プロローグ・第一章 現実 第一話
―プロローグ―
「残念ですが、あなたは若くしてトラックに轢かれ、亡くなりました。」
「あなたは死んだのです。」
白髪の女神様のような人が俺にそう告げてきた。
(こ、これはラノベとかアニメでよく見る展開!異世界ハーレム俺TUEEEルートキターー!!)
この時の俺はまだそんな幻想を抱いていた。
―第一章― 現実
「いってきまーす。」
俺の名前は宝条陸。先月から高校一年生になった。陰キャでオタクだがオタク友達は何人かいるのでボッチではない。今日も今日とて学校に登校しているところだ。
「はぁ、学校かぁ〜。最近つまらないし、何か面白いこと起きないかな〜。」
「曲がり角でぶつかった美少女が転校生だったり、特別な能力手に入れたり、異世界行って俺TUEEEしたり・・・」
「やばいな俺、アニオタ極めすぎだろ・・・」
そんなつまらない願望に浸ってボーッとしていたのかもしれない。
プップー!
大きなクラクションの音が鳴り響いた。どうやら俺は赤信号で大通りの横断歩道を渡っていたらしい。
「ッ!」
気づいた時にはもう遅かった。避けれない。
ブツンッ!っと俺の意識はそこで途絶えた。
目が覚めると、俺は神殿のような場所にいた。
「ここは・・・」
「お目覚めになりましたか。宝条陸さん。」
「残念ですが、あなたは若くしてトラックに轢かれ、亡くなりました。」
「あなたは死んだのです。」
白髪の女神様のような人が俺にそう告げてきた。
(こ、これはラノベとかアニメでよく見る展開!異世界ハーレム俺TUEEEルートキターー!!)
「そ、そうなんですか。」
嬉しさが少し漏れているような声で答えた。
「はい。したがって、目覚めたばかりのあなたに言うのは酷ですが――」
「わかってますよ!とある異世界を救って欲しいんですね!もちろんやらせて頂きます!」
俺は興奮しすぎて先走って答えた。
「え、いや、あの、」
「これから俺にチート能力をくれるんですよね!俺、異世界転生への理解は十分にあるので!さぁ、どうぞ!」
「いや、そうではなk」
「さぁ、さあ!」
「聞いてください!」
女神様がブチ切れたのか、大声で叫んだ。
「え、あ、はい、すいません・・・」
俺は女神様の大声にビビっていた。
「あのですね・・・そもそもなんで死んだ人が異世界に転生する必要があるんですか・・・」
女神様は疲れ気味に言った。
「いや、それはもちろん異世界で魔王軍が侵攻してるーとか世界の危機が迫ってるーとか、それを救うためじゃないんですか?」
「もちろん異世界は存在して、実際そのような状況の世界もあります。ですがその危機に神が介入して解決してしまうのはルール違反だと思いませんか?」
「た、確かに・・・」
「その世界の人々が自分で問題を解決しなければ意味が無いんです。解決できなければそれまでです。」
「でも、それって何か無慈悲じゃないですか?」
「無慈悲ですか、では、例えば魔族が侵攻していたとして、人類側に強い転生者を送ったとします。そして、罪の無い魔族もすべて倒して、人類からすれば世界は救われます。」
「ですが、魔族から見ればどうです?自分達は自力で敵を倒そうにしているのにも関わらず、敵には神が介入する。これでは魔族にとってはかなり無慈悲であると思いませんか?」
女神様は俺に問いかけてきた。
「それは、そうかもしれないですけど、」
「神はあらゆる物に対して平等でなければなりません。ですから、転生など世界への介入は基本的にはできません。」
「・・・なるほど、わかりました。」
「わかってもらえて良かったです。それでは、先ほど言かけたことですが、あなたにはこれから天界で学校に通って頂きます。」
「え?学校?」
「はい、あなたは高校を卒業せず亡くなってしまったため、学力、知識を付けるという目的で学校に通って頂きます。」
「嘘だろ!?なんで死んでまで学校行かなきゃなんねーんだよ!」
「これは天界の決まりですので仕方ないんです。」
