元気に接する自分として生きるなら、私を嫌う人間なんて無視すれば良いだけだって思って、それもまた全然気にしなかった。それに、男子が居た。人間関係の難しい女子と関わらなければ、私だって何とかなると思ってた。


 だけど、今思えば逆効果だったよね。


 今度は男子に媚び売ってるだの、ぶりっ子だの言われて、次第にエスカレートした噂は、私が整形しててヤリマンでお金を払えば股を開く女で自分のことしか考えない自己中で承認欲求の高いイカレ女ってレッテルを貼られるまでに至った。


 その時点で私の存在は男子からも女子からも否定された。


 根も葉もない噂を誰が信じるか。そう思うのは違うと知る私だけ。その他は全員、私をイジメる女子の大将を筆頭に、信じないといけない雰囲気を作られて、いつの間にか当たり前になったその環境で嘘としか思えない噂も本当だと信じられるようになった。


 変な話だけど、現在進行系でイジメられる私を見れば納得いくよ。男女関係なく、クラスメート35人の私を除いた34人が、日替わりにイジメを働いてるから。


 隣のクラスも上下の学年も助け舟は出さない。34人が全員「イジメはありません」と言えばそれで解決する話だから、問題にはならない。それに、イジメ方も上手くて、体に傷のつくようなイジメは1週間に1回とか、傷が見えない頭を攻撃したりして隠れるように陰湿なイジメをする。


 だから今の私はもう無心だ。感情はあるけど表には出さない。痛覚も機能しているから痛みは感じるけど、耐えれないほどの痛みはない。


 助けがないならただやられるがままで居よう、そう思った。いつか、私を助けてくれる人が現れるかもしれないと思いながら。


 ――そんなことを考えていた今日。私は高校2年生になって初めて希望を抱いていた。唯一のイジメられない時間であり、睨まれる回数の増える時間でもある授業中に。


 教室で現代文の授業を受けている際、突然足元にこの世のものとは思えない、真っ黒で禍々しいオーラを放つ結界のようなものが展開された。


 それに一同慌てふためき、誰もが恐怖した。動かそうとしても動かない体。助けを求めようとしても振動しない音。そんな中で無心に呼吸だけ出来る人は居ない。


 私も初めての感覚に鳥肌を立てて興奮していた。そういったファンタジー系のものにはあまり興味のない私だが、今この瞬間から何かが変わりそうな、私の中の歯車が動き出しそうな予感がしたんだ。


 止められない衝動に、グッと胸周辺の制服を掴む。


 そして次の瞬間、私の瞼は意思に背いて閉じられた。




 ――「――てー、おーきーてー」


 「……う……うる……さい」


 聞き覚えのない声に意識を覚醒させられた私は、呂律もままならならず、とりあえず返事をした。するとすぐに返事の返事がきた。


 「おー!やっと起きたね!おはよーう!」


 目の前に、イジメられる前の私を幻覚で見ていると思わせられるほど、似た性格をした少女?いや、人間ではない生物が居た。


 160cmの私とほぼ同じ程度の身長に、2本の、ベンタブラックと言えるほど黒を極めた角のような突起。しかし、それに似合わない黄金色をしたショートカットの髪に、紅い目をした生物。


 そんな生物に、私は「可愛い」という第一印象を抱いた。


 「……お、おはようございます……」


 挨拶をされたら返すのが当たり前。私は動揺しながらもしっかりと挨拶を返す。


 「おっ、私を見て怖がることもなく喋りだすとは――やはり君は素質があるみたいだね!」


 「……素質……ですか?」


 彼女は何を言っているのだろうか。こんなあたり真っ黒で、意識を失う前に感じた禍々しさも消えない場所で言われた言葉をその通りに理解することは出来ない。


 「いやー、私を視界に捉えた人は例外なく絶望して動けなくなるんだけどね、君はそんなことないからさ、期待通りって思ってね!」


 「は、はぁ」


 ガッ!と開かれた大きな目の中には、何やら紋章のようなものが刻まれている。それが微かに点滅を繰り返している。自然と惹きつけられる、神秘的な目だ。


 「とりあえず私の魔力が尽きるまで時間がないから、手っ取り早く要約したことを説明するね」


 そう言って彼女は理解の追いつかない私を無視して、伝えることを伝えようと必死に語り始めた。


 「私は――エルミラって言って、君が今から転移する世界の魔王をやらせてもらってるんだ。それでね、君の転移先では人間族、魔人族、エルフ族、未知族の4種類の種族が戦争ってか争いながら存在しているだけど、君は今から人間族に転移する。そこでなんだけど、君には私たち――魔人族側に味方として転移してもらいたいんだ!」


