4やる気が出る紙
師匠の部屋での会話から数日が経った。
僕は今、朝から晩まで訓練場が使える時間帯は、ずっと人型の人形を相手に修行をしている。
「ヒール」
「違う!何回も言わせないで、もっと的(人形)へ的確にヒールを放ちなさい。実戦では、あの的は動いているのよ」
そんなの知っている。
でも、狙った所にボールを投げられないのと一緒で、ヒールも狙った所に放つのは、かなりの集中力がいる。
今まで、体に触ってヒールを放つのとは難しさのレベルが違う。
「ヒール」
そう思いながらも、なんとか2、3回くらい連続でヒールを人形の体に当てることが出来た。
「そうよ、やれば出来るじゃない。なら次は、あなたが動きながら対象にヒールを放ちなさい」
「えっ、無理」
「あっ?」
「じゃないです!やります」
出来る訳ないよ。
まだ、離れた場所にいる人にヒールをかけることさえ五分五分なのに。
その後、なんとか7回に1回くらいは、ヒールが人形に当たる様になり(全然ダメだけど)その日の修行が終わった。
「今日は、ここまで。今月中には、動いている的にヒールを飛ばせる様にするわよ」
・・・マジですか?
「返事は?」
「は、はいー!」
「よろしい。はい、解散」
「あ、ありがとうございました」
精も根も尽きた僕は、へとへとになりながら自室へ戻ると、シャワーを浴び、ご飯もそこそこに寝た。
こんなの続けていたら、来年までにハルさんを助けに行く前に、僕は廃人になってしまうのではないか。
そんな事を考えていたら、いつの間にか寝ていた。
◇
「な、なぁレヴィ」
「なに?」
あの厳しい修行から、半月くらい経ったある日、一緒にお昼ご飯を食べていたエイトが話しかけてきた。
「あの、なんて言うか、ここ最近頑張ってるけど大丈夫か?」
いきなり、なにを言っているのだろうか。
大丈夫?そんなの決まってる。
「ハハッ、ダイジョウブだよ」
僕はとてもゲンキです。
「いや、ダメだろ!会話の端々がカタコトになってるぞ」
「えー?そんな事ナイヨー」
「いや、絶対カタコトになってるから」
エイトが、心配そうに僕の肩を掴み揺らした。
止めて、僕の魂が抜けてしまう。
「まぁ、真面目な話しするとかなりしんどいよ。でも、それは目標を達成するための布石だからね。頑張らないと」
「目標って、ハルさんの事か?」
「そう。こればかりは、誰がなんと言おうと成し遂げたいんだよね。例え、その前に師匠達が助けたとしても」
それは、それで構わないからね。
「なぁ、それ失敗とか」
「ないよ。だって助ける策を思いついたら片っ端からやるし」
失敗?なにそれ?
やる前から負ける事を考える人は、絶対に勝つ事はできないよ。
負けてもいいやと思う人は別だけど。
「そうか・・・。なら、そんなお前にプレゼントだ」
エイトは、ポケットから紙切れを取り出し、テーブルに置いた。
「これは?」
「裏返して見てみろよ。絶対に喜ぶから」
ニヤニヤしながら、エイトは裏返せとフォークを持つ手でジェスチャーする。
どうでも良いけど、行儀が悪いからそのジェスチャーはやめて欲しい。
「なんなの、ってこれは!」
僕はその紙を裏返し、驚愕した!
「ああ、1日限定だがスイスウィートのケーキ食べ放題チケットだ。ちなみに、行く日はいつでも良いが、事前に予約が必要だから、それだけは気をつけろよ?」
エイト、あなたは神だったのか。
僕は目をウルウルさせながらエイト神を見た。
「ほ、ほら。お前、最近頑張ってるから、うわっ!」
久しぶりの嬉しい出来事に、僕はエイトにガバッと勢いよく抱きつく。
これは本当に嬉しい。
「ありがとうエイト。大好き」
「ふぉ。だ、大好きだって?」
「うん」
よし、これをネタに修行を頑張ろう!
「あ、あの実は俺も、お前がだい」
「じゃっ、エイト僕そろそろ行くね!このチケット本当ありがとう。またね!」
やる気が出たぞ。
「す、ってええっ!レ、レヴィ」
ハグしていたのをやめた僕は、師匠との修行を再開するためダッシュで師匠の下へと走りだす。
その時、エイトが何かを言いかけていたけど、きっと僕への励ましだろう。
大丈夫、僕に届いてるよ!