「はぁ、まぁ、わかりましたよ・・・」
「それでは、これから天界についてのご説明をさせて頂きますね。私達がいるここは天界の地球支部です。地球で亡くなった方がここに送られてきます。もちろん何か重大な犯罪などを犯した方は地獄に送られます。そして、天界では容姿は最初に1度だけ若返らせたり、老化させたりできます。年齢は亡くなった時の年齢から数えていきます。もちろん既に死んでいますので傷を負うことはあっても基本死ぬことはありませんし、歳を重ねても老化はしていきません。ただし、粉々になったりしてしまうと、今度は存在ごと消滅してしまうのでお気を付けて。」
「こ、怖ええ・・・」
「そうそう粉々になることは無いので大丈夫ですよ笑 そして、学校を卒業してもらったら下界と同じように仕事に就いてもらいます。」
「え、働くんですか?天国なのに?」
「人はだらけてしまうとダメになってしまうので、何かやりがいなどがあった方が良いんですよ。安心してください、下界程厳しい仕事は無いですし、転職も簡単にできます。休みも最大週4でとれますし、失業することもありません。貨幣も
存在しますが、給与は全ての仕事で、安定した生活を送れるくらいは出ますし。」
「すげぇホワイト・・・」
「あ、それと結婚して子供を持つことも出来ますよ。結婚した場合には仕事を行うのは片方だけでも良くなります。子供を持った場合は天界から教育費、諸費が全額給付されます。天界人の間にできた子供は子供が望む年齢の容姿で成長が止まります。天界の説明はこんなところでしょうか・・・」
「天界最高すぎないですか」
俺は天界の待遇の最高さに感銘を受けていた。
「気に入ってもらえたのなら良かったです。あ、それと、天界では翼で飛ぶことや魔法を使うこともできますよ。魔法の強さや魔力量は才能と努力次第ですが」
「ほんとですか!」
(魔法・・・異世界には行けないけど、魔法が使えるのは嬉しすぎるぞ〜!もしかして才能がとんでもなかったりして・・・)
「それでは、翼を与えますね。」
魔法陣が展開され、俺の背中の辺りが光に包まれた。
「つ、翼が生えた!すげぇ!」
「次に、ステータスの測定と魔力適性検査を行いますね。こちらの水晶に手を触れて下さい。」
(ステータス測定の定番、水晶キター!こ、これで水晶が割れたり、見たことない反応が起きたり・・・)
俺はドキドキしながら水晶に触れた。
「えーっと、これは・・・」
「どうですか!」
「魔力量、知能など大体平均的で、あ、攻撃力と防御力が著しく低いですね。肉弾戦においては雑魚ですね。」
「酷!え、何かずば抜けてるものとか無いんですか?」
「ないです。」
「即答・・・」
「魔力適正は・・・ッ!?」
「え、何かありました!?」
「氷属性と闇属性・・・ですね」
「珍しいんですか?」
「二属性持ちも氷属性も珍しくないんですが、闇属性は天界には存在しません。」
「てことは、俺もしかしてめっちゃすごい才能あります!?」
「闇属性は主に地獄の者たちが持っているので、悪魔に近い存在だと考えられますね・・・」
「悪魔寄りって、それって何か良いんですか・・・」
「良いことより悪いことの方が多いですかね・・・怖がられて他の人から距離をとられるとか・・・」
「ぼっち生活まっしぐらじゃないですか!」
「ですから、闇属性の魔法は強力ですが、天界人が使うとどうなるのか分かりませんし、先ほど言ったような問題も懸念されるので使用は控えた方が良いと思いますね・・・」
「わかりました・・・」
「それでは、これから学校前に転送しますね。それと、最後に、私の名前はメイラです。科学世界の担当の女神なのでまた何かわからないことがあれば基本ここにいますのでいつでも聞きに来てください。」
「はい!これからよろしくお願いします」
「こちらこそ。それでは、良い天界生活を。」
ある日突然死んでしまった俺に待っていたのは、異世界転生チートハーレムでもなんでもなく、天国という現実的なものだった。