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幻想英雄の召喚士 ~努力が実を結んだ落ちこぼれは、非現実的すぎるゲームキャラたちを従えて最強の冒険者を目指す~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
第二章 獣人開拓村の森

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兎獣人ラ・トビ、貴族に剣を振り下ろされる

 焼かれた廃村に残った獣人たちは絶望していた。

 全員で地道にコツコツ貯めてきた金を使い、長い時間掛けて旅路をしてきて、途中で何人も仲間を失ってきた。

 ようやく辿り着いたのが、この絶望的状況だ。


 それでも――兎獣人の少年ラ・トビだけは諦めていなかった。


「み、みんな! 家は焼けちゃってるけど、土地はあるんだ! ライトさんも『この依頼料を役立ててくれ』って返してくれたし、きっと何とか――」


「何とかなるはずねぇよ……。住むところはどうすんだ。焼け跡がジャマで村は場所が確保できない。もしかして疲れ果ててる数十人が、ずっと森で野営を続けるのか……?」


「そ、それは……」


「それに保存食も残り僅かだぞ。元々少ない依頼料を返してもらった程度じゃ、もうどうにもできねぇんだよ。あの人間は好い奴だったが……結局は別種族の人間だ。最後はこうやっていなくなっちまう」


 焦げた嫌な臭いのする、焼け落ちた廃村の中で獣人たちは暗い表情をしていた。

 ラ・トビが全員を前向きにしようとしているのはわかるのだが、どう足掻いても無理な状況だ。


「そ、それでもライトさんのように、ボクたちに優しい人間だっているはず――」


「ザコ種族の獣人に優しい人間? そんなのいるはずないわよ~!」


 ラ・トビの声を遮った女性の声――それは呪いを得意とする召喚士ビーチェ・ギリッシュだった。

 格好は宮廷召喚士のローブ、それと首のシルバーチェーンに複数のドクロが飾られている。

 ウェーブのかかった長い金髪と、はだけさせている大きな胸も相まって魔女かシャーマンのように見えた。


「ギリッシュ家の使いとしてやってきたけど、住み心地はどうかしら~?」


「こ、こんな焼かれた廃村を売るなんて詐欺だ……!」


「あらぁ? 契約したときは焼けてなかったわよ~? 契約後にどこかの誰かが焼いちゃったのなら、それはアタシの知るところじゃないし~?」


 ビーチェは小さな兎獣人を見下し、表情を楽しげに歪ませていた。


「もしかして、お前が……!」


「今、疑った? ザコ獣人風情が、神にも均しい貴族で宮廷召喚士のアタシを疑った?」


 後ろに控えていた護衛の兵士たちが、ラ・トビを押さえ付けた。


「な、何を!?」


「何って? 獣人にとって神である人間を疑った――」


 ビーチェは兵士から剣を左手で受け取って、それを天高く掲げた。


「これは天罰。獣は死ね」


「う、うわぁぁぁああ!?」


 もがいて逃げようとするラ・トビだが、屈強な兵士はビクともしない。

 周りの獣人たちも助けようとするが、他の兵士たちが剣を突き付けていた。

 そのままビーチェは、ラ・トビの直上から剣を勢いよく振り下ろす。

 直撃――と思われたが


「セーフ……!」


 間一髪、すべり込んできたライトの腕に深くめり込んで止まっていた。


「な、なんでアンタがこんなところにいるのよ!?」


「ライトさん!! 戻ってきてくれたんですね!」


 驚きに顔を歪ませるビーチェと、希望に満ちた表情のラ・トビ。

 ライトは脂汗を流しながら笑っていた。


「かなり痛ぇ……。だけど身体を鍛えていて平気だ……。それで貴族のビーチェ様は、どうして子どもを斬り殺そうとしてたんだ?」


「このザコ獣人が、こともあろうにアタシを疑ったのよ。馬車を襲撃したのはお前だろうってね! ほんっと、ありえない! そんなの殺して当然じゃないの!?」


 ビーチェはヒステリックに吐き捨てた。

 ライトはその姿を観察してから、冷静に告げた。


「そうか。それは災難だったな」


「でしょう? ふふ、ライトもわかるようになってきたじゃない」


「ところで――ビーチェは右利き(・・・)だったよな?」


「え、えぇ……そうよ。それがどうかしたのかしら?」


「なのに、なんで左手(・・)で剣を持っているんだ? 利き腕じゃないおかげで俺の腕も切り飛ばされずに済んだが。ああ、そういえば……俺が追い払った襲撃者は右腕をケガしていたな?」


