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2 愛弟子との再会(3)

「精霊師とはいえ、立ち入りが禁止された東の森にいたのだ。よってお前は魔族の密偵(スパイ)の疑いがある」


落ち着きを取り戻したガンダスは「ゴホン」と咳払いをすると、険しい表情でセラフィーに向き合った。


セラフィーとサタンの戦いは20年も前の話だが、あまりにも激しい戦いだったことから当時の魔力の痕跡が今だに残っている。


そしてその痕跡に反応した魔族が森に集まってくる可能性があるとされていたため、20年間東の森は立ち入り禁止となっていた。


「貴殿の言い分も分かるが、もし私が魔族の密偵だった場合、闇魔法を嫌っている精霊が私と行動を共にするはずないであろう。馬鹿バカしい」


セラフィーが腕を組み呆れた表情を浮かべると、それを見たガンダスは顔を真っ赤にし「貴様〜!!」と立ち上がりセラフィーに襲い掛かろうとした。


慌てた部下達がガンダスを抑え何とか説得をすると、ガンダスは襟元を直し再びドサっと座りこんだ。


「お前なんぞ今すぐ地下牢に入れてやりたいところだが…その役目はレオナルドに任せるとしよう。…おいお前、なぜ森に入った」


セラフィーはフゥと息を吐くと


「サタンとの戦いで瀕死状態となり眠っていたのだ」


そう言ってガンダスを見つめながら正直に答えた。


しかしそれを聞いたガンダスは眉間にシワを寄せると、控えていた部下を呼び寄せヒソヒソと話し始めた。


「この年頃の子は…妄想のような…」


「ええ、はい…恐らく憧れをこじらせて…思い込みが激しい子も中には…」


「おい」


ろくでもない話し内容を察知したセラフィーが思わず会話に割って入ると、ガンダスは哀れむような表情でセラフィーを見つめ


「分かっている。憧れとは時に妄想を生み出し、空想の世界に酔いしれてしまうものだ…。さぁ君の名は何と申すのだ?家族はどこにいる?」


と自身の胸に手を当て、神父を連想させる振る舞いで問いかけてきた。


『完全に私を妄想癖のある人間だと思っているな』


呆気に取られたものの、気を持ち直し返答を続けるセラフィー。


「名はセラフィーだ。家族はいない」


そう答えるもののガンダスの表情は変わらず「気持ちは分かるが、そろそろ本当の事を答えなさい」と諭してきた。


セラフィーもさすがに痺れを切らし


「おい、その耳は飾りか!?よく聞け!私の名はセラフィーだと言っているだろう!」


と身を乗り出し言い放った。


それを聞いたガンダスは眼を丸くすると「ふざけるな!!」と言って再び立ち上がり


「ドブ色の髪や瞳のお前が!あの美しい黄金の女神であるはずないであろう!!戯言も程々にしないと許さんぞ!!」


そう言ってセラフィーを指差し怒鳴った後、妙なスイッチが入ったのかその後も「女神は幼い私を温かく見守ってくださった!あの方以上に美しい人はいない!」と身振り手振りを加えながら女神セラフィーの伝説を熱く語り出した。


「お、おい…」


そんな自分の世界に酔いしれているガンダスを見て、顔をひきつらせるセラフィー。


というのもセラフィーがガンダスに会ったのは、ガンダスがまだ小さい頃…それも一度きりだったため、ガンダスが話している内容のほとんどが身に覚えのないものだったからだ。


『ケイガスは素晴らしい人物であったが…子育てには失敗したようだな…』


セラフィーが頭を抱えていると「少しよろしいでしょうか?」と言いながらガンダスの側近がそっと近づいてきた。


「ガンダス様はあの状態になってしまうと長いので…わたくし、セドリックが手続きを進めさせていただきます」


苦笑いを浮かべているガンダスの側近…セドリックは美しい銀髪にグレーの瞳の利発そうな青年だった。


「申し訳ありませんが、密偵の容疑が晴れておりませんのでしばらくは我々の監視下で生活していただく事になります。時間も惜しいですしお部屋に移動しながら今後についてご説明してもよろしいでしょうか?」


セドリックはセラフィーに一例すると部屋の扉に向かって歩き出した。


『ガンダスの何十倍も話が通じそうだな』


セラフィーは立ち上がるとセドリックに続いてガンダスのいる部屋を後にした。



◇◇◇



「失礼ですが、もう一度お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?それと念のため、なぜ森に入ったのかの理由も」


魔法省の長い廊下に人影は無く、2人の声と足音だけが響き渡っている。


『しゃくだが名前は変えた方が良さそうだな…』


先程のガンダスの反応から、この外見でセラフィーと名乗っても面倒な事になるだけだろうと判断したセラフィーは少し考えると


「名前は…フィーだ」


そう言って今はもう誰も呼ばなくなった懐かしい名前を口にした。


「本当にずっと森の中で眠っていたのだ…信じてもらえないだろうがな」


セラフィーが自暴気味に呟くと、セドリックは足を止め真剣な眼差しでセラフィーを見つめ


「フィーさん…安心してください。一種の記憶障害もしくは…プッ…そういう事を…クククッ…言いたくなる年頃かもしれませんが…大丈夫です。大人になれば治りますよ」


そう言って口元に手を当て必死に笑いを堪えていた。


『話が通じそうだというのは撤回だな。よし、魔力が回復したらこいつも処分しよう』


セラフィーを自愛に満ち溢れた表情で見つめてくるセドリックに対し、冷ややかな目線を投げつけ先程より速いペースで廊下を歩き出すセラフィーであった。


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