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39 交渉決裂


「どこへ行っていたの? もう夕食が始まるわよ」



 ホムンクルスの少女と別れ、自室へと戻ってきた俺は、ちょうど呼びに来ていたらしいザナと鉢合わせていた。



「ごめんごめん。ちょっとおトイレに行きたくなって」



「そう。とにかく間に合ってよかったわ。ほかの皆も先に行って待ってるから、私たちも急ぎましょう」



「ああ、分かった」



 頷き、俺はザナの案内で王族用の食堂へと案内される。


 そこにはすでに女子たちの姿もあり、オフィールにいたっては今にも料理に手が伸びそうな顔をしていた。


 ちなみに俺はお付きの人扱いなので、席順はゼストガルド王からもっとも離れた位置である。



「これでようやく全員揃ったようだな。では食事を始めるとしようか」



 ゼストガルド王の言葉でオフィール以外の全員が静かに料理を口に運ぶ。


 さすがは王さまの夕食と言ったところだろうか。


 食卓の上には肉や魚、果実など、とにかく豪勢な料理が所狭しと並べられていた。


 が、もちろんそこに例のホムンクルスたちの席はなく、彼女らは俺たちを監視するかのように柱の側で佇んでいた。


 なので俺は一応ゼストガルド王に尋ねる。



「あの、彼女たちは一緒に食べなくていいんですか?」



「ふむ、これは面白いことを言う。確かそなたは聖女たちの付き人であったな」



「はい、イグザといいます」



 俺が名乗ると、ゼストガルド王は「うむ」と頷いて言った。



「ではイグザよ、そなたは武器に席を与えるというのか?」



「えっ?」



「あれらは人の形をしているだけの兵器にすぎぬ。言わば〝物〟だ。であれば人と同じ扱いをするにあたわず。違うか?」



「で、でも彼女たちにも意志はあるんですよね? なら――」



 と。



「――はっはっはっはっはっ!」



 突如ゼストガルド王が笑い出し、オフィール以外の手が止まる。


 呆然とする俺たちに、ゼストガルド王は不敵に笑って言った。



「だから申したであろう? あれらは兵器だと。兵器に意志など存在しない。ゆえに死も恐れず、良心の呵責に苛まれることもない。まさに理想の兵士だ。――だが断じて〝人〟ではない」



「……」



 なら何故あの子はあんなにも美味しそうな顔をしたのだろうか。


 意志が存在しない?



 ――違う。



 存在させないようにしているだけだ。



「ふむ、何か我に申したいことがある顔だな?」



「まあ、そうですね。でもあなたも俺たちに何か言いたいことがあるんじゃないですか?」



「ああ、そうだな。どうせこの場で持ちかけようと思っていた話だ。多少順序は狂ってしまったが致し方あるまい。では単刀直入に言おう。――我らに協力せよ、聖女たちよ」



「「「「!」」」」



 恐らくはそうなるだろうと予想していたと思われ、女子たちも冷静にゼストガルド王の言葉を受け止めているようだった。



「それは、我らにホムンクルスとやらの実験台になれということか?」



「然り。だがもちろん手荒な真似はせぬ。そなたらは曲がりなりにも〝聖女〟だからな。人民たちが黙ってはいなかろう。ゆえに少しばかりそなたらの〝血液〟を提供してもらいたいだけだ」



「なるほど。それがホムンクルスのもととなるのですね」



「そうだ。ホムンクルスは特殊な製法で作り出した素体に人の血液を付与することで誕生する。当然、血液は情報の塊のようなものゆえ、スキルを含め、やがてオリジナルと同等の存在へと成長するというわけだ」



 ちらり、とゼストガルド王が一瞥したのは、無表情のまま佇んでいるザナのホムンクルスたちだった。


 今はまだ少女の姿をしているが、いずれザナと同じような成長を遂げるのだろう。



「それで、あたしたちのホムンクルスをてめえは一体何に使うんだ? まさか慰みものとかじゃねえだろうな?」



「下らぬことを。無機質な人形を抱いて何が面白い? むしろ未知の病原体にでもかかるのが関の山だ」



「お、おう、そうか……。ならまあいいんだけどよ……」



 思ったよりもがっつり否定され、珍しくオフィールが小さくなる。


 きっと肯定した暁にはスケベおやじだとでもからかってやるつもりだったのだろう。


 ともあれ、ゼストガルド王は改めてこう口にした。



「我らの目的は我が祖国ベルクアの繁栄にほかならぬ。だが南の大国――〝ラストール〟は〝巨人〟の力で我が国に攻め入ろうとしている。ならば我らもそれに勝る力で対抗するしかあるまい」



「巨人の力……」



 初耳だが、それも何か魔導工学というものの賜物なのだろうか。


 一人考え込む俺だったが、でもこれだけははっきりと言えた。



「つまりあなたは死を恐れない聖女たちのホムンクルスを争いの道具にしたいわけですね?」



「そうだ。一人で10人……いや、100人力とも言える聖女たちのホムンクルスと、限りなくオリジナルに近い聖具を組み合わせれば、もはや我がベルクアに恐るるものは何もない。命ある人間とは違い、ホムンクルスならばいくらでも代わりはいるからな」



「なるほど。お話は分かりました。ならそれらを踏まえて俺からも一言――」



 そこで言葉を区切った俺は、ありったけの憤りを込めて声を張り上げた。



「――いい加減にしろよ、おっさん! あの子たちはただの〝物〟なんかじゃない! それにな、そんなくだらないことのために俺の大切な女たちを渡して堪るかってんだ!」



「イグザ……」「イグザさま……」「お前……」



「……やれやれ、やはり交渉は決裂か。ならば力尽くでも協力してもらうぞ」



 その瞬間、ホムンクルスの少女たちが一斉に弓を構え始めたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] あれだね いいと思うけどなあ sf系の最終さえ回避できるなら ただ、そこまでの物が作れる文明なら何でも出来そうで こだわる必要もないとも思える
[一言] ゼストガルド王、悪いがアンタの考えについていくつもりはない!!
[一言] 弓の聖女は知ってから協力してたと来たらさすがにヒロイン入りは無理だな... やっぱり,菓子あげた子が新ヒロインだったり...
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