学校が邸になっていた話
注意:未完結作品です
それでもよろしい方はどうぞ
0.夢に近い現実
くるくるまわる
くるくる、くるくる
目の前の闇の中で何かが廻り続けている。
何かが廻る風切り音と共に誰かの声が聞える。
僕はその声をよく聞こうと耳を傾けた。
「……ミ……キミ……キミ。起きているかい?」
目を開けるとそこには油汗まみれの運転手の顔があった。
僕は「うぁぁぁぁ!」と叫び、椅子から転がり落ちた。
「大丈夫か?」と運転手が聞いてきた。
年齢は40歳は超えているだろうか、何度も乗っていてもまじまじと見る機会が無いのでわからなかったが髪は鬘の様だった。
僕は立ち上がりながら「大丈夫です」と言った。
「終点だが戻るかい?」と聞いてきたが僕は「大丈夫です。此処で降りるつもりでしたから」そう言って料金を差し出した。
運転手はそれ以上何も言わなかった。
いい人だな。と思ったが、判ってしまった鬘がどうしても気になった。
バスを降りた僕は道なりに坂を上っていった。
バスの終点からは私有地と言うことになっている。
僕は大きな買い物袋を四つ手に持ってひぃひぃ言いながら坂を上った。
登りきると目の前には花畑が広がった。と言っても誰が管理している訳でもなく自生している花であり管理者はいない。
僕は花畑の前で一旦止まって大きく深呼吸をした。
空気が澄んでいる。
今行って来たところとは大違いだ。
一歩、また一歩と管理者の居ない花達を踏みしめ邸へ向かった。
1.憂鬱な朝
寝返りを打つと硬い感触がした。
平沢みどりは落ちてくる瞼に必死に抵抗しながら自分の寝ている場所を確認した。
そこにはベッドは無く見えるのは床だった。
もっと寝ていたいと起床を嫌がる気持ちとは裏腹に体に染み付いてしまった習慣は着替えをしようと躍起になっている。
晴れない気分のままカーテンを開き大きく背伸びをする、何時もならそうすることでいくらか気分が晴れるのだが今日は違った。
眠りに落ちてゆきそうになる自分を感じながらゆっくりと着替える。
階下から母親の大声が聞えているが無視だ。今日はとことんゆっくりってやろう、とみどりはそう思った。
2.消失したもの
そんなこんなでみどりが家を出たのは八時十三分を過ぎていた。
登下校で使っている道路を何時もよりゆっくりと周りを気にしながら歩いていった。
学校の近くに来るとなにやらざわめきが聞えてきた。
なんだろう、事件でもあったかな? よし行ってみよう。などと野次馬精神を爆発させたかったがやはり気分が乗らなかった。
しかし、みどりの気分と関係なく校門に近づくにつれざわめきはどんどん大きくなっていった。
校門は閉まっており、その前には生徒や先生、ついでに野次馬とリポーター達が集まっていた。
みどりは誰か見知った顔が居ないかと辺りを見渡した。
幸いな事に直ぐ近くに賀川勇樹がいた。
後ろから近づき驚かす様に声を掛ける。
「や、ゆーき。おはよう」
しかし、勇樹は平然と振り返り挨拶を返した。
「ん。みどりさんか。おはよう」
「相変わらず反応薄いね」とみどり。
そう言われて勇樹は「元からですよ」と切り返す。
いつものやり取りを終えみどりは本題に入った。
「さて、ゆーき。何があった?」
「学校が、消えた」勇樹がそう言った時、常に無表情(それが勇樹の自然体なのだが)としては珍しく困惑の表情が見て取れた。
3.綺麗サッパリ
「ゆーき。冗談じゃないよね」みどりは口角を上げて言った。
「わたしが冗談言うと思う?」勇樹はギロリとみどりを睨みながら言った。
長い前髪から薄っすらと見えるその目はゴルゴンを連想させた。
「冗談。それにしても……漂流なんとかって漫画みたいじゃない?」
「少し違うようだよ」そう言いいながら、群集からみどりと勇樹の元に長渡くすりと古辺梨佳がやって来た。
みどりは挨拶もそこそこに聞き返す。
「どういう事? 学校は消えたんでしょ? くすり」
「あぁ。消えたとも綺麗サッパリ」とくすり。続けて梨佳が「その代わりに変な家邸が建ってる」と言った。
4.家
「家!?」声を重ねたのはみどりと勇樹だった。
「あれ、勇樹は知ってたと思ったけど」とくすり。
「ゆうちゃんはここにずっと居たから見て無いと思うよ」と梨佳はフォローを入れたがみどりはそんな話に構わずに「ふーん……。で、誰かその家に入ったの?」と興味深々の様相だった。
「入っていったよ、先生だな、あれは。」くすりは目を細めて何かを考えていた。
