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1 東の森で(3)

「ありがとうクズ悪魔。今すぐ殺してやるからな」


サタンは一瞬大きく眼を見開いた後「プッ」と吹き出し、腹を抑えながら大笑いしはじめた。


「アハハッ!本当に君は…これじゃどっちが悪魔だか分からないよセラフィー」

「まったくだ…」


女神と噂されている淑女の発言とは到底思えず、ローもやれやれと首を横に振った。


「仕方ないだろう。遅かれ早かれこいつは殺さなきゃならないし、それに今の一発のせいでせっかくの服がボロボロだ」


セラフィーが着ていた服はレオが小さな手で一生懸命直してくれたもので、先日ようやく完成したばかりだった。


それを聞いた瞬間、笑っていたサタンの表情がストンと抜け落ち


「あー…、あの殺したくなるようなガキ絡みか。」


と空気が凍るような冷たい声でボソッと呟いた。


しかしそんな表情を見せたのは一瞬で、すぐにいつも通りの紳士的な笑みを浮かべるとセラフィーの頬にそっと手を添え耳元で


「ねぇ、セラフィー。そろそろ私の伴侶になってくれる気にはなった?そうしたら私の魔力を分けてあげられるから長生きできるし、研究だってやりたい放題だよ」


と甘い声で囁いた。


さすが悪魔の王にしてセラフィーと長い付き合いにあるといったところか、サタンはセラフィーが魔法を誰よりも愛していること、魔法の為なら種族という概念も捨てるであろうことをよく理解していた。


「おい…セラフィー、お前まさか」


黙っているセラフィーの様子を見てローが震える声でセラフィーに歩み寄ると、セラフィーはローと視線を合わせ小さく微笑みサタンの手をパンッとはたいた。


「とんだ詐欺師だな。お前の魔力じゃ闇の魔法しか使えない。それでどうやって魔法研究を続けるんだ」


魔法には属性があり「水」「火」「風」「土」「光」そしてサタンのような魔族のみ扱える「闇」の6つの属性に分けられていた。


魔力は誰しもが生まれた瞬間から所有しているものの魔力量には個人差があり、魔力量の多い人は貴重といわれていた。


そのため魔力量が少ない者は一般的な職業に、魔力量が多い者は魔法師となり魔法研究や魔族のように攻撃的な種族との戦闘など、国を守る大切な存在として国民に尊敬されていた。


そんな魔法師の中でもセラフィーの魔力量はずば抜けており、属性もめったにない「光」だったことも女神と噂される原因となったひとつだろう。


「でもセラフィー、人間のままじゃ一生闇魔法の研究はできないよ?魔法を誰よりも愛してる君が、ひとつの魔法を一切理解しないまま生涯を終えてしまうというのはあまりに悲しくないかい?」


