46ナル復活
「ナル!」
僕は、動かなくなったナルを心配して詰め寄ろうとした。
「レヴィ様、動かないで下さい。それも罠です」
「えっ?」
ナルを助けようと駆ける僕に、ハルさんが制止する。
「ステルスエボシは、仲間が集まった所を一網打尽にするつもりです」
嘘、そんな事モンスターが考てるはず・・・、
「‼︎」
考えている筈ないと思っていた僕は、ステルスエボシを見ると、奴は舌をゆらゆらしながら何かを待っている様だった。
モンスターって、こんなに頭良かったっけ?
「で、でも、ナルが」
「大丈夫。ここから見るに、ナルは息をしています。私が、ステルスエボシの気をひきますので、その間にナルの回復を頼みます」
「う、うん。でも、ハルさんは大丈夫?」
「正直、刀を持って来ていないので、小太刀だけだステルスエボシ相手をするのは難しいです」
そう言えば、以前ゴブリンから助けてくれた時、刀を使っていた。
じゃあ、尚更マズいんじゃ。
「大丈夫ですよ、ナルが回復して参戦してくれれば苦戦程度で済みます。なので、それまでの間頑張りますから、ナルをよろしくお願いします」
ハルさんはそう言うと、武器を構え戦闘態勢に入る。
「行きます?」
「う、うん。無理はしないでね」
ハルさんは、こちらを見てニコッと笑ったあと、ステルスエボシに向き直す。
ダッ
「はああっ」
わざと声を出してステルスエボシの下へ走るハルさん。
『ギー』
その声に気付き、走ってくるハルさんを迎え撃とうとするステルスエボシ。
その光景を見ていた僕も、
「今だ」
小さな声を発してから僕は、ナルを回復しようと走り出した。
◇
「ミドル・ヒール」
ナルの所へ着くと、僕は声を掛けずに習得している中で、1番効果の強いミドル・ヒールを唱えた。
「大丈夫?ナル、聞こえる?」
その後、ようやく声をかけた。
「・・・ん。こ、ここは?」
魔法が効いて、傷や痛みが無くなったナルに声を掛けると、少しずつ目覚める。
良かった、目が覚めた。
「ここは、洞窟内だよ。ナル、君はモンスターに体当たりされて怪我を負い、気絶していたんだよ」
「あっ、そ、そうだった!奴は?」
説明を聞くと、一気に覚醒したのかガバッと起き上がって状況を確認しようと辺りを見回し始めた。
「大丈夫。今、ハルさんが時間を稼いでくれているよ。ナルは、戦えそう?」
聞くと、ナルは顔を俯きながら話し始める。
「・・・、別にあたしがいなくても、ハル1人で大丈夫だろ」
「へっ?何言ってるの?」
いきなりどうしたの。
「さっきさ、ハルに急所は狙うな、お前には罠だった場合の対処が不可能だからって言われてさ。何だとって思ったよ。だから、見返すつもりで急所攻撃しようとしたら、案の定それが罠で対処出来なく、やられたんだ」
ああ、だからあんな雑な攻撃になっていたのか。
「だからさ、そんな奴が参戦したってハルの邪魔になるだけだろ。なら、ここで大人しくしてた方が賢明じゃん」
「そんな訳ないでしょう。戦える意思があるなら参戦してよ。僕も、サポートしか出来ないけど頑張るからさ」
僕はナルの肩に手を置く。
しかしナルは、肩に置いた僕の手を振り払い怒気のある声を大きな声で発した。
「参加しないって言ってるだろ!」
ナルは立ち上がり、僕に向かって怒鳴り始める。
「あんなに強いんなら助っ人なんて要らないだろ!どうせあたしは半人前だしね」
余程悔しかったのか、目には涙が溜めていた。
「確かに、ナルは半人前だよ。無理だって言われた事をやるし、しかもやられてるしね。世話ないよ」
「なっ、」
何か言い返そうとしているナルを無視して、僕は話しを続ける。
「でもね、そんな半人前が一緒に戦ってくれないと、ハルさんあいつに勝つの難しいって言ってたよ」
「えっ?いや、あいつはそんな事言う筈は・・・だって、あんなに強いじゃん」
「本当だよ」
ナルは信じられない、みたいな顔をしていた。
「実はね、ハルさん目がほぼ見えないみたいなんだ」
「えっ?でも、普通に戦えているだろ」
戦っているハルさんを見つめながら言う。
「それは、目以外の感覚機能をフルに使っているからだよ」
「マジか。それは凄いな」
「うん、すごいね。しかも、本来の武器じゃなく小太刀だしね」
「武器もいつものとは違うのか。なら、余計にあたし邪魔じゃん」
衝撃の事実に、再び落ち込むナル。
「でもね、それを実行するにはとんでもない体力や神経が必要になるんだよ。実際、ハルさんをよく見てみて」
僕に促され、ナルはハルさんをよく見つめる。
「・・・あっ、まだ浅いけど肩で息し始めてる、かも」
ナルが指摘した通り、ステルスエボシと戦っているハルさんは、よく見ないと分からない程度だが、肩で息をしていた。
「そう。いくら強くて凄いとは言え、ハルさんも人間だ。何に対しても限界はくる。だけど、ナルが参戦してくれたら、ハルさんは限界に達する前にあのモンスターを撃破出来ると思っている」
「あたしが参戦する事によって勝てるってか?」
「そう。ちなみに、ナルが参戦すると苦戦程度で済むらしいよ」
ナルは少しの間僕を見て、それから吹き出す様に笑った。
「ブッ、あははは。それでも苦戦すんのかよ」
「うん。でも勝てる様になるらしいよ」
「そうか、なら参戦しなきゃだな」
膝に手を着き立ち上がると、晴れ晴れとした表情で言った。
どうやら、だいぶやる気が出たみたいだ。
「ありがとう。サポート頑張ってするから」
僕は拳をナルに見せる。
「ああ、頼む。あたしは、あのツンツン女の手助けして来るよ」
ナルも、僕が出した拳に自分の拳を軽くぶつけた。
「よし、やってやろう!」
「ああ!」
僕とナルは、それぞれ本来の持ち場に就くために走り出した。