梨佳は「一番は体育の小峰先生だよ。あとは、数学の鈴木先生と教頭先生と……」と順に名前を挙げていった。
みどりは「良く遠目で先生の見分けがつくなぁ……」と梨佳のほめ言葉を延々と梨佳が挙げる先生の名前を聞き流しながら考えていた。
5.秘密の侵入者たち
みどりが到着して三十分ほど経っても相変わらず校門前は学校関係者と野次馬と報道関係者で一杯だった。
不意にくすりが小声で話し始めた。
「実は、さ。先生以外にも中に入ってた奴が居るんだよ」
「え!?」っと大きな声を上げる梨佳に唇に人差し指を当ててシーっと言う仕草を勇樹がすると梨佳は慌てて両手で口をふさいだ。
「ウチの学校の生徒が十人……、もしかしたら二,三十人かもしれないけど中に入ったんだよ」そう言うとくすりはブルッと身震いをした。
勇樹は校門を見つめた状態でみどり達だけに聞える様に小声で言った。
「……何か特典があるのかも」
勇樹の視線は校門に釘付けだった。
「特典って……、興味本位で行ったんじゃないのかな」とやはり校門の方を気にしながらみどりは言った。
5.不思議の町の
「あーれ?みどりちゃんじゃない。」不意の声に勇樹と梨佳はビクッと肩を揺らしそっと後ろを振り返った。
其処には白い長髪の女性が立っていた。
「有川さん、久しぶりですね」みどりはその女性、有川素子に敬意を払うように敬語を使った。
くすりはその事実に―みどりは目上の人にもほとんど敬語を使わない―驚いたようだった。
「その方は?」と自分の後ろに隠れた勇樹と梨佳の頭を撫でながらくすりは言った。
「あれ? くすりは知らないかな? 有川さんだよ。生徒会長の」みどりは大げさなモーションでくすりに言った。
「くすくす……。やっぱりみどりさんは面白いわね。まぁ、私を知らなくても無理ないわね。だって傀儡会長ですもの」
素子はくすくす笑いながら自分は”飾りだ”と宣言した。
「えぇ! そんなこと無いですよ!」とみどり。
それに対して素子は「だぁって、みんな私には何も触らせてくれないのよぉ」と頬をぷぅと膨らませて言った。
くすりはみどりと素子のやり取りを聞いて、恐らく何かやらかすタイプの人なんだなと思った。
「あ、そういえば今日は白咲さんが居ないですね」みどりは素子の両側を覗き込むようにして言った。
「私知らないわ。あのウサギさんはまたどこかで道草してるんじゃないかしら……」
「……ウサギ?」くすりの後ろで縮こまっていた勇樹は興味ありげに呟いた。
6.現実に近い夢
朝、僕は起きると朝食を作る。大勢の物を作らなければならないから大変だがもう慣れてしまった。
作り終えたら一旦休憩。食堂に戻ると全ての朝食が手付かずのまま残っている。
冷めてしまったそれらをゴミとして捨て。掃除に掛かる。部屋数は多いが時間は無限だ。
昼が近づくと僕は再び食堂に戻り。昼の料理を盛り付ける。
再び休憩。食堂には手付かずの料理が並んでいる。
最後は夕食。
作っては捨てを繰り返す毎日。
誰にも会う事無く過ぎて行く。
僕は叫ぶ。
誰か……誰か……僕は誰かに会いたい!
すこし修正はしたがここまでが10年強前のわたしが書いた物。
流石に10年以上開いているとわたし自身が変わってしまっているので上記の物を読んでみて自分で終わりを妄想した。
下記は彼女らの旅の結末とその先、単なるわたしの妄想である。
結果と結末
平沢みどりは結局、現実に還る事は出来なかった。
勇樹を喪った絶望で飛び込んだ門の先で何かを成したのかそれともそのまま果ててしまったのかわたしたちにそれを知る術はない。
賀川勇樹は暗く熱く冷たい函の中で永遠に眠ることとなった。
想いは伝えた、心残りはない。
傍観者だった自分がひとりの、彼女の英雄になる事が出来た名誉を噛み締めながら時間のない小さな世界で迎えが来るまで永久に眠り続けた。
長渡くすりは古辺梨佳を抱き寄せた。
後悔を最後に消し去ってくれたその命を優しく抱きしめ彼女たちは旅立つ。
神位を授けられふたりはひとつとなった。
末端に加わった彼女たちはその権限で友を観測し続けた。
有川素子は現実に帰還した。
そこには被響生も三浦都雨音も白咲優沙も有川素子をも知る人は居なかった。
時は経ち朽ちぬは精神だけとなり肉は融け世界に縛られ神と呼ばれ崇拝される存在となった。
そこにいるのは権能も神威もないただのエネルギーの塊だった。
僕はここにいる。
僕はそこにいる。
僕はどこにでもいる。
邸に囚われた僕は次の獲物を探す。
その時間だけ開放感を得られる。
だから、ごめん。
僕の快感のために生贄になって。