それを聞いてピタッと動きを止めたセラフィーはしばらくうつむいた後、クルッとサタンに向き合い


「人間に可能な全ての魔法研究が終わったらお前の仲間に…」

「おい」


良からぬことを考えていそうな主に気付き、ローは瞬時に会話に割り込んだ。


その様子を見たサタンは「はぁ…」ため息をつき


「君のペットが優秀で助かるよ。君なら目を離した隙に研究の為と言ってゴブリンにだってなりかねない」


と呆れた様子で首を横に振った。


そんなサタンを見てセラフィーは優しい笑みを浮かべると


「余計な心配ご苦労。だが私にも守る存在ができて多少は変わったのさ。…だからお前は安心してここで死になさい」


そう言って右手を空に向かって真っ直ぐ伸ばした。


その瞬間、星が輝いていた夜空が割れ、凄まじい光がセラフィーの右手目がけて真っ直ぐ降り注いだ。


「最高級魔法だね。綺麗な魔力だ…。」


サタンは空を見つめ黄金の光と共に輝くセラフィーを眩しそうに見つめた。


「君には悪いけど私もやられるわけにはいかないんだ。 ー《サマンズ!》」


サタンが魔法を唱え両手を地面につけた途端、地面に2つの魔法陣が出現した。


「愛しい君が相手だ!とびきりのやつを召喚しよう! 来い!イフリート! フォルネウス!」


その瞬間グオオオォォー!!と凄まじい雄叫びを上げながらバチバチとした雷と共に魔法陣から2体の悪魔が出現した。


「おいおい…!世界を壊す気か!?」


ローは焦ったようにセラフィーに問いかけると、セラフィーもその可能性を考えていたのであろう


「ロー、悪いが森の周囲に結界を張ってくれないか。お前は結界にだけ集中して何とか持ちこたえてくれ…すまないな」


精霊にとっての使命は契約した主を守ること。


この状況でセラフィーを一人戦わせるのはローにとって屈辱的だった。


そしてセラフィーもそんなローの気持ちを勿論分かっていた。


「…了解した」


セラフィーを見つめていたローは前を向き、短く答えるとスッと姿を消した。


「さて、可愛い弟子と精霊のためにもさっさと終わらせようじゃないか。 ー《ジャッジメント!》」


ゴーンと教会の鐘が3度鳴り響くと、割れた夜空から光り輝く天使2体と巨大な聖母マリアがゆっくりと姿を現した。


「聖母を呼び出すとは…やってくれたな。君も死ぬぞ」


セラフィーに話しかけるサタンに先程のような笑みは無く、バキバキと音をたてながら本来の姿…ウェーブのかかった長髪に2本のねじれた角、誰しもが死を覚悟するような巨大な真っ黒な悪魔の姿に戻っていた。


「良くて相討ちといったところか…」


《ジャッジメント》は対象を必ず滅ぼすという最高級魔法だが、召喚した魔法師の魔力と生命力を奪うという大きなデメリットがあった。


奪う魔力量と生命力は滅ぼす対象のレベルによって変わり、相手が強ければ強いほど奪われる量も多くなる。


セラフィーは魔力量には自信があったものの生命力は強い方ではないため、奪われる生命力が不明確な《ジャッジメント》を発動するのは初めてだった。


魔力は全て奪われても魔法が使えなくなるだけだが、生命力はゼロになれば死ぬ。


そして今回《ジャッジメント》で召喚されたのは魔王サタンを滅ぼすのにふさわしい、最も階級の高い聖母マリア。


奪われる魔力量と生命力は計り知れないものになるだろう。


この召喚はセラフィーにとっても賭けだった。




空から降りてきた一体の天使がイフリートの頭上から黄金の斧を振り下ろす。


その瞬間イフリートの身体は2つに分かれ、パァッと輝く金の粒子となって空気中に散った。


続けてもう一体の天使が黄金の弓を引き、同時に9本の矢をフォルネウスに撃ち込むとイフリート同様、光り輝く粉となり2体の悪魔は跡形もなく消えてしまった。


「くっ…」


2体の悪魔が消滅した瞬間セラフィーの魔力と生命力が奪われ、セラフィーは地面に片膝をついた。


自分が死んでしまえば召喚した聖母、そしてローも結界と共に消え去ってしまうためサタンのみが残されることになる。


そんな最悪の結末を防ぐためにセラフィーは何としてでも持ち堪えなければならなかった。


「私の命を奪っても構わない。だからお願いだ聖母マリアよ…やつを消し去ってくれ」


光り輝く巨大な聖母マリアがゆっくりと両手でサタンを包み込んだその瞬間「アアアァァーーー!!!」というサタンの声が響き渡る。


「この私が死ぬものか!!セラフィー!私は必ずお前を…!!」


サタンの断末魔の叫びは聖母マリアの両手によって握りつぶされ、一瞬で消滅した。


そしてサタンが消滅したと同時にセラフィーの心臓もギュッと握りつぶされるような感覚に襲われ、大量の血を吐くとそのまま前にドサッと倒れこんでしまった。


「セラフィー!!」


結界を解いたローが急いでセラフィーに駆け寄る。


「絶対に死なせない!こんなところで死なせないぞ!」


ローは涙を流しながら瀕死のセラフィーに訴えかけ、黒い光となってセラフィーを包み込んだのであった。

戦いのシーンは一気に読んでもらいたかった為、極端に長くなってしまいました(^^;)すみません…

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