16険悪
あれから、原っぱで知り合ったお爺さんと僕は、軽く雑談を交えながら自己紹介をしていた。
「わしの名は、ダイゾウ。お嬢ちゃんの名は?」
「私はレヴィと言います。よろしくお願いします」
僕は言葉と共に頭を下げた。
「よろしくな。早速だが、いつから習いに来るかな?」
ダイゾウさんが、顎をさすりながら聞いてくる。
「なるべく早く習いたいです」
「なら、町に着いたら地図を描いてあげるから、明後日そこへ来なさい」
「分かりました」
「うむ。では、そろそろ帰ろうかね」
「はい」
その後、僕とダイゾウさんは、たわい無い会話をしながら歩き出し、町に帰ると地図を描いてもらった。
◇
練習日、僕は地図を頼りに歩いて目的地まで来たのだが、その目的地に衝撃を受けていた。
「あ、あれ?ここで合ってるよね」
信じられない僕はもう1回、地図を見直す。
だって、その目的地はなんと道場だったのだから。
何処にでもある家だと予想していただけに、この衝撃は大きかった。
しかし、何度地図を見返しても目的地はこの道場だった。
「えー、道場は入りにくいな」
「おい、お前何してる!」
「ひっ!」
ウロウロしていた僕に、いきなり誰かが声をかけて来た。
ビ、ビックリした。
「あ、あの。怪しい物ではありません。先日、ダイゾウさんという方が、私にロッドの使い方を教えてくれると言って下さり、教えて頂こうと思いここに来た所存で御座います。あの、ここにダイゾウさんはいらっしゃいますか?」
ただでさえ、地図頼りに来たら道場の前で面食らっていたのに、ここの道場の関係者らしき人に声をかけられ焦った僕は、早口で少し変わった話し方をしてしまった。
「ダイゾウさんだぁ?そんな訳あるか!ダイゾウ様は我らが師匠。教えを乞うためには、難しい試練を突破しなくてはならないんだ。お前みたいな、外見すら変な奴にダイゾウ様が教える訳ない」
僕の回答が気に食わなかったお弟子さんは、更に顔を険しくさせ怒鳴ってきた。
「そ、そうなんですか?でも、ダイゾウさん確かに習いに来ても良いと仰っていましたが」
「そんなの冗談だろう。もしくは偽物の誰かだ!」
どうしよう、この人信じてくれない。
ここは、ひとまず帰ったほうが良いかな。
そんな事を考え始めた頃、聞き覚えのある人が、僕とお弟子さんの間に割り込んできた。
「ほっほ。どうした、何か揉め事変え?」
「あっ、ダイゾウさん!」
「おお、お嬢ちゃん来てくれたんだな。さあ〜、おいで。まずは、道場の皆に自己紹介をしようか」
よ、良かった。
ダイゾウさんが来てくれた。
「は、はい。ありがとうございます」
ダイゾウさんが、道場の中へと案内してくれようと僕の肩に手を置き歩こうとする。
「待って下さい師匠」
だが、それをお弟子さんが止めた。
「何だ、タワロ?」
「そいつは、まだ入門試験受けてませんよね?確か、ここの道場では入門試験受からないと弟子入りは出来ないしきたりでは?」
「お嬢ちゃんは、わしがスカウトしたんだ。試験なんてなし。パスだ」
「し、師匠」
そこからは、ダイゾウさんはタワロさんの言葉を聞かず、僕を連れて道場へ入る。
◇
「と、いう事で今日から新しく入門するレヴィだ。ほら、レヴィ自己紹介しなさい」
「は、はい」
道場の中へ入ると、ダイゾウさんは20人くらいいる、お弟子さん達を集めて僕の自己紹介をする事に。
「レヴィと言います。先日、教本を見ながらロッドの練習をしていた時、ダイゾウさんからお声を頂き、教えて頂ける事になりました。全くの素人ですが、よろしくお願いします」
自己紹介を終え、僕がお辞儀をすると、タワロさんを含む数人以外はパチパチと拍手をくれる。
「よし、お前ら時間取らせたな。稽古に戻ってよいぞ。解散」
「「はい」」
師匠の一言で、再び各々の仕事に戻るお弟子さん達。
何だろう、格好良い。
「所でレヴィや、これからはわしを師匠と呼びなさい。わしもこれからは、お嬢ちゃんではなくレヴィと呼ぶ」
「分かりました、ダイゾウ師匠」
「よろしい。では着替えたら早速、稽古に入ろうかの。誰か、この子を更衣室に連れて行ってやってくれ」
「私が、連れて行きます」
タワロさんが、手を挙げ立候補してくれる。
「うむ。ではレヴィ、タワロに更衣室へ連れて行ってもらいなさい」
「はい。タワロさんよろしくお願いします」
「こっちだ」
僕は、稽古場の出入り口に向かい歩き出すタワロさんに着いて行く。
やがて稽古場から出て、廊下を少し歩いた所で、タワロさんは立ち止まり後ろを振り返るり話しかけてきた。
「おい」
「はい、何でしょうか?」
「俺は、お前を師匠の弟子なんて認めないからな。覚悟しておけよ」
うわぁ、顔が怖い。
「・・・はい」
なんか、今から波乱な予感しかしないんだけど。




