31行き先変更
昼食を摂りゆっくり休んだ後、僕とハルさんは馬車に乗り、今日泊まる予定の村へ向かっていた。
「王子、さすがにそろそろ教えて下さい。今日、泊まる村ってどこなんですか?」
王都出てから今に至るまで、僕とハルさんが何回聞いても教えてくれないんだから。
「ああ、今日泊まる村は、ダズリ村だ」
「何ですって?」
村の名前を聞いた瞬間に、ハルさんが少し大きめな声で喋った。
「ダズリ村はダメです」
ハルさんは、次の行き先を却下し始める。
えっ、どうしたのハルさん?
「レヴィ様をダズリ村には連れて行けません。分かりました、だから王子は行き先を教えなかったり、レヴィ様と2人で出かけるなどと言ったのですね」
「そうだよ。メイドは多分、クワイ村に行くと思ってただろうがな」
「ハルさんどうしたの?ダズリ村には何があるの?」
少し話しにくそうにしながらも、ハルさんは言葉を少しだけオブラートに包みながら、その村の事を教えてくれる。
その村はシーサイドに1番近い村だけあって、国が町と判断しても構わないのではないかというくらい広い村らしい。
広い村なので、人が沢山いるから賑やかで華やかだが、やはり悪い人はその分多いのはもちろんの事、お店もギャンブルをする所や、お客さんにベタベタ触ったり、裸になったり、過激な事をするお店が多い。
「そ、そうなんだ」
日本でいう所の、歌舞伎町みたいな場所かな?行った事ないから分からないけど、イメージ的に。
「レヴィ様はただでさ愛らしいから危ないのに、治癒師だと知れたら更に危ない事にあります。絶対却下です」
なんか、過去の嫌な記憶が蘇ってくる。
「お、王子。私、以前に誘拐にあったりした事があるので、出来ればそういう場所は避けて頂けたらなと思います。お願いします」
お願い!もう、痛い思いはしたくない。
「いや、だが、健全に遊べる所もあるんだが、その」
僕は両手を合わせ、王子に祈る様な格好をする。
「お願いします」
僕の必死の懇願を聞いた王子は、少しの間唸っていたが、やがて折れてくれた。
「あー、分かった分かった!ちょっと馬車を停めろ」
「ありがとうございます王子!」
やった、祈りは届いた。
「ふ、ふん。部下の頼みを聞くのも、上の者の役目だからな」
「王子、優しいんですね。ちゃんとそういう事も考えて下さっているなんて素晴らしいです」
今回の旅で、王子の評価は上がったり下がったりだが、上がりの方が大きいかな。
「す、素晴らしい・・・か。ふふん、当たり前だろう!なんて言ったって、今後俺は人の上に立つ様になる人間だからな!」
ハッハッハと、両手を上に上げ訳の分からないポーズをし、上機嫌になる王子。
やっぱり下がりの方が大きいかな?
◇
「話しは分かりました。良いですよ」
王子は、馬車を停めて外へ降り兵士さんに話しをすると、兵士さんは快く快諾してくれた。
ありがとう兵士さん。
「今、兵士を1人ずつダズリ村と、クワイ村に伝言役を出しますね。明日、少し走る距離が増えますが、近くにクワイ村と言う静かな村があります。私達は、そこに行きますか」
「はい、すいません。ありがとうございます」
僕は、兵士さんにお礼を言いながら頭を下げた。
「いえいえ、そう言う理由があれば仕方ないです。それに元々、王子の推薦がなければ避けていた村ですから」
やっぱり王子の推薦だったんだ。
「べ、別に、良いだろう!1回は行ってみたかったんだ。それよりも、クワイ村では少し気を付けろよ」
「えっ、何でですか?そこでも、いかがわしいお店があるんですか?」
「ち、違うわい!あそこには、獣人も住んでるんだ」
何ですと?
「えっ、獣人ってあの獣人ですか?」
獣人って、あのケモミミがカッコ可愛いくて、素晴らしい人達の事ですか?
「何言ってるか分からんが、多分お前が想像している奴らだ。あいつらはろくな奴らではないからな」
そうなの?
僕は理由を知りたくてハルさんを見る。
「何百年も前に、獣人は人間に戦争で敗れ、敗れた対価として奴隷にされました。今もその名残はあり、獣人を奴隷にしている方も多いです。その為、獣人は人間を嫌います」
そうなんだ。
当たり前だけど、どこの世界でも戦争はあり、負けた国とそこに住む人は辛い思いをする。
僕は今の所、前世も含めて戦争には参加した事はない。
でも、今後兵士さん達が戦争に駆り出されたら、僕も参加するのかな。
怖いな、戦争は嫌だな。
「そんな顔をしないで下さい。先程、王子も仰っていましたが、獣人『も』なので人も住んでいます。クワイ村では、そう言う差別を無くそうとしている村です」
「そ、そうなんだ。良かった」
「はい。なので、そういう悲観的な顔や態度は、逆に獣人を傷つけますよ?」
そうか、そうだよね。
人の中には共存を願う人もいる、それなのに僕がこんな顔してたら、頑張っている人達に失礼だよね!
「分かった、ごめんハルさん。気をつけるよ」
「レヴィ様には、やはり笑顔がお似合いです。さあ、馬車に乗り行きましょうか」
「うん」
「おい、待て。俺を忘れるな」
あ、途中から完全に王子を忘れてた。
最近、異世界で幼女が活躍するマンガを買いました。
すっごく面白い!
自分も、少しでも近づける様に、そして読んでくださっている人達に、面白いと思える様にしたいなと思いました。