40嫌な奴
「だから、この依頼書は僕が最初に取ったんだから僕のなの!」
必死に両手で依頼書を囲いながら叫ぶ僕。
「いいや、あんたぱっと見た感じ、魔道士か治癒師でしょ?この依頼はどちらかと言うと力仕事よ。なら、あたしでしょ」
そんな体勢になっている僕から、依頼書を奪おうとする同じ年くらいの女の子。
「そうだけど、でも君みたいな脳筋と違って僕は考えて動くから、しっかり作戦を立てて実行すれば君よりスマートにミッション成功できるね」
「何だと!」
「何か?」
僕は今、シーサイドにあるギルド内で女の子といがみ合っていた。
なぜ、こんな事になっているかというと。
スイスウィート店から出た後、誰かに取られないうちに依頼を受けようと急いでギルドへ行った。
ギルドに着き中に入って探すと、まだ依頼書があったので、手に取って受付に行こうとした。
その時、
「あー!あたしの依頼書持ってる。それ、あたしんのだから渡してよ」
ギルド入口にいた知らない女の子が、こちらを指さし大声をあげ、走ってくると僕から依頼書を取ろうとしたのだ。
そして今、僕はこの依頼書を取られない様に必死で応戦している。
「レヴィ様、一旦落ち着きましょう」
「おいナル、お前も落ち着けよ」
ハルさんと、ナルと呼ばれた女の子の連れの女性が、僕達を落ち着かせてきた。
「分かった。じゃあ、あんた1回手を離しなさいよ」
「何が分かったの?嫌に決まってるじゃん。何で僕が最初に取ったのに、離さなきゃならないの?頭大丈夫?お可哀想に」
「あんだと!」
「だから、お可哀想にって言ったの。分かりまちゅか?」
僕達は再び、相手の罵り合いを始めようとし始める。
「はい、そこストーップ!」
ギルド内に、僕達より大きな声が響き渡った。
「「!!」」
びっくりして、声が聞こえてきた方に振り向くと、そこにはギルド職員のお姉さんがいた。
「君達、室内でそんなに騒いではダメよ!」
お姉さんに怒られた事で、少しずつ我にかえった僕は周りを見ると、皆がニコニコしながら視線をこちらに向けていた。
どうしよう、恥ずかしい。
「す、すいません」
恥ずかし過ぎて、早くここから逃げたい。
「ごめん、つい」
さっきまで罵り合っていた女の子も、同じ気持ちになったのだろう、顔を赤くし俯きながら言った。
「落ち着いたかしら。なら、何故騒いでいたのか理由を教えて?」
お姉さんが、僕に理由を聞いてきた。
「スイスウィート店からの依頼を引き受けたくて、依頼書を取ったら、後から来たこの女の子も引き受けたかったみたいで、それで依頼書の取り合いになりました」
「そう。その依頼を見せて?」
「はい」
その依頼書をお姉さんに渡す。
「あら、これ人数制限が5人になってるじゃない。あなた達見たところ全員で4人でしょ?なら全員で行ったら?」
あっ、確かに。
どちらかしか行けないとか考えてたから、人数制限なんて見てもないし考えすらしなかった。
「そうですね。皆でやれば、更に簡単に依頼を達成できますよね」
僕が言うと、女の子も頷く。
「だな。冒険者は助け合い、そう師匠から教わっていたのに情けないぜ。よしっ、ここは共闘といこうぜ!」
「はい。よろしくお願いします」
「おう」
僕と女の子は、笑顔で握手した。
「そうと決まれば、急いだ方が良いんじゃない?期限は明日の朝5時までに最低20個らしいわよ?」
「ヤベッ、急がなきゃ!」
「そうだね。早く依頼書をお姉さんに出して行こう!」
「じゃあ、受付してあげるから行きましょうか」
「「はい!」」
お姉さんと一緒に僕達は受付に向かう。
「ナル、あたし達の意見は無視かい?」
やれやれといった様な顔で、聞こえていないだろう受付に向かう女の子に言う。
「その様ですね。それにレヴィ様もこうなったら止まりませんから」
ハルフィートも、穏やかな表情でレヴィを見ながら話す。
「あんたんとこもか、お互い大変だな」
「あなたも、心中お察し申し上げます」
「ハハハッ、少しの間だがよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕の知らない所で、静かに握手を交わし仲間?になった人達がいた。
冒険の始まりだ!