51 束の間の休息
ベルクアへと一時帰還した俺たちは、しばしの休息を取ることにした。
ラストールの民に関しても、ヴァエル王のように意図的に魔物に変えない限りは、今すぐどうこうなる状態ではないからな。
ここ数日で状況も目まぐるしく変化してるし、今後の旅に向けて一旦落ち着こうということになったのである。
というわけで、王族用の大浴場へと赴いた俺だったのだが、
――がらっ。
「うむ、背中を流しにきたぞ」
――がらっ。
「お背中を流しにきました……ぽっ」
――がらっ。
「おう、背中を流しにきてやったぜ!」
――がらっ。
「背中でも流してあげようと思って」
――がらっ。
「せめてお背中をお流し出来たらと思いまして」
「……」
いや、どんだけ皆俺の背中流す気なんだよ!?
てか、気持ちは嬉しいけどなんでアイリスまで!?
びくりっ、と一人驚く俺だったが、それは女子たちも同じだったらしい。
「おい、何故お前たちまでここにいる?」
「そ、それはこちらの台詞です! 大体、あなたさっき『ふむ、ちょっと夜風にでも当たってくるか』とか仰っていたじゃないですか!?」
何その微妙に上手いものまね……。
「まあ夜風に当たれば身体も冷える。ゆえに風呂にきた。そしたら〝たまたま〟イグザがいた。それだけのことだ」
「何を白々しい!? そういう抜け駆けはよくないと思います!」
ずびっとアルカを指差すマグメルだが、
「いや、そういうてめえも〝お花を摘みに行く〟とか言ってたじゃねえか」
「えっ?」
即行でオフィールに突っ込みを入れられていた。
「ふ、哀れな妾だ」
「あ、あなたに言われたくないですよ!? 嘘吐いてたのは同じじゃないですか!?」
「さて、なんのことやら」
「なんでもいいのだけれど、ここはベルクアの王女たる私に任せてご退場いただけないかしら?」
「「「……」」」
「な、何よ?」
じとー、とアルカたちに半眼を向けられ、ザナがたじろぐ。
すると、オフィールがそのままの顔で淡々と言った。
「いや、こういう時に権力を振りかざすやつって人としてどうなんだと思って」
うんうん、と残りの二人も頷く。
「べ、別に間違ったことは言ってないでしょう!? 私はこの国の王女として救国の英雄に恩を返そうとしているのだから!?」
「「「ふーん」」」
「くっ……」
相変わらず胡乱な瞳を向けてくる三人に、ザナの方が折れかけていた――その時だ。
「――でしたら私でも問題ないですね。失礼します」
「え、あ、うん……」
「「「「――っ!?」」」」
アイリスがすっと四人の脇を素通りし、俺の後ろで浴場の床に両膝を突く。
そして彼女はそのままタオルに石鹸を擦りつけると、きちんと泡立ててから俺の背中を洗い始めた。
「どうでしょうか? 痛くないですか?」
「あ、うん。とても気持ちいいよ。ありがとう」
「いえ、よかったです」
「「「「……はあ」」」」
そんな俺たちの様子に女子たちも諦めムードになったのか、とぼとぼと各々が身体を洗い始めたのだった。
てか、一緒に入るつもりなのか……。
◇
その後、さすがに何もしてあげないのはどうかと思い、アイリスの背中も流してあげようかと尋ねてみたところ、彼女は恥ずかしそうに顔を赤くしながらもこくりと頷いてくれた。
なので俺はアイリスの小さな背中を、まったく邪な気持ちのない状態で優しく洗ってあげていたのだが、
「「「「……」」」」
――じー。
「……」
あの、女子たちからの視線が痛いです……。
なんだそのやべえやつでも見るかのような目は……。
俺は純粋に背中を流してくれたお礼として彼女の背中も流してあげてるだけだぞ。
なのになにゆえ全員で〝もしかしてそっちなのか?〟みたいな顔してるんだよ。
そりゃ確かにアイリスはめちゃくちゃ可愛いけど、こんな純粋無垢で幼い子にまで手を出すほど落ちぶれとらんわ。
まったく失敬な、とぷんぷんしていた俺だったが、そういうことを考えれば考えるほど、アイリスの華奢で丸みを帯びた背中を直視出来なくなっているのも正直なところなのであった。
なんなんだろうね、男心って……。




