23 Days until Christmas
寝起きは最悪。昨日はあれからずっとねられずにいた。鏡に映る目の下には濃いクマが…とりあえずコンシーラーで隠し、コンビニで栄養ドリンクを調達した。
いざ、オフィスの扉の前まで来るが取手を掴んだ手がゆうことをきかない。ガラス越しにはすでに出社した人たちが慌ただしく働いていた。
「田宮さん、おはようございます」
声に驚き、思わず取手を掴んだ手を離した。
「今日の分です」
そう言って小暮は私の手にトナカイの可愛らしいアイシングクッキーをのせる。昨日のブラック小暮とはうってかわって、今日はいつものヘラヘラした小暮だった。
「あ、の! 小暮くん昨日のあれ、イタズラにしては度が過ぎると思うんだけど」
すると小暮はいとも簡単に私のシャツのボタンを一つ外した。
「ちょ、ちょっと!」
「僕は本気ですよ」
私の耳元でわざとしゃべると、そのままオフィスに入って行った。私は周囲を警戒したが、特に気づいている人はいないようだった。
な、何なの!? イタズラじゃないなら何? 私の気持ちなんてお構いなしで、結婚だの、本気だの。モヤモヤしながらも、自分のデスクへ向かう。
「田宮さん、今日はキャンディです。あれ? なんか朝から疲れ顔ですけど大丈夫ですか〜?」
林が今日も甲斐甲斐しく小暮の手伝いをしていた。
「…や、茅? ちょっと聞いてる?」
「あ、ごめんごめん。何だった?」
午前の業務を終え久々に外でランチをしている。隣で海老ドリアランチをつついているのは、同期の高田翠だ。唯一、プライベートも話せる会社の友だちである。小暮のことを話すために、社食ではなく今日は近くのカフェへおもむいたのだ。
「だから、小暮くんのこと。もうこれはタチの悪いイタズラの域超えてきたね!」
「まぁ、そうなるよね、ははは…」
「でもさ、小暮くんのそうゆう話、今まで一度も聞いたことなかったから驚いた。すごいできる子で有名だし、男女隔たりなく好感もたれる感じだと思ってたんだけど…まさか、茅…小暮くんに何か恨まれるようなことしたんじゃ…」
いやいやいや、全く身に覚えがありません! 同じ部署だからって今まで関わったこともほとんどありません! 何だかモヤモヤしたまま午後の業務に取りかかる。
「田宮さん、すみません。この案件なんですけど…」
「えっと…」
振り向こうとすると椅子をつかまれた。背後からデスクに書類が置かれ、PCを覗き込むような格好で小暮が現れた。
ちょっ、ちょっと近いんだけど!
「そのまま前向いてて下さい。……疑われたくなければ」
あたりを見回すも幸い周りには人がいなかったが、少し離れたデスクから林麻里亜が疑い深げな視線を投げかける。
「今日、食事でもどうですか?」
PCを右手で叩きながら、あたかも仕事をしているように装い小声で話しかけてくる。
「冗談に付き合ってる暇ないって言ったよね? それとも私、小暮くんに何か気に触ることでもした?」
極めて冷静に返答をする。
「やだなぁ、俺本気で田宮さんのこと落としにかかってるのに。伝わってなかったですか?」
「伝わるも何も!」
振り返ると鼻先が触れる距離で小暮と目が合い、少しでも動けば事故が起こりかねない状況に陥る。不覚にも小暮の意外に長いまつ毛や少しグレーがかった眼球に気を取られてしまった。
横目で林麻里亜の動向を確認するが、電話対応をしていてこちらの様子には気づいていないようだった。
「伝わっていないようなら、ここで俺が本気ってこと証明しましょうか?」
少しも動揺する素振りも見せず、今にも食ってかかりそうな勢いに根負けする形になり、終業後のディナーを確約させられた。
「じゃ、後ほど」
背後からスッと離れ、ようやく身動きが取れるようになった。なんだかどっと疲れて少しの間仕事が手につかなかった。