21達人の強さ
いつの時だったか、ハルさんがならず者達を鮮やかに倒した時があって「ハルさんは達人だね」と言った事があった。
しかし、ハルさんはその言葉に首を横に振り言った。
「私なんかまだまだですよ。達人の戦いは次元が違います」
「またまたぁ〜、謙遜でしょう?でも、ハルさんがそこまで褒めるって事は、達人って凄いんだね」
「謙遜はしていませんし、私の褒める褒めないは置いといて、達人は凄いです。機会があれば一度見てみた方が良いです」
「へー、そんなに凄いんだ。見てみたいな」
「きっと、驚きますから」
僕は、そんなやり取りが過去にあった事を、目の前で起きている光景を見ながら思い出していた。
「死ねやぁ!」
バキッ
「うぐぅ」
ドサッ
「この野郎!」
バキッ
「ギャー」
ゴロゴロ
ダイゾウ師匠が、最初の位置から1歩も動く事なく襲いかかってくる相手を制圧していた。
ダイゾウ師匠、強い。
ハルさんが言っていた、達人の戦いは次元が違うと言っていた意味が分かったかも知れない。
だって、僕の知る限りで1歩も動かずに相手を制圧する人、見た事ないもん。
だが、相手達も馬鹿じゃない。
「クソジジイ!」
接近戦が無理だと悟った相手連中の1人が、近くにあったテーブルから酒瓶を取りダイゾウ師匠へ投げつける。
「ダイゾウ師匠、危ない」
「なんのなんの」
だが僕の切羽詰まった声に対して、ダイゾウ師匠は呑気な声で返した。
「ほれ」
ダイゾウ師匠は練習用の棒を酒瓶の口の中に入れ、クルクル回してから勢いをつけて相手へ投げ返した。
ガシャン
「があー、いてぇ!」
酒瓶を当てられた相手は、頭を抱えてバタバタとのたうち回る。
うわっ、痛そう。
でも、これが他にいた相手達に効いたのか、後退り始めた。
「や、やべーよこのジジイ」
「あ、ああ。これはさっさとタワロ返した方が良いかも知れねーな」
「確かにな」
お、今ならタワロさんを治療しに行けるかも。
僕は、皆がダイゾウ師匠に意識がいっているのを確認すると、タワロさんの所へ静かに近づいて行く。
もう少し、タワロさん待ってて。
僕は、皆がダイゾウ師匠に釘付けになっているのと、あと少しでタワロさんに接触出来る事に意識が行き過ぎて、最も警戒しなくてはならない人を忘れていた。
「うっ」
いきなり強い力で引っ張られ、硬い何かに当たるとすぐに僕の首に何かがギュッと巻き付く。
く、苦しい。
「おいおい、ウチのタワロちゃんに何しようとしてんだ?このアマが」
だ、誰?
「ボスッ!」
ボ、ボス?
ああ、という事は今僕の首を絞めているのって。
相手達のその呼び方で、僕は少しだけ自分の現状が理解できていく。
僕の首に巻き付いているのは相手達のリーダーであるボスの腕で、硬いのは多分ボス体の何処かだろう。
「おいジジイよ。随分、舐めた真似してくれてんじゃねーか。だがな、これが目に入らねーか?」
「レ、レヴィ!」
ここに来て、初めてダイゾウ師匠の顔に焦りが出た顔になった。




