54 どう考えてもアイリスだろ!?
よし、とりあえず落ち着け。
確かにあの女性は七人の聖女が俺を囲い、七人が揃うことではじめて運命とやらに抗えると言った。
が、別にエルマ……〝剣〟の聖女でなければならないとは言われていないし、七つの聖具を全て集めろとも言われてはいない。
そもそも聖具は聖女用にと古の賢者が拵えたもので、女神さま方が作ったものじゃないからな。
超強力な武具類に違いはないのだけれど、ベルクアの技術者たちも限りなくオリジナルに近い聖弓を作っていた以上、今回の件にそこまで関係はないはずである。
ということは、だ。
――おめでとう、アイリス。君が七番目の乙女です。
……。
いや、だってそうだろ!?
どう考えてもエルマよりアイリスの方が俺を慕ってくれてるし!?
てか、あのエルマが俺のことを好き好き大好きなんて言うわけないだろ!?
あいつがそんなことを言ってきた暁には冗談抜きで世界が滅ぶわ!?
……と、いかんいかん、つい熱くなってしまった。
冷静に考えてみれば、別に俺の側に七人の聖女がいると言われただけで、全員が全員俺に好意を持っているとは言われていないのだ。
ならまあ非常に不本意ではあるのだけれど、エルマの可能性もなきにしもあらずということにしておこうと思う。
――だがちょっと待って欲しい。
アイリスは〝弓〟の聖女の力――《天弓》のスキルを持っている。
紛れもない聖女の一人なのだ。
むしろほかの妹たちを合わせれば、現時点で10人の聖女たちが俺の近くにいるということになる。
うん、七人どころの話じゃないし、もうこれでいいんじゃないだろうか。
まだ幼いアイリスたちを戦わせるのはどうかと思うけど、エルマよりは断然信用出来るし、背中を預けることだって出来るからな。
もうそれしかないと思う。
むしろそれでお願いしますマジで……。
というわけで、俺は断言した。
「――やっぱりアイリスだな」
「「「「……はっ?」」」」
その瞬間、女子たちが呆然と固まり、俺は自分の置かれている状況を敏感に察する。
「い、いや、今のは違うんだ!? どう考えてもアイリスしかいないっていうか……って、そういうことじゃなくてね!?」
「「「「……」」」」
――じとーっ。
当然、誤解が解けるまでしばしの時間を要したのだった。
◇
「それで、そのあからさまに怪しすぎる女に言われたことを鵜呑みにして、一人悶々と考えを巡らせていたというわけか」
「……はい、仰るとおりです」
言わずもがな、一人しょんぼりと小さくなっているのは俺である。
もうここまで来たら全ての事情を話すしかないと腹を括ったのだ。
「だがこれで合点がいった。何故《不死鳥》のスキルを持つお前があれほどの剣技を扱えていたのかと不思議に思っていたのだが、元々〝剣〟の聖女のパーティーにいたからだったのだな」
「ああ。エルマ……その聖女は俺の幼馴染でな。あまりに性格がわがままで人間扱いすらされなかったもんだから、耐えきれなくて抜けてきたんだ」
「そうでしたか……。それはさぞかしお辛かったでしょうね……」
俺の心情を慮ってくれたのか、胸を痛めている様子のマグメルに、俺は笑いかけながら言う。
「いや、でも今は皆がいてくれるから俺は幸せだよ。気遣ってくれてありがとな、マグメル」
「い、いえ、私はそんな……」
ぽっ、と頬を朱色に染めるマグメルを俺が微笑ましく思っていると、オフィールが不思議そうに言った。
「しっかしその女は一体何者なんだ? あたしたちのことを全部言い当てたんだろ?」
「ああ。しかもアルカが捜しにくることまで預言してたし、気づいたらいなくなってたんだよな……」
今思い出してみても本当に不思議な人だったと思う。
オフィールの言うとおり、一体何者だったのだろうか。
「そうね、現段階ではなんとも言えないのだけれど、ただ迂闊に信用しない方がいいと思うわ。どう考えても怪しさしかないもの」
「そうですね……。危うくアイリスルートにまで突入されるところでしたし……」
いや、それは関係なくない?
てか、〝アイリスルート〟ってなんだよ……。
「ただそこまで言い当てたやつが〝人魚に聖女が関係している〟と言ったのだろう? 罠かもしれんが、その情報を探ってみるのはありだと私は思う。いかんせんほかの情報がなさすぎるからな」
そうなのである。
結局ほかの皆も有益な情報を得ることは出来なかったのだ。
「そうだな。俺にはまったく見当もつかないんだけど、俺がすでに彼女のいる場所を知っているとも言ってたし、まずはそこから色々と考えてみよう」
「おう、了解だ。んじゃまずはその前に腹拵えしようぜ。腹が減ってちゃ戦も出来ねえからな」
そう不敵に笑うオフィールに、俺たちも大きく頷いたのだった。




