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グリモア【黒の転校生】  作者: レジェン
序章【魔法学園】
3/5

序-1 魔法

おまけのようなものです。グリモアという世界の魔法について再確認するためのエピソードです。

一応、次話への繋がりもありますが、魔法の簡単な説明が必要ない方は見る必要はありません。

 流れゆく景色。

 自分が乗る車のすぐ横を抜けていく車や、ひたすらに高速道路の防音壁、なんていう何の面白みもない景色を、退屈そうに眺めている。

 実際、マジで退屈なわけで。

 話し相手である隣に座る女はというと。

「はい、このまま彼を学園に送り次第……。了解です。はい、はい……」

 俺の名前を聞いたあのやりとりを最後に、長々と誰かと話をしている。内容から考えて彼女の上司なのだろうが。

 馴れ合うつもりはないのだが、やはり誰かと話しているってだけでいくらかは暇を潰すことができる。

 ……なんて、昔なら絶対にしなかった思考だ。これも刹那の影響なのかね。

「はい、それでは」

 と、ちょうど通話が終わったようだった。

 スマホを懐にしまい、ふぅ、と息をつく。

「はぁ……疲れるわね」

「上司か?」

「ええ。ちょっとね」

 笑ってはいるが、どこか不満そうなのは隠せていなかった。上司に何を言われたかなんて、聞く必要はない。

 ……だが、彼女の用事が終わったのなら、聞きたいことが聞ける。

「一応、聞いておきたいんだが」

「え?」

 俺の方から話しかけるのがそんなに意外だったのか、マリアは目を丸くする。

 だが俺は、そのまま話を続ける。

「魔法について」

「……ああ」

 聞くことの内容がわかると、マリアは何故だか残念そうな表情をしていた。何を残念がる必要があるのかは知らないが。

「それじゃ、基礎的なことだけ教えようかしら」

 だが、すぐに切り替えてさっきまでと同じような淑やかな笑顔を見せる。

「まず、魔法についてだけど」

 


***



 魔法。

 何らかのきっかけがあって覚醒した人間が扱うことのできる、体内にある魔力を用いて何かしらの現象を起こすことのできる力。

 簡単な例で言えば、火を出したり水を出したり。物を動かすことなんかもできる──かもしれないらしい。

 確認できている基本的な魔法は三種ほど。


 まず、先程例に挙げた火や水なんかの自然現象を引き起こす、基本的な【自然魔法】。


 次に、相性がいい者が比較的多く、大抵の魔法使いが使用できるという【強化魔法】。


 最後に、魔法の使い手の人工物や想像上の物体を呼び出すことができる【召喚魔法】。


 この三つを【現象魔法】といい、形而下魔法とも呼ぶらしい。

 また、現象魔法とは別に【非現象魔法】というものが存在するという。

 幻惑、予知。そんな特殊な魔法が多く、扱いが難しいとされる魔法らしい。


 そしてそれら全ての魔法には必ず【相性】というものが存在している。相性といっても

 AがBに強い、とかそういうのではなく。

 魔法を使うためには【命令式】というあらゆる物事を決定するための公式が必要になるらしい。

 自身の魔力をその公式に従い、練り上げることで魔法に変換するという。

 その際、命令式が簡単に見つかるか否かでそいつの使える魔法の得手不得手がわかるというが。


「私の場合は、雷の発生と召喚魔法。現象魔法に分類するわね」

 マリアが身につけていた手袋を外し、指と指の間に雷を発生させてみせる。

 バチバチと白く光る雷。

 何かの手品というわけでもなく、指先からスタンガンのように雷を放っていた。

「……てか、あんた魔法使いだったんだな」

「まあね。……言ってなかったかしら?」

 聞いてませんけど? そんな感じで、二回くらい頷いて答える。しかし、マリアはそんな俺をみてクスクスと笑い「ごめんなさいね」とだけ謝罪、話を続ける。


 魔法の中でも、扱うことが、そして相性が合う者が少ない魔法があるという。

 それが、非現象魔法と回復魔法。回復魔法は、人体の構造について詳しければ効果が高まるというが、相性が悪ければ習得は絶望的らしい。

 ……が、俺の使った魔法は、傷口の修復、何でものとは比べ物にならない。

 蘇生。死んだ人間を蘇らせるという、回復どうこうじゃ説明できない域の魔法だ。

 生命活動の停止した人体の完全な修復。なんて、本来はあり得ないらしい。回復魔法を使える適性があったとしても。

 

