58 母を変えた者
ティルナを船まで運んだ後、俺は皆に事情を説明する。
恐らくはラストールの時同様、魔物の細胞を埋め込まれているのではないかと考えた俺は、彼女を浄化すべく、ティルナにお母さんを宥めてもらおうとしたのだが、
「それは出来ない……。最近は全然言うことを聞いてくれないから……」
というように、このままの状態でなんとかするしかないようだった。
ヴァエルと戦った時も、途中で意思の疎通がとれなくなっていたからな。
やはり魔物の細胞を他種族が制御するなんてことは出来ないのだろう。
ならば力技でなんとかするしかない。
「そっか。なら俺が気合いで浄化してくるから、ティルナはここで皆と待っていてくれ」
「……分かった。お母さんをお願い、イグザ……」
「ああ、任せておけ」
くしゃり、とその小さな頭を撫でてあげた後、俺は空へと舞い上がる。
ティルナのお母さんは……いた。
海面付近を出たり入ったりしているようだ。
とりあえず俺はゆっくりと近くまでいってみる。
「――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
――ざぱーんっ!
「おっと」
だがお母さんはすぐさま潜ってしまい、接触は難しそうだった。
こうなったら一か八かだ。
「うおおおおおおおおっ!」
ごごうっ! とヒノカミフォームへと変身した俺は、そのまま頭から海へとダイブする。
これだけ大きな標的が水中でもがいているのだ。
当然、獲物としては十分だろう。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
ほらきた。
「うぐっ!?」
お母さんがその長い身体で締め上げるように巻きついてくる。
――ぎちぎちっ。
ママの抱擁にしてはちょっと激しすぎじゃないかな……。
正直、全身の骨がばきばきに折れてる上、めちゃくちゃ噛みついてきてるし……。
って、そんなことを考えている場合ではない。
「グガッ!?」
俺は一瞬にしてスザクフォームへと変身した後、彼女の身体にしがみつく。
そして浄化の力を全開にしたのだった。
◇
「……ここ、は……?」
ゆっくりと目を覚ましたお母さんの様子に、全員がほっと胸を撫で下ろす。
この瞬間が一番緊張するが、どうやら今回も浄化が上手くいってくれたらしい。
「お母、さん……?」
「……ティルナ? そんな顔をして一体どうしたの?」
「お母さん!?」
――ぎゅうっ。
小首を傾げながら上体を起こしたお母さんに、ティルナが泣きながら抱きつく。
だがお母さんには魔物になっていた間の記憶がないらしく、おろおろとしていた。
なので俺たちはティルナが落ち着いた後、お母さんことセレイアさんに事情を説明した。
ちなみにセレイアさんは話に聞いたとおりの人魚で、上半身は美しい人の女性だが、下半身は桃色の光沢を放つ魚の尾だった。
そしてティルナは彼女と人の男性のハーフだというが、果たしてどうやって生まれたのだろうか。
生殖の形も色々と違うと思うのだが……不思議である。
「……そうでしたか。それはご迷惑をおかけいたしました」
ともあれ、セレイアさんが恭しく頭を下げてくる。
さすがに船の上では落ち着いて話が出来そうになかったので、今はティルナたちが住んでいたという秘密の入り江まで移動済みだ。
「いえ、気にしないでください。それより一体何があったんですか? どうして魔物なんかに……」
「申し訳ございません……。それがほとんど記憶になくて……」
「そうですか……」
しゅん、と小さくなってしまうセレイアさんだが、まあそれも仕方あるまい。
もしかしたら気づかぬうちに何かをされたという場合もあるからな。
むしろ彼女は被害者なのだ。
そんな顔をしないで欲しい。
そう伝えようとした俺だったのだが、ふとセレイアさんが「でも……」と口を開き始めた。
「誰か人の女性のような方に会った気がします」
「人の女性だと? それは間違いないのか?」
アルカの問いに、セレイアさんは大きく頷く。
「はい、間違いないはずです。おぼろげな記憶ではあるのですが、確かに黒ずくめの女性と会った気がするのです」
黒ずくめの女性……。
「それってあいつじゃねえのか? イグザが会ったっていううさんくせえ女」
「でしょうね。ティルナを仲間に加えさせるためかどうかは知らないけれど、随分と手荒な真似をしてくれるじゃない」
「まさか、本当にあの人が仕組んだってのか……?」
そんな悪い人には見えなかったんだけど……。
でももしそうだと言うのであれば、俺は彼女を許すわけにはいかない。
ティルナたち親子をこんな辛い目に遭わせたのだ。
それに彼女には聞かなきゃいけないこともたくさんある。
ゆえに俺は女子たちに向けて言った。
「とりあえず無駄かもしれないけど、イトルに戻ったら彼女を捜してみよう。もし彼女が本当に今回の黒幕だって言うのなら、ティルナたちに謝らせないといけないからな」
「「「「――」」」」
当然、皆思いは同じようであった。




