49帰省
「ナル!」
「キ、キーナ!」
王子や兵士さんに助けられた僕達は、そのまま色々報告するため、ギルドへ足を運ぶと、ギルド内にいたキーナさんがこちらに気づき大声で叫んだ。
呼ばれたナルも、キーナさんの下へ走って行き、そのまま抱きしめあった。
「ナル、無事でよかった。ハルにはギルドで待っている様に言われたが、もう少し来るのが遅かったら、あの洞窟に行こうとしてたよ」
ナルをギュッと抱きしめながら言う。
「大丈夫だって。師匠にナイフ捌きを教わって、キーナにも戦術を教わってたから全然やれたぜ」
「あんた達も、ありがとな。って、後ろの方々は誰だい?」
ナルとの再会を喜んだ後、僕とハルさんにお礼を言ってきたキーナさんが、後ろにいた王子達の存在に気づく。
「ああ、私はアデラの王の息子で、名はアイルと言う。君は?」
「お、王子⁉︎な、なんでここに?」
いきなり王子にあったキーナさんは、慌てふためいていた。
そりゃそうだよね。
「あの、実はですね・・・」
僕はキーナさんに、ナルへ話した内容をそのまま話した。
ついでと言っては何だが、洞窟内でステルスエボシ討伐の話しもしたら、キーナさんが驚いていた。
「ステルスエボシの討伐は驚いたよ。だがしかし、なるほどな。貴重な治癒師、しかもその若さの子が、どこにも所属してない訳ないよな」
「隠していた訳では無かったんですけど、言わずにすいませんでした」
「いやいや、お互い冒険者だ。言わなくても何ら問題なんてないよ」
頭を下げた僕を、キーナさんは片手をひらひらしながら言ってくれた。
「もう、依頼報告はしてあるから、あとはお前らなんかあったらそこだけ報告してきな」
「ありがとうございますキーナさん。では、報告してきますね」
「あ、おい待て、あたしも行くよ」
僕とナルが競争し合う様にカウンターへ走って行き、その後をハルさんが付いてくるような形で、報告しに行った。
◇
「報告してきました」
「ご苦労様。そうだ、忘れる前にこれ」
報告してきた僕達に、キーナさんはカードみたいなのを渡して来た。
「ほら、スイスウィート1年ケーキ無料券、正式にはカードかな?だよ」
「こ、これが」
「お、おう。ついに手に入ったな」
「うん」
何だろうか。
今、僕とナルは喜びより感動に浸ってしまっている。
そのあと、お互い打ち合わせた訳でもないのに、大事に財布に挟んでポケットに入れたと、ポンッポンッと叩いた。
「おいレヴィ、終わったか?」
「あっ、はい。大丈夫です王子」
ヤバッ、嬉しさのあまり、王子いるの忘れていた。
「なら、今日はもう暗いし帰るぞ。それに、またトラブルに巻き込まれても困るからな」
「もう、王子ったら。ついさっきまでの感動を壊さないでくださいよ」
王子に帰るよう促された僕は、ナルとキーナさんの方を向いた。
「ナル、キーナさん。今日はありがとうございました。色々大変だったけど、無事依頼達成出来て良かったです」
「いや、こちらこそありがとうな。また、いつか一緒に冒険に行こう」
「はい。その時はまた、よろしくお願いします」
僕達は皆で握手を交わし、ギルドを後に宿屋へ帰った。
◇
「依頼、引き受けてくれてありがとう」
「いえいえ、その代わりの報酬が太っ腹だったんで」
次の日、僕はハルさんと一緒にスイスウィート2号店のパティシエさんのジェイス様の下へ来ていた。
「どうしても、次の日には店を開けたかったんだ。オープンしてそんなに日が経っていないのに、店を何日も閉めたらお客さんが減ってしまうからね」
なるほど。
いやでも、スイスウィートならお客さん減らない様な気もするけど。
「しかし、何で卵が盗まれたんでしょうね?」
僕がそもそもの原因を疑問視していると、ジェイス様が口を開いた。
「そう言えば、原因を君達には言ってなかったね」
「えっ、原因分かったんですか?と言う事は、犯人も?」
「ああ、分かったよ」
「ええっ⁉︎誰だったんですか?」
「犯人は、近所のお菓子屋のオーナーだよ」
「本当ですか!何で・・・、って察せるけど」
「多分、君が思っている通りだ」
その理由をジェイス様は、淡々と語り出した。
内容は察した通りで、近所のお菓子屋さんが、スイスウィート店さんのせいで売り上げが激減したそうだ。
そこで、近所のお菓子屋さんはゴロツキを雇い、スイスウィート店さんの卵を盗んだらしい。
しかも、万が一の可能性も含めたオーナーは、黒いフードを被り、アングリーチキンの卵を扱うお店を巡っては買い占めていったらしい。
「だがね、億が一の可能性は考えなかったみたいだね」
「あはは、そうですね」
まさか、あのアングリーチキンの卵を、何個もその日の内に収穫出来るとは思わなかっただろう。
「その後、卵を貰ってケーキを作り始めた事を知った、お菓子屋のオーナーとゴロツキ2人が、我が店にまた忍び込もうとした所を兵士に見つかり、御用となったよ」
ハハハッ、馬鹿だね。
と、笑いながらジェイスさんが言っていた。
「しかもそのゴロツキ共は、クワイ村でも悪さをしていたらしく、余罪を見つけられて焦っていたよ。更に他にも仲間がいるみたいだから、芋づる式に捕まるだろうね」
もしかして、その話しって。
「もしかして、クワイ村で暴れていた人達ですかね?」
「さあ。でも、あの村に風俗がないのが悪いとか、訳の分からない事言ってたみたいだ」
やっぱり、ラナちゃんのお母さんを殴った奴らだ。
良かった、捕まって。
「そう言う事で、全ては丸く収まったよ。あっ、折角だからそのカード今から使うかい?」
「いいえ、明日買いに来ます。実は王子に明日帰る予定と言われたので」
もっといたかったが、そもそもメインの用事がもう終わっているからね。
仕方ない。
「だから、明日ケーキたくさんお願いします。では、また」
「ああ。また明日ね」
その日は少し町をぶらぶら散歩し帰宅した。
◇
「じゃあねナル、また会おうね」
「ま、気が向いたらな」
そんな事を言いながら、僕とナルは握手する。
「気をつけて帰りなよ?」
「大丈夫です。私がいますから」
「それもそうか。ハルがいたら大丈夫か」
隣を見ると、キーナさんとハルさんも同じように握手しながら話ししていた。
次の日、僕達がアデラに帰ろうとした所、ナルとキーナさんが見送りに来てくれたのだ。
「おい、まだか?早く、帰るぞ!」
「はい、今行きますよ」
もう、あとはいつ会えるか分からないんだから、もう少し待ってくれても良いじゃん。
「王子を待たせてはダメだ。ほら、馬車に乗って」
キーナさんが急かされ、僕とハルさんは馬車に乗った。
「じゃあな。着いたら、教えた住所に手紙書けよ!」
「分かったよ。キーナさんもお達者で」
「ああ、またな」
馬車が動き出し、少しずつシーサイドから距離が離れて行く。
帰る道中、クワイ村にも寄ってくれるって王子が言ってくれたから、ゴロツキの捕まった話しをしがてら、このスイスウィートさんのケーキをプレゼントしよう。
喜んでくれるかな?
皆さま、いつも読んでくれてありがとうございます。
2章終わりです。
少し幕間を挟もうと思っています。