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言わなくては伝わらない。  作者: 鬼神丸
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第3話

幸は頭を稚児髷に結い、赤を基調とした艶やかな打ち掛けを着ていた。

その動きは私に会える喜びを表現しており、何よりもその笑顔が私を虜にした。


しかし、その笑顔は義父の一言で凍りついた。


「幸よ、何度言えば判るのだ。武家の婦女としての慎みを持てと言っておろうが!」

「も、申し訳ありません!」


その場で伏して謝罪する幸。その顔は今思い返しても恐怖に歪んでいた。

先程の笑顔から一転して震えて謝罪する幸を見て、私は子供心に彼女を守らねばと思い、彼女と義父の前に滑り込んだ。


「小城様!いえ、義父上(ちちうえ)と呼ばせて頂きます!先程、義父上から許嫁と認められた以上、幸どのは私の妻も同然。然れば妻の不始末、夫である私に免じて何とぞお許し頂きたく!」


必死だった。義父からはあの時殺気のようなものすら感じられた。ここで止めねば。私はそれしか考えられなかった。


「···ハハハハ!婿殿、よう申した。されば婿殿に免じて許そう。幸、これから武家の嫁として厳しくしつけるゆえ、婿殿に相応しい嫁になるよう努力せよ!」

「は、はい。小城家の名を汚さぬよう努力致します。」


一転して上機嫌となった義父殿に安堵したのか、ホッとした様子で再び頭を下げる幸。

落ち着いたところで、私は幸に挨拶をした。


「お初にお目にかかります。斎藤家嫡男、松千代と申します。」

「初めてお目にかかります。小城家の幸と申します。」


お互いに挨拶を交わしたが、何を話してよいやら困った記憶がある。

それは幸どのも同じようで視線がお互いの顔と手元をいったり来たりしていた。


「そう言えば婿殿は新当流の長沢道場に通っているとか。」

「はい、去年から通わせて頂いておりますが、未だ素振り稽古のみにございます。」

「そうか。師範の長沢道明とは長い付き合いでな。それがしも新当流じゃ。どれ、一手見てしんぜよう。」


そう言い残し、義父は木刀を取りに奥へと入っていった。

幸はついていくふりをしたかと思うと、こちらに身を寄せ、


「先程はありがとうございました。不束者ですが、よろしくお願い致します」


と小声で話しかけてきた。

私は思わず幸を見たが、幸はいたずらっぽく笑うとそのまま奥へと消えていった。


最初に入って来た時の笑顔と先程の笑顔。


あの笑顔が私のものになってくれる。そう考えると頬が赤くなり、胸が高鳴った。

しかし、幸の笑顔を見たのはこれが最後だった。




一度でいいから見てみたい。

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