19タワロの噂
「打ち込みち始め」
「「はい」」
ダイゾウ師匠の指示のもと、僕を含めた門下生達は一斉に練習用の棒を使い練習を始める。
皆スムーズに打ち込みをしている中、まだ始めたばかりなせいか僕は、皆よりスムーズに打ち込みが出来ない。
そのため、
「レヴィ、打ち込みがあまいぞ!」
ダイゾウ師匠の指導を他の門下生よりも受けていた。
「はい。すいません」
ダイゾウ師匠に言われた所を意識して、もう1回打ち込みをする。
「次は、戻しが遅い!」
「は、はい。すいますせん」
と、毎回怒られる日々をおくっていた。
「よし、ヤメ。5分休憩だ!」
「「はい」」
や、やっと終わった。
僕は、近くにある壁まで行くとゆっくり寄りかかりながら腰を落とし座る。
「よう、下手くそレヴィ。今日も、かなり怒られてたな!」
タワロさんが、ゆっくり休んでいた僕の所へニヤニヤしながら近づき声をかけて来た。
うげっ、また来た。
この人は、いつもダイゾウ師匠がいなくなった時や、こういう休憩時になると必ず馬鹿にしに来ね。
正直言ってかなり迷惑。
「・・・何ですか?」
「まーた今日も、同じ事言われてたな?やっぱりお前、才能無いぜ。ハハハッ」
指を僕に差しながら、ケラケラ笑うタワロさん。
「毎回、言われなくても分かりますよ。私の事は放って置いて下さい」
「おいおい、せっかく先輩の俺様がお前にありがたいアドバイスをしてやってんだ。そこはありがとうございます。だろ?」
どこがアドバイスなのだろうか。
嫌がらせにしか見えない。
「はいはい、ありがとうございます。では、そろそろ休憩時間が終わるので、私は行きますね」
「あっ、おい。まだ話しは終わってねーぞ!」
僕は、まだ何か言いたげなタワロさんとの会話を強制的に切り上げ、さっきまでいた定位置に戻る。
はぁ、いつまでタワロさんは僕に絡んで来るんだろうか。
こんな事が続いたら、憂鬱だな。
だが、そんな憂鬱も意外な程早く終わりを迎えた。
◇
次の日。
今日も稽古場に来ていた僕は、隅でストレッチをしながら稽古が始まるのを待っていた。
本当なら、稽古が始まる時間まで自主練したいのだが、ダイゾウ師匠が自分の見ていない所での練習を禁止しているため、待っているしかない。
なんでも、数年前に門下生の1人が練習と称して町の人を襲っていた事があったらしい。
きっと、強くなっていくうちに気持ちが大きくなってしまったんだろうな。
そんなこんなで、入念にストレッチをしていた僕の耳に、近くにいた坊主と長髪の門下生2人の話し声が聞こえてきた。
「そういえば、今日タワロの奴来てなくね?」
「あ、ホントだ」
2人は、きょろきょろ見回しタワロさんを探すが、やっぱりどこにもいない。
「まあ、どうせ風邪かなんかだろ?」
坊主の門下生がそう言うが、長髪の門下生はニヤッと笑いながら言った。
「いや、分かんねーぜ。最近、あいつに変な噂あるじゃん」
「え、知らない。何々?」
「これは噂だが。実はあいつ、なんかヤバい奴らと一緒に連んで色々やってるらしいぜ」
えっ、そうなの?
僕は、あまりの衝撃ワードに耳を傾ける。
「ヤバい奴らって?」
「そこまでは分からねーが、危ない事やってるって話しだ」
「怖っ!俺、次からタワロに近づかない様にしよ」
確かに、怖い。
でも僕の場合、あっちから来るし逃げられないんだけどね。
「なーんてな。あくまで噂だし、俺はその場面を見たわけじゃねーから」
「な、なんだよビビらせやがって」
ま、全くだよ。
あー、怖かった。
「あはは、悪い。多分、風邪だろ。風邪」
「だよなぁ」
長髪の門下生がカラカラ笑いながら言い、坊主の門下生はホッとした様な顔になる。
その会話が終わったと同時くらいに、いつも持っている練習用の棒を片手に、ダイゾウ師匠がガラガラと襖を開け稽古場に現れた。
「今から練習を始める。整列しろ」
皆が整列し始め、僕も整列しようと歩き始めた時、またも襖がガラッと開くと、知らないおじさんが稽古場に現れダイゾウ師匠を見つけると、おじさんは駆け寄り言った。
「あ、あなたがダイゾウ様ですか?」
「そうだが、何の様かな?ワシは今から稽古を始める所なんだが」
知らないおじさん、もといタワロのお父さんは地面に手を着き頭を下げた。
「息子を、タワロを助けて下さい。お願いします」
「タワロ?何かありましたかな?」
「今しがた、ガタイが大きい柄の悪そうな奴らが家に来て、タワロを連れて行ったんです」
皆がざわっとなり、僕もさっきの2人の話しを思い出し緊張する。
「連れて行かれた理由を聞いてもよろしいかな?」
皆が緊張で固まっている中、ダイゾウ師匠だけが冷静だった。
「それが、分からないんです。理由を聞いても、こちらの事は無視されてしまって」
タワロさんのお父さんは、首を横に何度も振った。
それを見ていたダイゾウ師匠は、目を瞑り腕を組み、少し間を空けてから言った。
「・・・分かった。場所は分かるかな?分かるならワシをそこに連れて行きなさい」
「は、はい。ありがとうございます。タワロが連れて行かれる際に、あいつらがとある酒場の名前を出していたので、多分そこに連れて行かれたんだと思います」
タワロさんのお父さんの顔が笑顔になる。
しかし、さすがダイゾウ師匠。
そんな怖い話しを聞いても表情一つも変えず、むしろ立ち向かおうとするんだから。
頑張ってダイゾウ師匠、陰ながら応援しています!
「そうだ、レヴィ。お前も来なさい」
「へっ?な、何でですか?」
僕は惚けた。
だって、僕は関係ないじゃん。
しかし、ダイゾウ師匠は当たり前だろ?みたいな顔する。
「タワロが大怪我していたら、お前が治療してあげなさい。返事は?」
「え?あ、は、はい」
ダイゾウ師匠の命令に、僕ははいとしか言えなかった。
てか、僕ダイゾウ師匠に治癒師なんて言ったっけ?
ようやく、やらなくちゃならない事が終わった。
スッキリ!




