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《閑話》聖者サイド2:インキュバス


「……あら?」



〝盾〟の聖女――シヴァが聖者たちのもとを訪れると、そこには珍しい光景が広がっていた。


 七つある円卓の椅子のうち、二つが空席になっていたのである。


 自分と同じ〝盾〟の聖者が見つかっていない以上、一つが空席なのはいつものことなのだが、二つというのははじめてであった。


 ゆえにシヴァは問う。



「欠席なんて珍しいわね。寝坊でもしたのかしら?」



 すると、円卓の最奥に座っていた〝剣〟の聖者――エリュシオンが静かに口を開いた。



「相変わらず口の減らない女だな、貴様は」



 エリュシオンは聖者たちのリーダー格であり、また〝鬼人〟と呼ばれる亜人種でもあった。


 実力は間違いなく聖者たちの中でも最強――たとえ〝盾〟の聖女たるシヴァであったとしても、彼の一撃を防ぐことは不可能だろう。


 そんなエリュシオンに軽口を叩くのだから、シヴァの胆力もなかなかのものである。



「やつには一部を除き、ドワーフどもを殲滅するよう命じた」



「あら、同じ亜人種なのに何故? 滅ぼすのは人間だけじゃなかったの?」



「無論、人は滅ぼす。だがドワーフの技術力はいよいよ脅威の域に達しようとしている。このままでは我らの描く新世界に災厄をもたらしかねないと判断した。ゆえに高い技術力を持ち、やつがコントロール出来る一部の〝女〟のみを生かす」



「なるほど。だから彼を行かせたのね? 〝杖〟の聖者でありながら全ての女性を虜にする〝インキュバス〟の亜人――へスペリオスさまを」



 シヴァがそう言うと、エリュシオンは鼻で笑いながら言った。



「その〝全て〟に貴様が入っていないのが悔やまれるがな」



「当然でしょう? 私はこれでも〝盾〟の力を持っているのだから。たかが淫魔の魅了如きで落とされたら堪ったもんじゃないわ」



「ふん、女狐風情がよく言う」



「ふふ、褒め言葉として受けとっておくわ」



 最中、シヴァは「でもいいのかしら?」と不敵に続ける。



「例の坊やたちもちょうどドワーフの里へと向かったみたいだけれど?」



「問題はない。不死身の小僧は別だが、ほかのやつらは聖女とはいえ所詮は〝女〟だ。であればヘスペリオスの敵ではない。むしろ小僧を哀れにすら思うぞ。何せ、自分の愛する女どもを根こそぎやつに奪われるのだからな」



 珍しく笑みを浮かべるエリュシオンに、シヴァは呆れたように言った。



「それはまた随分と悪趣味なことね。あなた、意外と性格悪いの?」



「ふん、聖女でありながら我らに寝返った貴様よりはマシだ」



「あら、言ってくれるじゃない。でもあの子たちをあまり甘く見すぎない方がいいわよ? 〝愛〟というのは意外と馬鹿に出来ないものなのだから」



「……」



 そう告げた後、シヴァはヒールの音を響かせ、聖者たちのもとを去っていったのだった。


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