1 東の森で(2)
あの日は深夜に東の森で強力な魔力反応があり、すぐに対応できるのが魔法省の隣(研究棟)に住んでいるセラフィーだけだった。
そんな状況でも普段の魔法省の職員なら他の魔法師に対応を要請しているところだが、その日の夜勤は新入りだけだったこと、またセラフィーも研究に失敗したばかりで気分転換でもしようかと考えていたことが重なり、セラフィーが現場に向かうことになった。
セラフィーが家を留守にする時は(といっても滅多に外出しないが)必ずレオに声をかけるようにしていたが、寝ているレオをわざわざ起こすのも不憫に思い、『起きる前に帰宅すれば大丈夫か』とその時は静かに立ち去ったのだった。
その後レオに会えなくなるとはつゆも思わずに。
現場に到着し、ローと一緒に見回りをしてみるものの、わずかに残った魔力の痕跡があるだけで特に変わった様子もなく帰宅しようと気が緩んだその時だった。
激しい稲光がセラフィーに向かって放たれ、周囲が一瞬にして吹き飛んだ。
「おい!セラフィー!大丈夫か!?」
黒豹姿のローが血だらけで横たわるセラフィーに一目散に駆け寄ったと同時に森の奥から誰かが近づいてくる気配があった。
「久しぶりに強力な魔力を動かしてみたら…まさか君が来てくれるなんてね。愛しい君にまた会えて嬉しいよセラフィー」
「サタン!貴様…!!」
唸り声を上げるローの視線の先、森の奥から現れたのは黒い髪に血のような瞳を持ち、陶器のような白い肌をした美しい青年…否、その姿を装っているだけの悪魔サタンだった。
「良かった。君とは知らずに殺すつもりで打った一発だったから死んでしまったかもしれないと思ったけど、ペットが生きてるなら君も無事だね」
女性なら誰しも虜にするような魅力的な笑みを浮かべサタンはセラフィーの前に立つと、すっと片膝を地面につけ片手をセラフィーに差し出した。
横たわっていたセラフィーはピクッと身体を動かすと、ゆっくりと起き上がりサタンが差し出した片手に自分の手を重ね、彼の目を真っ直ぐ見ながら微笑んだ。
「ありがとうクズ悪魔。今すぐ殺してやるからな」