 稀、なんて話じゃない。

 前代未聞。世界初の、人体蘇生を可能とした魔法の使い手。

 上じゃ、そう騒がれている。そうマリアから聞いた。上というのは軍の上層部らしい。先程の電話も、俺への対応に関することらしい。

 随分ととんでもないことになったものだ。

 軍が騒ぐほどの力を持つ者の一人。そんな大事の中心に立つことになろうとは。

 現実離れしてはいるが、全て現実だ。

 魔法学園に入学したら、卒業するまでに六年の教育を受け、魔法を制御することが条件だというが……これはそう簡単に刹那のところに帰れそうにないな。



***



「と、ここまで説明したけど、質問は?」

 魔法に関する基礎的知識を説明し終え、マリアは他に知りたいことはないかと俺に聞く。

「いや、もう知りたいのは──」

 と、言い終える前に、あることが思い浮かぶ。

「……一つだけあるな」

 それは、病院にいた時の会話。

 俺の保持する魔力量。それについての会話の中で出た、もう一人の転校生の存在。

「俺と同じ魔力の持ち主がいるって話があるって言ってたが……それについては?」

「…………」

 難しい質問なのか、マリアの表情が曇っていく。そして、悩んでいた彼女の口から出てきた言葉は──

「詳細は、私も知らないの」

「…………はあ」

 解答不可。それだけだった。

 ……そうなると、ますます気になる。

 俺も十分異質らしいが、軍人で、しかも隊長を務める彼女ですら知らない情報……。

 異常な量の魔力。そして、俺とはまた別に騒がれてるという力。一体、どんな力なのか。持ち主はどんなやつなのか……。

 気になることは増えていくばかりだった。

「ごめんなさいね。答えられなくて」

「いいさ。わからないもんは仕方ねぇだろ」

「けど、その疑問の答えはもう少ししたらわかるわよ」

 そう言って、マリアは窓の外を指さす。

 俺も釣られて、指さした方へと視線を移した。

 いつの間にか高速道路から降り、俺たちを乗せた車は都会の街中を走っていた。

 その光景は、まるでテレビなんかで見る東京のようだが……少々違うらしい。

 運転席横のナビマップを見てみると、すでにここは、話に聞いていた埼玉県にある『風飛市』という場所だった。

 しかし、だ。その街並みは俺がいた街よりもずっと大都会で、東京に負けないんじゃないかというくらい、店やビルが並んでいる。

 想像していたものより数十倍も都会だ。

「さ、あと数分でグリモアに着くわ。準備、しておきなさい?」

 準備、とはいうが何も用意するものはない。荷物は全て後ろの荷室に置いてある。あとはただ、のんびりと到着を待つだけだ。

「了解、と」

 適当な返事をして、背もたれに寄りかかる。適当にぼーっとして到着を待とう。……なんて、そう考えていた。

『緊急、緊急──応答せよ!』

 が、気の抜けた空気が一瞬で張り詰める。

 ナビの横に取り付けられたトランシーバーから、緊迫した男の声が車内に響く。

「こちらマリア! どうしたの!?」

 すぐさまマリアがトランシーバーを手に取り、通信に応じる。

『隊長! 風飛市郊外、神凪神社に魔物出現! 現在グリモアの生徒が応戦中とのことです!』

「神凪神社……すぐそこね。了解、現場に急行するわ!」

『我々もこれより神凪神社へ向かいます! 御武運を!』

 それを最後に、通信は途切れた。

 マリアから、先程までの淑やかな笑顔は消え、真剣な顔つきに変わる。

「影浦! 現場に急行!」

「了解」

 今まで無言だった運転手が突然口を開いたことに一瞬驚いた。その隙を突くように、車が突然横に大きく揺れる。

 シートベルトをしていたとはいえ、のしかかる重力に押され、窓に強く頭をぶつけてしまった。

「い、っつ……」

 揺れが収まると、車はさっきとは真逆の方向に進んでいく。通信にあった“神凪神社”という場所に向かっているのだろう。

「魔物が出たって?」

 頭を打った箇所を摩りながら、詳しく内容を聞いてみる。

「ええ。ごめんなさい、学園に行くのはまた後で。先にこちらを済ませちゃうわ」

「現着まで残り五分です」

「戦闘準備を進めるわ。影浦、急いで!」

「了解」

 その会話の直後、俺たちの乗った車が一気に加速。正面からの重力に押しつけられ、座席に体が押し付けられる。

「や、ば──」

「麗矢君ごめんなさい、我慢して!」

 車内からも、タイヤが激しく擦れる音が聞こえた。どれだけスピードで車が走っているのかも、身体中にのしかかる重力が物語っていた。

 そして車は、風飛市内の道路を凄まじい速度で駆け抜けていった。


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