 「……なんでですか?」


 ここまではギリギリ追いつけた。種族が何だったかは忘れたけど、人間族に転移すること、魔人族に味方しろと言われていることは理解した。


 「君、イジメられてたんでしょ?」


 「……そうですけど」


 なんで知ってるの?なんて聞くのは野暮だ。理解不能の現象が目の前で起きてるので満足。もう何が起こっても驚かないよ。


 「君のクラスメートは皆、人間族に転移して人間族の味方として、この世界から魔人族だけを根絶やしにしようとする。それを阻止するために君の力が必要なんだよ。少なからずクラスメートに恨みを抱いた君は、魔人族らしいしね」


 「…………」


 「復讐序にって考えてくれればそれでもいいし、殺さずとも解決することも出来るから深く考えなくてもいいよ。だから今ここで決めてほしい。ここでじゃないと君の存在が意味を成さなくなっちゃうから」


 無言で考える私に催促をするも、もう私は既に答えを決めていたので焦ることはない。


 「そうだ。決める間に、ここでのことは君の記憶に死ぬまで残るから大切なことを全部教えるよ」


 そう言ってもう決めている私のことは知らずに新たなことを話し始めた。


 「君は転移先で【無能力魔法】を使えるようになって意識を取り戻す。人間族では底辺も底辺の魔法って認識だから、絶対に君はバカにされる。だけど実は無能力魔法はすごい魔法だから、私を信じてその場を乗り切ってほしい。そして最後に、君が目を覚ましてから2日後の夜に私は君に会いに行く。その時まで――絶対に人間族をいい種族とは思わないでね」


 「……分かりました」


 絶対にいい種族とは思うな……か。それは無いかな。多分目を覚ますとクラスメートが視界に入る。その瞬間もう人間族は嫌いだ。


 今の私は未知が目の前に広がっていても、何故か意気揚々としていた。イジメを耐え抜いた結果、こんな報酬が貰えるのかって信じられないことが起こる中で信じていた。


 きっと、私がイジメられたのはこの日からの新たな人生の為だ、とまで考えていたほどだ。


 「そろそろ時間かな。もう決めた?」


 「はい。もう決めましたよ。私は――貴女の下で生きます」


 「おぉ!!それは良かったぁ!!」


 1人なのにお祭り騒ぎのようなうるささ。それほど私が味方になることが嬉しかったのかと思うと、久しぶりの暖かい気持ちがモワッと浮き出てくるのを胸に感じる。


 あぁ、こんな気持ち、感じれるんだな……。


 「ホントに良かったよ!ありがとう、サナ!」


 四肢を使って使って喜びを全身で表現する。そして呼ばれた私の名前。


 「……どうして私の名前を?」


 自分から名乗ることは無かった。それに、魔法を使えたとしても名前なんて知ることはしないだろうと思った私の質問。


 「ああ、それはね、この空間は私のテリトリーだから思い通りに出来るの。とは言っても制限あるけどね。だから君の名前は何かなって思ったら自然と名前が頭に浮き出るんだー」


 「なるほど」


 このエルミラという魔王がどれほどの力を持つ生き物なのか、それは簡単に図れるわけもなく、分かったのは絶対に強いということだけ。


 「あの……なんでこの空間に私だけなんですか?それもエルミラさんの魔法と関係してるとか?」


 「そっか、見えないんだったね。はい、これで見える?」


 指を弾くと、すぐにあたりは晴れていく。そしてここから50mは見えるようになった時、私の視界に入ったのは34人のクラスメートが全員瞼を閉じて倒れているところだ。


 「私は今、君以外の全ての時間を止めてるんだよ。転移先の世界も転移前の世界も、この世に時を持つ概念全てのね。だから私の魔力でも結構きつくてさ、もってあと1分ってとこ」


 「すごい……」


 以外の言葉が思いつかない。何も知らない私でも、莫大な魔力を消費する魔法だと分かった。それまでして私を味方につけたいというのは、私自身分からないが、それだけされては私を利用するために味方に連れ込んだとは思えない。


 「他に聞きたいことはない?残り時間も僅かだけど」


 「はい、特には無いので、2日後に何かあれば聞きます」


 「うん、よろしい!」


 腰に手を当て胸を張り堂々と構える。その姿はどこか昔の私を彷彿とさせる。味方に誘われるのは、似てるからってことも関係してたりして。


 「それじゃ、時の流れを元に戻すよ。そうなれば君はすぐに意識を失って、次目覚めるのはイジメっ子と同じタイミング。それと、私のことは秘密にしてね。言っても信じてはもらえないけど、一応ってことで」


 「分かりました」


 ここ半年で1番の元気で返事をした。それも気持ちを込めたのも久しぶりで、自分が生きてるんだって実感することも出来た。


 そんな思いの中、再び指が弾かれる。その音を聞いた瞬間、私は急激な脱力感に襲われ抵抗する暇もなく地に倒れた。意識だけが刹那残ったが、何かを考えることなんて出来なかった。でも、私は安心して瞼を閉じた。そう記憶していた。


 ――私は今から、異世界へ転移するらしい。これが第二の人生ってやつかな?もしそうなら、絶対に笑顔で幸せに死んでやるまで足掻き続けてやる!

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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