5 Sクラス
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「ちょっと、フィー。大丈夫?」
焦ったように心配するデイジーの顔がボンヤリと2つに見える。
「大丈夫、ただの風邪だ。それに一応薬も飲んできた」
早朝、保健医が出勤していなかった為、医務室の薬品を使って自作した薬をゴソゴソと取り出しデイジーに見せると
「もぉ〜!あなたって子は!!見つかったら罰則ものよ…。次は絶対やっちゃダメだからね」
まるで子供に言い聞かせるかのように言われたセラフィーはコクコクと頷くと、デイジーに手を引かれ、フラフラした足取りでSクラスに向かったのであった。
Sクラスに着くと2人を迎え入れたのは、ジッと値踏みするような貴族達の視線だった。
Cクラスでも転入してきた時は冷ややかな視線を浴びたが、クラスメイトのほとんどが貴族であるSクラスの雰囲気はそれとはまた違う。
「この空気…さすがSクラスね」
同じ事を考えたのか、デイジーが隣でゴクリと息を飲むと、数名で会話していたグループの中の一人が流れるような足取りで2人の前にやってきた。
「ご機嫌よう。わたくしはジェラード侯爵家の長女、キャサリンと申します」
キャサリンがスカートの両端を持ち優雅に挨拶すると、デイジーは満面の笑みで
「はじめまして。デイジーよ。これからよろしくね」
と握手を求め右手を差し出した。
キャサリンはデイジーを見つめるとニコリと笑い、バシッと右手を思いきり叩き落とした。
唖然としたセラフィーとデイジーをよそに、キャサリンの取り巻きのような女子生徒達が2人を睨みつけながら話しかけてくる。
「キャサリン様はウィリアム王太子殿下の婚約者となられる方なのよ!?平民のあなた達が気安く触れていい存在ではありません!」
「ごめなさ…あっ、申し訳ございません…」
デイジーが頭を下げるとキャサリンは「はぁ」と溜め息を吐き
「平民のあなた達に貴族のような振る舞いは期待していません。ですが、身分をわきまえなさい。特にあなた」
キャサリンはセラフィーを睨むと
「ウィリアム様が優しいからと付け上がらないように。よろしくお願いしますね」
そう言ってヒラリと後ろを向き、元の場所へと戻っていった。
「デイジー大丈夫か?」
セラフィーが声をかけるとハッと我に帰ったデイジーは
「あ、大丈夫よ!」
そう言って右手をさすっていた時、教室の扉が開きウィリアムと友人達が教室に入ってきた。
「おはようフィー!今日から同じクラスで学べるなんて嬉しいよ」
数分前の出来事など知る由もないウィリアムは、セラフィーを見つけると嬉しそうに駆け寄った。
そしてセラフィーに挨拶をすると、ローにも「おはようございます」と一礼をした。
「精霊の言葉が分かるのですか?」
精霊に話しかける姿にセラフィーは首を傾げると
「いや、会話はできないのだが…以前世話になっていたケイガスという大臣に、人間の言葉も分かる精霊がいると聞いていたのでな。フィーの精霊がもしかしたらと思って…」
懐かしい名前を聞いて心が弾んだセラフィーは、恥ずかしいのか少し照れるように話すウィリアムに
「私の精霊の名は<ロー>と申します。魔力量が少ないため会話はできませんが、殿下の声は届いてると思いますよ」
とローを紹介すると、ウィリアムは「ローという名なのか!」と目を輝かせた。
「それにしても、もしかすると体調が優れないのではないか?とても辛そうだが…」
確かに目眩が酷いが、まだ我慢できると考えたセラフィーは
「ご心配ありがとうございます。私は大丈夫です」
とウィリアムに一礼するものの
「フィー。それは殿下じゃなくて壁よ…」
とデイジーに突っ込まれたのであった。
「みんな、既に知っているかもしれませんが今日から2名の生徒がクラスメイトになりました。同じ魔法師を目指す者同士、助け合って精進なさい」
短い髪を撫で付けるように整えているSクラスの担任、ケッペルはセラフィーとデイジーを見てニコリと笑うと、午前の授業を始めた。
「先生は感じが良さそうでよかったわね」
デイジーが隣でコソッと囁いたが、何か嫌な予感がするセラフィーは、その言葉に頷けずにいた。
午前の座学を何とか終え、デイジーと食堂に向かったセラフィーはどんどん悪化する自分の容態に頭を抱えていた。
「ねぇフィー。午後の授業はお休みさせてもらいましょう。今の状態で実技授業なんて危ないわ」
食事も進まず、ボーッとするセラフィーを見て心配するデイジー。
『自分の管理不足が原因で授業を休む事になるとは…』
セラフィーは情けないと項垂れたが、一理あると思い直しデイジーの提案を受け入れることにした。