「そ、そんなの……偶然かもしれな――」


「しかも、襲撃者たちのマントの下は、そこの兵士と同じ装備。オマケにビーチェが得意な呪いまでかけられて情報を隠蔽されていた」


「……ッ!」


 核心を突かれたビーチェは一歩後ずさった。


「ここは彼ら獣人の所有地だ。まだ滞在するというのなら、ローブの下にある腕の傷を確認させてもらっても――」


「ふ、ふんっ! こんな焼け跡しかない場所に長居なんてしないわよ! 帰るわよ!」


 焦りの表情を見せたビーチェは、慌てる兵士たちと一緒に退散していった。

 安心したライトは気が抜けたのか、腕の痛みがぶり返してきた。


「やっぱり、メチャクチャ痛い……」


 リューナが申し訳なさそうにしながら、薬草でライトの治療を始める。


「私が咄嗟の対応を苦手なため……プレイヤーの盾となれず面目ないです……」


 ライトたちが廃村に戻ってきたとき、すでに剣が振り下ろされようとしていた。

 ライトは身体が勝手に動いて、ラ・トビを庇っていたのだ。


「急な出来事に思考がフリーズしてしまいました。いつも指示待ちだった癖が……うぅ……」


「俺も指示をする前に突っ走っちゃったし、お互い様だよ。……いたた」


「その……プレイヤー。腕は千切れませんでしたが、骨が折れてる――というか粉砕されてます。これは薬草でもしばらく時間がかかりそうです。無理をなさらないでください」


 リューナは本当に心配そうにしてから、そこらへんに落ちていた廃材を添え木にして、ライトの腕を固定した。


「ありがとう、リューナ」


「プレイヤー……」


 治療という近い距離で見つめ合う二人だった。

 リューナだけが、なぜか一方的に意識をしてしまって頬を桜色に染めていた。

 その雰囲気を、獣人たちの野太い歓迎の声がかき消す。


「うぉおおお! アンタ、戻ってきてくれたんだな!」


「やっぱり、人間にも好い奴はいるもんだ!」


「子どものために腕一本犠牲にするとは! すげぇ根性見せてもらったぜ!!」


 自分がした行動にも関わらず、ライトは少し照れてしまう。


「ライトさん、助けてくれてありがとうございます! ……でも、どうして戻ってきてくれたんですか? この廃村は自分たちじゃどうすることも出来ないって……」


「トビ、助っ人を連れて来た。……喜べ、プロフェッショナルだ!」


 ライトは自信満々で言い切った。

 その後ろで、獣人たちに次々と抱きつきまくるテンションマックス幼女――イナホがいた。


「うっひゃああああ! もふもふ天国! あつまる! 獣人さんのもふもふ村、ばんじゃーい!!」


「……ライトさん、あの方ですか?」


「ん、んんっ。たぶん大丈夫……たぶん」


 ライトは神妙な面持ちで答えるしかなかった。

モフモフのプロフェッショナル幼女

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【書籍情報】
j0jdiq0hi0dkci8b0ekeecm4sga_101e_xc_1df_
『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本一巻が5月12日発売予定です。
よろしくお願いします。

【新作始めました!】
『猫かぶり魔王、聖女のフリをして世界を手中に収める ~いいえ、破滅フラグを回避しながらテイムでモフモフ王国を作りたいだけの転生ゲーマーです~』
聖女(魔王)に転生したゲーマーが、破滅フラグを回避するために仕方なく世界を手中に収めるという勘違い系物語です。
― 新着の感想 ―
[一言] 確かに襲撃者殺したら面倒なことになってましたね 幼女のほうは…なんかこのテンションで、めちゃくちゃすごい建物作りそう
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