23頼まれた破壊
ダイゾウ師匠が酒場を制圧した後、少し休憩を挟むも足腰に力が入らなく立ち上がれなかった僕は、タワロさんのお父さんに、タワロさんの下へ連れて行ってもらい診察を始めた。
タワロさんの体のあちらこちらには、殴られて出来た痣がたくさんあり、肋骨も折れていて結構重傷だった。
この傷では、ヒールは弱いかな。
そう思った僕はミドル・ヒールをタワロさんにかけた。
「タワロさん、治療終わりました。痛む所はありますか?」
僕が聞くと、タワロさんはゆっくりと体を起こし手をグーパーさせたりしながら確かめる。
「いや、ない」
「良かったです。あ、でも失った血液までは戻りませんから注意して下さいね」
「ああ」
僕は注意点だけを言うと、タワロさんの治療を終えた。
すると、治療したばかりのタワロさんはフラフラとしながら立ち上がり、椅子に座っていたダイゾウ師匠の下へと行くと両膝を地面に着いて跪いた。
「師匠、この度はご迷惑をお掛けしてすいませんでした」
跪いていたタワロさんは、更に頭を下げダイゾウ師匠に謝罪をする。
「そんな事より、誰だコイツ。お前との関係はなんだ?」
ダイゾウ師匠が、タワロさんにこの人との関係を聞いた。
「そいつはバール。私が入っているチームのボスです」
まぁ、今までの流れからいうとそうだよね。
道場にいた門下生の人達が言っていた、最近のタワロさんの行いは本当だったんだ。
「何故、コイツのチームとやらに入った?」
「・・・毎日毎日、同じ事の繰り返しで退屈だったので、刺激が欲しくて、入りました」
「ふん、くだらん。では、なんだ。お前がそんなにボロボロなのは、その刺激とやらの一環なのか?」
そんな訳ないのは知っているだろうが、ダイゾウ師匠が少し嘲笑うような顔で言う。
「ち、違います。これは、チームの幹部クラスの人達に毎月払う上納金が払えなかったためです」
「刺激が欲しくてボスに金払ってたのか?馬鹿だな。それよりそれよりお前に聞く事がある。こいつらのチームにいた際、わしが教えた武術を使って人を傷付けたりしなかっただろうな?」
ダイゾウ師匠が問うと、タワロさんはビクッと体を揺らし押し黙った。
「してないよな」
ダイゾウ師匠が少しきつめに再度問いかける。
「・・・しました。すいません」
タワロさんのその言葉を聞くと、ダイゾウ師匠が腰掛けていた椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「誰に?」
「知らない奴です」
「何故?」
「上納金に必要な金を奪う為です」
バキッ
「あぐっ」
ダイゾウ師匠がタワロさんを蹴り飛ばした。
「お前は、自分の私利私欲の為に、わしが教えた武術を使ったのか!馬鹿め、恥を知れ!」
今まで見た事ないくらい怖い顔になり、大きな声で怒鳴るダイゾウ師匠。
「すいませんでした!もう致しませんのでお許し下さい!」
「許さん、破門だ!お前の声なんぞ聞きたくもない!」
「そっ、それだけは」
殴り飛ばされ座っていたタワロさんは急いで立ち上がり、ダイゾウ師匠に縋り付く。
「うるさい、黙れ!破門以外ない。もう、お前に用はない帰れ!」
ダイゾウ師匠が折れないと悟ったタワロさんは、力なく座り込む。
「・・・はい」
そして、ダイゾウ師匠に破門を言い渡されたタワロさんは、大粒の涙を流しながら返事をした。
◇
泣きじゃくるタワロさんの事を、ダイゾウ師匠がお父さんに任せると、お父さんはタワロさんと二言三言話し肩に抱え、酒場から出て行った。
それを見送った後、ダイゾウ師匠が目線をバールさんに移し言った。
「さて、次はコイツを起こすとするか」
「えっ、その方を起こしてどうするんですか?」
タワロさんは救出したんだし、あとはこの人を兵士さんに連絡して身柄を渡すだけだと思っていたんだけど。
「ああ、少し聞く事があってな」
そう言うとダイゾウ師匠は、気絶していたバールさんの顔を思い切りビンタした。
バチンッ
「いてー!」
凄く痛そうなビンタをされたバールさんが飛び起きる。
「な、なんだ!」
びっくりして起きたバールさんは、原因を探すためキョロキョロ当たりを見回し、やがて目の前で仁王立ちしていたダイゾウ師匠に目が止まる。
「お、お前か。おい、俺をこんな目に合わせてタダで済むと思うなよ!」
バキッ
「うごっ」
「喧しい、ボケが。今からいくつか質問する。質問以外の話しをしたら骨を1本ずつ折っていくから覚悟しておけ!」
「は、はいー!」
今度はバールさんの横っ面を思い切り殴ると、そのまま髪を掴み怖い事を言うダイゾウ師匠。
バールさんが一瞬にして、顔を青ざめさせる。
いや、しかしダイゾウ師匠怖っ!
いつもニコニコなダイゾウ師匠が怒るとこんなに怖いんだ。
「お前、最近町に火を放たなかったか?」
「は、はい。放ちました!」
・・・ん?
「理由は?」
「知らない奴に頼まれたんだ。持ち手にスイッチが付いた変な剣を渡されて、このスイッチを引けば火がでる。これを使って町を破壊しろと。報酬も良かったし、下っ端の奴らにやらせれば何かあっても俺が捕まることも無いから、楽して大金を稼げると思って」
どこかで・・・。
あっ!
どこかで聞いた話だと思ったら、まさかの数日前に起きたあの事件の事だった。