「体調不良?早退は可能ですが、今日の実技はペアで行う予定です。あなたが休めばペアであるデイジーも欠席扱いにしますよ」
昼食後、ケッペルに早退の旨を伝えに行ったセラフィーとデイジーは、朝とは違う冷たい様子のケッペルに唖然とした。
「で、ですが先生。他にも休みの生徒がいらっしゃると思います。そのペアの生徒達も全員欠席扱いになるのですか?」
引き下がる事なくデイジーが質問すると、ケッペルはチッと舌打ちをし
「平民のくせに侯爵である私に意見をする気か?」
と物凄い形相でデイジーを睨みつけた。
『こいつ…やはりそうか』
この高圧的な口調で平民を見下す人物…それはセラフィーが20年前、魔法師として働いていた頃から折り合いがつかず、何かと衝突していた魔法師のケッペル、彼の事だった。
『まさかここでこいつの生徒になるとは』
ケッペルは昔から貴族至上主義者で、その発言は平民出身であるセラフィーや他の魔法師達と衝突していた。
結局セラフィーが研究棟に籠るようになり顔を合わす事は無くなったが、20年経っても彼の思考が変わっている事は全く期待できない。
ケッペルに脅され、震えているデイジーの前にセラフィーが立つと
「私は大丈夫ですので、午後の授業も出席いたします。お騒がせしてしまい申し訳ありません」
ハッキリと言い放ったセラフィーは一礼をすると、デイジーの手を握りケッペルの前から立ち去った。
『恐らく平民への差別はこれだけで済まないだろう…。先が思いやられるな』
いまだに震えているデイジーの手を、セラフィーはギュッと握った。
午後の実技授業は案の定、最悪なものになった。
前回の試験の復習でゴブリンを相手にした魔力コントロールの授業が行われたが、ゴブリンを召喚する生徒としてセラフィーが何度も指名され、立て続けに召喚魔法を使う羽目になった。
「フィーさんは先日の試験で素晴らしい結果を残してくださいましたので、今日は他の生徒達に力を貸してやってくださいね」
一見、セラフィーを立てるような発言にも聞こえるが、セラフィーの体調不良を知っていながら敢えて指名を繰り返すという、嫌がらせ行為である事はよく分かっていた。
『さすがにこの体調と魔力量での連続召喚は堪えるな』
目眩や頭痛は酷くなりどんどん顔色が青ざめていくと、様子に気付いたウィリアムがケッペルにセラフィーを休ませるよう意見した。
「私とした事が!ご忠告ありがとうございます殿下」
白々しい台詞を吐き、セラフィーを見学させたケッペルは
「この程度で終わると思うなよ」
と去り際セラフィーの耳元で囁いたのであった。
「フィー!!」
授業が終わり、見学していたセラフィーを迎えに行ったデイジーは、ぐったりとした様子のセラフィーを見つけ慌てて駆け寄った。
「物凄い熱だわ…。待ってて!すぐ誰か呼んでくる!」
セラフィーを一人で運ぶのは無理だと判断したデイジーが立ち上がったその時
「大丈夫ですか!?」
ガンダスの側近であるセドリックが偶然通りかかり2人に駆け寄る。
「物凄い熱なんです!医務室まで運ぶのを手伝ってもらえませんか!?」
事態を把握したセドリックが急いでセラフィーを抱き上げると、それに気付いたのかセラフィーがうっすらと目を開いた。
「セドリック…?」
「はい、そうです」
セドリックは微笑みデイジーに向き直る。
「フィーさんとは顔見知りの仲ですので、私が医務室までお連れします。ケッペル様に目を付けられる可能性もありますので、ここは私にお任せください」
「で、でも…!」
心配で同行しようとするデイジーに気付いたセラフィーは、デイジーと視線を合わせると
「ありがとう、すぐ治るから大丈夫だ。また明日会おう」
そう言ってデイジーを安心させる為に小さく微笑んだ。
「…分かったわ。セドリック様、フィーをよろしくお願いします」
「はい、お任せください。では」
心配のあまり、泣きそうな表情になっていたデイジーに別れを告げたセドリックは足早に医務室へと向かった。
◇◇◇
「ただでさえ生命力が低い状態なのに、魔力を酷使するからこうなるのです。私以外の誰か…ましてや、あんなクズのような人間にやられる貴方なんて私は見たくありません」
朧げな意識の中、誰かがセラフィーの口を開き、液体のような物を飲ませる。
すると呼吸する事さえ辛かった胸の痛みが消え、身体が少し楽になった気がした。
『誰だ?セドリックではないのか?』
セドリックではない声や気配を感じ、セラフィーが相手の顔を見ようと手を伸ばすと、その手はそっと握られ指先にキスを落とされた。
姿を見ようと薄れゆく視界に目を凝らしてみるものの、身体は全く言う事を聞かず、セラフィーはそのまま意識を手放してしまったのであった。




