最悪な出来事 後編
今思えば、施設長に相談しておけば良かった。
なんでか、生まれ変わってから、知識は前世並にあるのに思慮が凄く欠けている。
「嫌っ!」
レヴィは、触ろうとしてきた男達の手をかわして酒場からダッシュで逃げた。
すると、男達は「この鬼ごっこも楽しいんだよな!」とかクズみたいな事を言いながら追いかけてきた。
◇
「はぁ、はぁ、なんでこんな事に」
乱れた息を口で抑え、逃げていた時に見つけたゴミ箱に入りながら呟いた。
「どこだ?ちゃんと隠れないと見つかっちゃう、ぜ!」
笑いながらそこら辺の物を蹴飛ばし、明らかに楽しんでるのが分かる。凄い物音がするたびにビクッと体が竦む。
(サノハめ、絶対騙す気で僕を連れて来たな。しかも男5人って、変態多過ぎでしょう!どうやって逃げようかな。そもそも、あまり街に出かけた事なんてないから分からない)なんて考えていたら、
「みぃ〜つけた」
男の1人に見つかりゆっくり蓋を開け、ニタァと笑いながら覗き込んでくる。
「ッ!」
男は、怯むレヴィを抱き抱えて来た。
レヴィは、もがいてみるも、抱えられる力が強すぎて抜け出す事も出来ない。
(僕はこいつに好きなようにやられるのか?嫌だ!誰か助けて)
もうダメかと思った時、
「その子を離せよ」
そこにいた皆んなが声が聞こえた方は振り向くと、施設長がいた。
(施設長!でも、どうしてここに?なんか雰囲気と口調が違う)
「なんだお前?邪魔だ!失せろ!」
男達の1人が、カダートに殴りかかっていく。
「施設長危ない!逃げて」
レヴィは殴られるであろうカダートに、無駄だと分かっていながらも叫んだ。
「ぐはっ」
しかし、聞こえてきた声は、殴りかかっていった男の声だった。
「おい大丈夫か?ワキッヤック。てめぇ、何者だ!」
レヴィを抱えている以外の男達は、殴られたワキヤク?を介抱するために近づいて行き、施設長に向かって叫んだ。
「俺はカダート、その子の保護者だ」
「何が保護者だ!バカや・・・おいまて、今カダートって言わなかったか?」
介抱している男が急に狼狽始めた。施設長の名前に聞き覚えでもあるのだろうか?
「カダートって、少し前まで勇者として活躍していた無双勇者カダートか!?」
「なに!あの無双勇者カダートか!」
男達の顔色が、見る見るうちに青くなっていく。
「だ、だったら、勝てる訳ねぇよ。お、俺は逃げるぜ!」
「ま、待てよ!俺も行く、置いてくな!」
レヴィを抱えていた男も、レヴィを地面に落として逃げていく。
「痛っ!」
(え?施設長って元勇者なの?びっくりなんだけど!)
地面に落とされたレヴィは、落とされた痛みよりもカダートの過去の方が衝撃的だった。
「大丈夫かい?レヴィ」
レヴィに近寄って来たカダートは、優しい声でレヴィ声を掛けた。
「は、はい。大丈夫です。少し怖かったですけど」
「来るのが遅くなってすみません。さぁ、こちらへ来なさい。涙を拭いてあげますから」
「えっ?」
レヴィはカダートに言われ、自分の顔を触ってみた。
すると、頬に冷たいものが流れていた事に気づいた。
レヴィはゆっくりと、おぼつかない足をカダートへ向け歩き抱きつく。
(なんだろうこの安心感は?なんか知らないけど、もう絶対安全だと思える)
「さあ、帰りましょうか」
カダートはレヴィを抱っこするとそう言い、歩き始めた。
普通、生きていたら20後半の男がおっさんに抱っこされるなんてあり得ないよな。しかし、今はなんの抵抗も感じない。
もしかしたら、精神年齢は年相応の女の子にになってるのかな。